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(ニューヨーク)-2011年3月18日の抗議運動開始以来、シリアの南部の都市ダルアで、シリア治安部隊が組織的な殺害と拷問を行ってきた。その行為は、人道に対する罪に該当する可能性が極めて高い、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で述べた。

報告書「シリア政府による弾圧:ダルアでの人道に対する罪」(全57ページ)は、人権侵害の被害者と目撃者50人以上からの聞き取り調査を基に作成された。自由の拡大を求める抗議運動がシリア各地で起きた。その中でも、本報告書は、特に厳しい武力弾圧事件が複数行われたダルアでの人権侵害に焦点を当てている。シリア政府当局による情報封鎖により事態は隠蔽されたままであり、その残虐行為の詳細はあまり報道されていない。ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じた被害者や目撃者は、組織的な殺害、暴行、電気ショック装置を使った拷問、医療が必要な人びとの拘束が行われている実態を明らかにした。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東・北アフリカ局長のサラ・リー・ウィットソンは「この2ヶ月以上、シリア政府の治安部隊要員は自国民を殺害、拷問し続けている。そして何の処罰もないままだ」と指摘。「政府治安部隊は残虐行為を今すぐ止めるべきだ。しかし止めない場合、その責任者を裁判にかけて処罰するのは、国連安全保障理事会の責務だ。」

シリア政府は、治安部隊が殺傷力を持つ武力の過度な行使を止めるため、直ちに手段を講じるべきである。国連安全保障理事会は制裁を加えるとともに、シリア政府に対してアカウンタビリティ(法的責任追及)を果たすよう求めなくてはならない。シリアが適切に対処しない場合、シリアを国際刑事裁判所(ICC)に付託するべきである。

ダルアでの抗議運動が始まったきっかけは、政権失脚を求めるスローガンの落書きを理由に15人の子どもが拘束、拷問された事件だった。政府治安部隊は、以来、デモ参加者たち(その圧倒的多数が非暴力で丸腰の民間)に、繰り返し組織的に発砲している。殺害された人びとのリストを作成し続けてきた地元活動家たちによれば、政府治安部隊はダルアだけで少なくとも418人を殺害、シリア全土では887人以上を殺害している。ただし正確な数字を検証するのは現時点では不可能だ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じたダルアからの目撃者たちは全員、「政府治安部隊がデモ参加者や見物人に対して、殆どの場合、事前警告なしにあるいは非暴力的措置でデモ隊を解散させようとする何の努力もしないまま、殺傷力を持つ武力を行使した」と一貫した説明をしている。屋上に陣取った様々なムハバラート(秘密警察)要員と、屋根の上の多数のスナイパーたちが、意図的にデモ参加者を狙撃。多くの人びとが、頭部、頚部、胸部に致命傷を負った。ダルアをはじめとする都市で、対デモ隊作戦に参加した治安部隊要員らが、指揮官から「射殺命令」を受けていたというケースを、ヒューマン・ライツ・ウォッチは多数取りまとめている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが本報告書で詳細を明らかにした事件のうち、特に犠牲数が多かった事件の例は以下の通り。

● オマリ・モスク(al-Omari mosque)攻撃及びその後の攻撃。オマリ・モスクは、デモ参加者の集合地点であり、負傷したデモ参加者のための仮設病院にもなっていた。そして、オマリ・モスク攻撃に続き、3月23日から25日までデモ隊への攻撃が行われ、30以上のデモ参加者が殺害された。

● 4月8日の2つのデモ隊への攻撃。少なくとも25人の参加者が殺害された。

● 4月22日と23日のイズラア(Izraa)の街中でのデモ隊と葬列への攻撃。少なくとも34人が死亡した。

● 4月25日に始まったダルアとその周辺村落への封鎖期間中及び、4月29日に周辺の街の住民が封鎖を突破しようとした際に行われた虐殺。200人にも及ぶ死者が出た。

タファス(Tafas)、ツエール(Tseel)、サヘム・アル-ゴラン(Sahem al-Golan)の各町からの目撃者9人は、ダルア周辺の町からの数千の人びとが、同市への封鎖を突破しようと試みた4月29日に行われた弾圧事件のひとつについてヒューマン・ライツ・ウォッチに説明してくれた。政府治安部隊が、ダルアに近づこうとしたデモ参加者を同市の西側入り口近くの検問所で止めた、と目撃者たちは述べた。ツエール出身でデモに参加していたある目撃者は、以下のように話している。

私たちはそこで止まって、もっと沢山人が到着するのを待っていたんです。オリーブの枝と、ダルアに食糧と水を持って行きたいと書いたポスターを掲げました。水の入った容器と食糧の包も持っていました。だんだん数千人が道路に集まって、群衆は6kmくらいにも連なったんです。

それから私たちは検問所の近くに向かって動きはじめました。「平和、平和」って叫んでたんですが、それに応えて発砲してきたんです。治安部隊は、近くの野原の中、検問所の後ろにある貯水タンクの上、近くの工場の屋根の上、木々の中などそこら中にいて、ありとあらゆる方向から撃ってきました。皆一斉に逃げ、倒れ、怪我をした人を運ぼうとしました。ツエールから来た9人が怪我をして、その内の1人が死んだんです。

別のタファス出身の目撃者は以下のように話している。

全く警告はなかったね、空に向かっての発砲はなかった。とにかく不意打ちの攻撃だったよ。あらゆる方向から撃ってきたんだ、自動小銃でね。治安部隊は道路沿いの野原や建物の屋上に配置されていた。やつらは意図的に人を狙ってた。殆どの傷は頭と胸だったよ。

タファス出身の男性ふたりがそこで殺された。22歳のムハマド・アイマン・バラダン(Muhammad Aiman Baradan)と38歳のジアド・フレイディン(Ziad Hreidin)だった。ジアドはスナイパーの弾が頭に当たったとき、俺の隣に立っていたんだ。即死だったよ。全部で62人が殺されて、100人以上が怪我をした。俺はタファス病院に彼らを運ぶのを手伝ったんだ。

シリア政府当局は、暴力行為を始めたのはダルアのデモ参加者の方であって、かつ、ダルアのデモ参加者は治安部隊を攻撃したと非難している。しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチが入手した証言は全て、殆どの場合デモは非暴力で平和的に行われたことを示している。

一方で、治安部隊によるデモ参加者殺害に怒ったダルア住民たちが暴力行為に及び、車や建物に放火し、治安部隊要員を殺害した事件についても、ヒューマン・ライツ・ウォッチは複数取りまとめている。デモ参加者による事件には更なる捜査が必要とされているものの、こうした事件は、デモ参加者に対する大規模かつ組織的な武力行使を正当化するものでは全くない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。

シリア政府当局はまた、救急車が負傷者にたどり着くのを阻止。時には負傷者を運びだそうとした医療従事者あるいは救助隊員に発砲するなどし、負傷したデモ参加者が治療を受けることを頻繁に妨害した。治安部隊はダルア内の殆どの病院を統制し、運び込まれてきた負傷者を拘束した。結果として、多くの負傷者は病院に行くのを避けざるをえず、限られた設備しか備えていない仮設病院で治療を受けることを余儀なくされた。ヒューマン・ライツ・ウォッチが調査して明らかにしただけでも、必要な治療を拒否されたために死者が出た事件が2つある。

ダルア及びその周辺の町出身の目撃者たちはヒューマン・ライツ・ウォッチに、治安部隊による大規模な一掃作戦の様子について語ってくれた。こうした作戦によって、毎日数百の人びとが拘束され、とくに、活動家及びその家族が狙われている。拘束された人びとのうち多くは未成年者で、驚くほどずさんな環境に拘束された。聞き取り調査に応じた人びとのうち逮捕・拘禁経験のある人びとは、全員、拘束中に棒や捻じったワイヤー、他の器具で長時間殴られたり電気ショックを加えられたりした、と話していた。金属製や木製の急造「ラック(体を横にして手足を無理やり引き延ばす拷問用具)」で拷問された者もおり、ヒューマン・ライツ・ウォッチが調査してまとめた中には、警棒でレイプされた男性のケースが少なくとも1つある。人びとは、こうした拷問は自分たちだけに行われたものではなく、自分たちが拘束されていた間に目撃した他の数百人も同様の状況におかれていた、と話す。

ダルアのサッカー場に設けられた臨時の収容施設で5月1日、被拘束者に対する超法規的処刑が行われたと、2人の目撃者がヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取りに別々に応じて答えた。1人は、政府治安部隊が被拘束者26人を処刑したと話し、もう1人は「20人以上」が処刑されたと語った。ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれらの供述を更に裏付ける事はできていない。しかしながら、別個の2人の目撃者が提供した詳細な情報と、彼らの供述の他の部分が他の目撃者によって完全に裏付けられたという事実は、彼らの供述が信用できることを示している。

4月25日、治安部隊は市内で大規模な軍事作戦を開始した。少なくとも11日間ダルアを封鎖し、その後封鎖は近隣の町にも拡大された。激しい発砲による援護のもと、政府治安部隊は同市の全ての住宅地を占領し、住民に屋内に留まるよう命じ、外出禁止令を破った者には発砲した。ダルアの住民は封鎖期間中、食糧、水、医薬品、その他生活必需品の激しい不足に見舞われたと、目撃者たちは話した。治安部隊は貯水タンクを撃ち抜き、電気及び全ての通信手段は遮断された。遺体の数が激増する中で、埋葬や適切な保存が出来ないことから、ダルア住民は軽油で動かせる移動可能な野菜用保冷庫で多くの遺体を保存した。

シリア政府当局は、ダルアで起きていることを知らせないようにするため、情報封鎖を行った。事件を取材・調査する中立な人物の街への立ち入りを全面禁止し、全ての通信手段を遮断。ダルアでの事件の映像を撮った携帯電話を捜索して没収し、映像を撮ろうとしたあるいは情報を外に出そうとしたと疑いを掛けられた者(外国国籍を持つ数人を含む)を逮捕・拷問した。一部地域では、今も電気と通信手段は遮断されたままだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、シリア政府に対し、デモ参加者や活動家に対する治安部隊の過度の武力行使を直ちに停止するとともに、恣意的に拘束している全ての人を釈放し、人権団体とジャーナリストへの即時かつ制限のないダルアへの立ち入りを認めるよう求めた。更に、国連安全保障理事会に対しても、今も続く人権侵害に責任のある政府高官たちに対し、対象限定金融制裁と渡航禁止措置をとると同時に、シリア国内で広範囲かつ組織的に行われている深刻な人権侵害を、捜査し訴追するよう求めるとともに、そうした動きを支援するよう要請している。

「シリア政府当局は、ダルアで行った残忍な弾圧を隠ぺいするためにできることは何でもやった」と前出のウィットソンは語る。「しかし、こうした残虐な犯罪を隠すのは不可能だ。遅かれ早かれ責任者は自らの行為への責任を問われることになろう。」

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