UN Secretary-General Ban Ki-moon speaks as Sri Lanka's former Foreign Minister Rohitha Bogollagama listens on during a media conference in Sri Lanka in May 2009.

© 2009 Reuters

(ニューヨーク)-国連専門家委員会(UN Panel of Experts)は、スリランカ内戦(2009年終結)における人権侵害について、国際的な独立事実調査委員会を設立するよう勧告した。潘基文(Ban Ki-moon)国連事務総長は、この専門家委員会の勧告に基づく措置をとるべきである、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。2011年4月25日の潘事務総長の声明では、スリランカ政府の同意及び政府間機関による行動が必要としているが、この事務総長の発言が法の正義(ジャスティス)に向けた機関の設立の不要な障害になってはならない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

2011年4月25日に公表された国連専門家委員会の報告書によれば、スリランカ政府軍及び分離独立派武装組織タミル・イーラム解放のトラ(以下LTTE)の双方が、26年間にわたる内戦末期の数ヶ月間にとった軍事作戦は、「民間人の保護・諸権利・福祉・生命を甚だしく軽視し、国際法の尊重を全く無視したものであった」。さらに内戦終了後2年近くが経過したものの、これまでにスリランカ政府のとってきた措置は、アカウンタビリティ(真相究明と法の裁き)の実現という点で国際基準に照らして著しく不十分であり、スリランカ大統領と国連事務総長の共同公約やスリランカの法的義務を履行するものではない、と結論付けている。

「政府及びLTTEの双方が人権侵害を行い、しかも、スリランカ政府が自軍の法的責任を未だ問うていないことを示す専門家パネルの判断は、国際調査の必要性を明らかにしている」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長ブラッド・アダムスは語る。「ロシア政府と中国政府は、スリランカ内戦の被害者の希求している正義(法の裁き)実現に向けた取り組みを妨害するのを止め、委員会勧告を支持するべきである。」

ロシアと中国は以前から、国連安全保障理事会がスリランカ内戦における人権問題を議論することに反対していたが、潘事務総長が本件に関して更なる措置をとる事に対して、4月18日、消極的姿勢を崩さない態度を再び示した。ヒューマン・ライツ・ウォッチはすべての国連加盟国に、専門家委員会勧告を支持するよう要請している。

潘事務総長は2010年5月、スリランカ内戦のアカウンタビリティ(真相究明と法の裁き)を実現するために取るべき措置を諮問すべく、3名からなる専門家委員会を設立した。というのも、マヒンダ・ラージャパクサ(Mahinda Rajapaksa)大統領は、内戦終結直後に人権蹂躙疑惑を調査すると約束したにも関わらず、その約束が履行されないままであるためである。

専門家委員会は、国際法分野における世界的に著名な専門家3名で構成され、「国連の様々な機関・省庁・基金・事務所・プログラムの報告書の調査を始め、その他政府間機関の公文書、NGO・ジャーナリストやスリランカ専門家が作成した報告書や記事」、さらには人工衛星映像や写真・ビデオ映像に至るまで詳細に調査を重ねた。国連ウェブサイトへ掲載した告知に対し寄せられた情報も検討するとともに、武力紛争に関する専門家や経験を持つ多くの人びとの意見も聞いた。「一次的な情報源に基づいており、関連性を認め信頼に足ると評価できる」情報については、委員会が信用性を認め証拠として採用した。これらの一次的な情報源は、直接間接を問わず他の情報によって裏付けをとっている。

国連専門家委員会は、スリランカ政府の協力を得ようと試みたが断られた。スリランカ政府は、質問に対しては書面で対応したものの、国連専門家委員会がスリランカ国内を視察することや、政府当局者及び残虐行為の目撃者と面会することは許さなかった。

国連専門家委員会は、LTTEが民間人を「人間の盾」として攻撃への緩衝材として使用し、LTTEの支配地域から脱出を試みた民間人を殺害し、民間人が近くにいる場所で武器を使い、さらには子どもを強制的に軍務に就かせ、強制労働させるとともに、自爆攻撃により民間人を殺害したことを明らかにしている。

さらに国連専門家委員会は、スリランカ政府軍が、広範囲かつ無差別に病院や人道援助機関に対して砲撃して民間人を殺害し、戦闘地域の人びとから人道援助へのアクセスを奪ったことを明らかにしている。報告書によれば、「政府は、民間人住民に対し、隣接した3ヶ所の発砲禁止区域(No Fire Zones)に集まるよう促した後、大規模な砲撃を加えた。重火器の使用を停止すると表明した後も、砲撃がなされることも多かった。政府は前線にある病院を組織的に砲撃し、戦闘地域にある全ての病院が迫撃砲や大砲の直撃を受けた。そのうちの幾つかの病院について政府は正確な位置を把握していたにもかかわらず、執拗な攻撃を繰り返した」としている。

さらに、避難を余儀なくされた民間人たちの中からスリランカ政府がスクリーニングして連行した人びとの中には、即決処刑、女性のレイプ、強制失踪などの犠牲となった人びとがいることも、委員会の報告書により明らかになった。紛争末期の数ヶ月間に避難を余儀なくされた地域の全住民が、隔離された強制収容所に拘束され、中には尋問や拷問を受けた者もいた、としている。

国連専門家委員会が認定した事実は、スリランカ政府の「"民間人犠牲者ゼロ"政策に沿った"人道的救出作戦"を行ったという政府の頑なな主張」とは全く対照的である。報告書は、「内戦の最終局面における民間人犠牲者のほとんどは、政府の砲撃により引き起こされた」と断定している。ラージャパクサ大統領やゴタバヤ・ラージャパクサ国防次官を含む政府高官は、政府軍部隊が民間人犠牲者をもたらしたという事実を、繰り返し否定してきた。

国連専門家報告書はその中で16枚の人工衛星の映像を示し、病院が砲撃の直撃を繰り返し受けている様子と、政府軍砲兵隊が政府が発砲禁止区域として公表した3ヶ所を目標に常々狙いを修正する様子を映し出している。

「アカウンタビリティ(真相究明と法の裁き)達成のための機関としてしばしば政府が過大な評価をしている政府創設機関、『過去の教訓・和解委員会』(Lessons Learnt and Reconciliation Commission)は、欠陥だらけであり、効果的なアカウンタビリティの実現機関としての国際基準を満たしていない。従って、アカウンタビリティの実現プロセスに向けたスリランカ大統領と国連事務総長の共同公約を果たしえない」ことも国連専門家委員会は明言。スリランカ政府のアカウンタビリティ実現へのアプローチは、もっぱらLTTEによる人権侵害に焦点を当てており、「戦争犯罪の訴追において、自らの行為のアカウンタビリティが問われているという意識がまるでない」と指摘している。

国連専門家委員会は、スリランカ政府の「真の調査」の開始を勧告するとともに、国連事務総長が人権蹂躙疑惑に関し、独立した国際的な調査機関の設立を進めるよう勧告している。

スリランカ政府は政府ニュースの見出しで、国連専門家委員会の報告書を、「不当」で「偏見に満ちた根拠のない一方的な」ものとして、「強く否定」する旨を明らかにしている。ラージャパクサ大統領は5月1日に軍との団結を示すデモを呼び掛けるとともに、国連に圧力をかけ、この委員会勧告に沿った行動を阻止するための外交キャンペーンを開始した。

「スリランカ政府が国連専門家委員会報告を偏っているとして即座に否定したこの姿勢こそが、残念ではあるが、スリランカ政府が自ら法の正義(法の裁き)実現に向けた本格的なプロセスの第一歩を踏み出す可能性がないことを明らかにしている」と前出のアダムスは語った。「内戦の犠牲者・被害者に残された唯一の希望は、訴追につながる国際的調査である。潘事務総長はその設立をためらっている暇はないはずである。」