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(ミスラタ)-リビア政府軍は、反体制派の支配下にあるミスラタの居住地区に、ロケット砲や迫撃砲を無差別に打ち込んでいる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。グラート砲によると見られる攻撃では、パン屋で並んでいた少なくとも8名の民間人が死亡。更に、迫撃砲によると見られる攻撃が診療所を直撃し、4名が負傷した。

目撃者や生存者の説明や現地調査によると、2011年4月14日以来の無差別攻撃で少なくとも16名の民間人が殺害された、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、攻撃を受けた地域で軍事行動が行なわれていた証拠は見つからなかったとし、目撃者たちも攻撃の際に反体制派兵士はいなかったと話している。

ロケット弾の破片と残骸上の刻印によれば、ある居住地区への集中砲弾に使用されていたのが、ソビエトで開発されたグラート砲だったことを示している。グラート砲は無誘導ロケットで、広域を攻撃するために一斉射撃されることが多い。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの緊急事態担当ディレクターのピーター・ブッカーは「リビア政府軍は、ミスラタの居住地区に迫撃砲やグラート砲を繰り返し打ち込み、民間人の犠牲者を出している」と指摘。「ソビエト製グラート砲は、世界で最も的中度が低いロケットシステムの一つで、民間人のいる地域で発射されてはならないものだ。」

この無差別攻撃は、4月15日にヒューマン・ライツ・ウォッチが明らかにした、リビア政府軍によるミスラタの居住地域でのクラスター爆弾使用と並行して行なわれた。

ミスラタは、リビア西部で反体制派勢力の支配下にある唯一の都市。政府軍は約7週間にわたり、同都市の支配を奪還しようと攻撃を続けてきた。死亡者を記録してきたミスラタの医師によると、4月15日現在、病院の遺体安置所に267体以上の遺体が運び込まれ、そのほとんどが民間人であったと語る。同医師は、親族の遺体を遺体安置所に運び込んでいない家族もあるため、実際の死亡者数はもっと大きいと話した。

4月14日には、パン屋の前に並んでいた人の列をロケット弾が命中したのみならず、もう1発のロケット弾がモスクに隣接する族長の家を直撃。その他4発が民間人住宅を直撃した。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ある家の車庫に停めてあったピックアップトラックの車体側面と、居住地域の道路上にグラート砲の残骸が残っているのを確認した。

リビア政府軍は4月16日、ザウィーヤ(Zawiya)の居住区にあるザウィーヤト・エル-マフジョウブ(Zawiyat el-Mahjoub)診療所のすぐ外にある駐車場に、82mm迫撃砲弾を撃ち込んだと見られ、その破片は診療所内まで貫通、医療関係者1名と民間人3名を負傷させた、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

目撃者らによると、ロケット弾や迫撃砲弾が全て市外にある政府軍拠点から発射されていることが、この7週間の戦闘ではっきりしたという。ミスラタの反体制勢力は、多くの人が武器を他人と共有したりと十分な武器を有しておらず、グラート砲や迫撃砲を所有した反体制派を見たことはない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

グラート砲による無差別攻撃

ミスラタでヒューマン・ライツ・ウォッチが確認したグラート砲による無差別攻撃は、4月14日午前7時から9時までの間に、ミスラタ港近くのカスル・アハメド(Qasr Ahmed)居住地区で起こった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはその攻撃の目撃者4名に聞き取り調査を行うとともに、7ヵ所の着弾地を訪れた。目撃者はみな、攻撃時に同居住区で戦闘が行なわれているのを見たこともなければ、それらしき音も聞こえなかったと口をそろえた。カスル・アハメド地区は安全であると思って、この攻撃の前にミスラタの別の地域から避難してきた家族もいた。ヒューマン・ライツ・ウォッチが4月15日に同地区を訪ねた際には、軍事攻撃の対象となりうるものは見つからなかった。

ミスラタ病院の遺体安置所の医師たちは、4月14日中に12遺体を収容し、その全てがグラート砲が落ちたカスル・アハメド居住地区及び港付近などから収容された遺体だが、この12名がグラート砲による攻撃をうけたかは不明であると話した。12名の死者のうち8名は民間人で、3名は兵士と見られ、残る1名の身分については不明であると語った。

少なくとも2名の目撃者の話によると、この死者のうち3名は、ミスラタから船で避難する準備をしていたエジプト人出稼ぎ移民だった。

ソビエト製グラート砲は、全長約3mの122mmロケット弾。通常は、トラックに積載された、同時に40発のロケット弾を発射出来る装置から発射される。誘導装置がないために的中率が低く、射程距離は4kmから40kmの幅がある。一斉射撃されるため被害は広範囲にわたり、居住地では多数の民間人犠牲者を出す可能性がある、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

グラート砲による攻撃は、ロケットエンジンやその他のロケット弾部品の残骸、そして特徴的な着弾パターンによって明確に識別できる。

これまでにもヒューマン・ライツ・ウォッチは、リビア東部で反体制軍の支配下に入ったリビア政府武器貯蔵所内で、ソビエト製及び北朝鮮製のグラート砲を多数発見している。北朝鮮製グラート砲の多くは、トラクター若しくはブルドーザーの部品として偽装された箱に入っていた。ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、アジュダビヤ(Ajdabiya)とベンガジ(Benghazi)の間の道路上で、多国籍軍によるリビア政府軍への空爆で破壊された複数のグラート砲発射装置を目撃している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、リビア東部で反体制派がグラート砲発射装置を擁しているのを目撃しており、同国東部の武装反体制派も同発射装置を保有している。

「紛争の両当事者とも、民間人がいる地域内やその近くで、無差別兵器であるグラート砲を使うべきではない」と前出のブッカーは語る。「反体制軍は、この兵器の違法使用を避けると確約するべきである。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査員らは、カスル・アハメド居住地区内の公園で、バールウェイン・パン屋(Balrwein Bakery)の前で並んでいた際に殺害された人びと8名の仮設墓地を目撃。全ての墓のコンクリートに、犠牲者の名前とともに「4月14日」と記されていた。目撃者らの話によれば、更に2名の犠牲者の家族が遺体を自宅近くに埋葬しようと運んでおり、今回の攻撃による死者は少なくとも10名にのぼるとみられる。ヒューマン・ライツ・ウォッチのために仮設墓地で犠牲者ひとりひとりの身元を明らかにしてくれた地元住民らによると、死亡した民間人の年齢は17歳から90歳までにわたる。

パン屋の外で攻撃にでくわした2名の目撃者は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに彼らが見たことを語った。港湾で働くAli Hmouda(36歳)は攻撃の際、友人のAhmed Shalfouh(29歳)と通りの反対側に立っていた。「襲撃が始まったとき、俺は地面に伏せたんだけれど、友人のAhmedは立ったままだったんだ。そうしたら破片が飛んできて、Ahmedの頭が切られ、俺の膝の上に落ちて来た。その3分以内に、すごい数のロケットがあの地域に打ち込まれたんだ。」

Fathi Hmouda(31歳)は午前7時、グラート砲がパン屋の外の道路に着弾した時、店の隣に立っていたという。

長い列だったよ。エジプト人労働者何人かがモスクからパン屋まで歩いていて、ある男性は子ども3人を乗せた車を運転していた。空中でロケット弾の音が聞こえたので、並んでいた人のほとんどが散り散りになったんだ。Walid Muhammad Ehtebaは攻撃が始まった時パン屋にいて、列の最後尾へと走って戻ったところに弾が直撃した。彼は法学部の学生、まだ25歳だったのに殺された。ロケット弾は列の最後尾付近に停車していた車のすぐ隣に落ちた。少なくとも8人が死んだ。みんな民間人だった。パン屋の前に留まっていたエジプト人1人も殺された。遺体がバラバラになってたから近くの墓に同日中に埋葬された。どの部分が誰のものか分からず、遺体安置所には持って行かなかったんだ。

Salaheddin Gharman(24歳)は機械工で、カスル・アハメド居住地区にある仮設墓地の隣に住んでおり、人びとがパン屋の前から遺体を運んできたのに遭遇した。「遺体は毛布に包まれてたよ。8体の遺体はコンクリートで覆われた墓にすぐに埋葬された。」とヒューマン・ライツ・ウォッチに話した。

パン屋の外で死亡したのは以下の人びとが含まれている。Aiman Muftah Killani(17歳)、Muhammed el-Hamroush(75歳)、Muhammad Ali Shayb(37歳)、Muhammad Bennor Arafa(90歳)、Muftah Ramadan Rashid(20歳)、 Ali Abdulgadar Armeda(35歳)、Walid Muhammad Ehteba (25歳)、Ahmed Shalfouh(29歳)。また、犠牲者の中には複数のエジプト人労働者がいたと前出のFathi Hmoudaは話していた。

Bilgasim Mustafa族長(42歳)の自宅は、アブシャイファー・モスク(Abushayfer Mosque)と外壁を共有している。グラート砲が自宅とモスクの壁を貫通した午前9時、自宅にいた。

「爆発する音を何度も聞いたよ。子どもにコーランを教える教室の窓ガラスが攻撃で粉々になった。子供たちは30分以内に来る予定になっていたんだが、その時はまだいなくて誰も怪我をしなかった」と彼は話していた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは壁に開いた直径1.5mの穴とMustafaの自宅内でグラートロケット弾の残骸を目撃した。

Muhammad Awad Muhammad Surayti(57歳)は、4月14日朝、カスル・アハメド居住地区にある自宅付近の港と鉄工所への砲撃を目撃している。

港で煙が上がっているのを見た。その直後の午前8時頃、ゴミ出しに行こうと自宅を出た時、すぐ近くの自宅前の壁を砲撃が直撃した。何が起きたのか分からず、倒れてしまった。グラート砲だったが、当時その地域には戦闘員はいなかった。私はその破片で右わき腹を負傷した。

7週間にわたりミスラタ市内でカダフィ軍からの攻撃にさらされた結果、同市の民間人はミスラタに向けて配備された様々なタイプの兵器に精通し始めている。彼らはしばしばグラート砲を「ミサイル」と呼ぶ。

前出のAli Hmoudaは4月14日、ヒューマン・ライツ・ウォッチに自宅の被害状況を案内して見せた。グラート砲1発が、車庫の屋根と中に停めてあったピックアップトラックを破壊した。そのグラート砲はそのトラックの車体のそばにまだ残っていた。さらにもう1発は自宅近くの囲い込まれた土地を直撃している。Hmoudaは攻撃時に自宅にいなかったが、彼が家を貸している学生たちが、家の中で水ギセル(sheesha)を吸い、お茶を飲み、食事をしていたという。

さらににもう1発のグラート砲がHmoudaの近所に住むHania Abu Zhebada(75歳)の外庭に着弾した。Zhebadaはその時他の2家族と一緒に家の中にいた。

診療所に対する攻撃

Zawiyat el-Mahjoub 診療所への攻撃で、4人の民間人が負傷した。この攻撃は、4月16日午後5時30分に、2、3階建住宅のある住宅街のZawiya地区で起こった、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、攻撃の30分後にこの小さな2階建ての診療所を訪問したが、反政府軍の戦闘機、軍事機器、その他の軍事的な備品は見られなかった。目撃者らの証言によると、攻撃された時の最寄りの戦線は約1キロ離れたところだったと言う。診療所に残っていた導火線や着弾の痕跡を分析すると、弾は、標準の81ミリ爆薬迫撃砲だった模様である。

攻撃の時に診療所で働いていた看護師Adil Mohamed Abushafer(41歳)によると、その迫撃弾は本館から約7メートルの診療所敷地内の駐車場に着弾し、建物の前部のガラスを破壊。迫撃砲の銃弾の破片が、診療所を爆破し、救急車1台と車3台を破損させた、とヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、負傷した4人の民間人のうち3人に会い、そのうち1人から聞き取りを行なった。他の2人は重傷のために話すことができなかった。

麻酔技術を持つ医師のMohamed Salim Awad (45歳)は、人工呼吸器を装着しており話すことができなかった。医師によると、彼は胸部と右脚に爆弾の破片による傷を負っていた。攻撃時に薬局を訪れていたFaraj Rashid(47歳)は、緊急手術後に意識を失っていた。Nasser Yousef(27歳)は、腕を骨折したが退院した。

4人目の負傷者は、Omar Awad(41歳)。当時献血をしていた実業家で、攻撃時に、薬局の近くの玄関のそばの駐車場にいた、とヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。

私たちは、目の前の家が爆発するのを見た。すると小さなビューという音を発しながら小さな黒点が私たちに向かってきた。私はすぐにたじろぎ、膝をついた。すると駐車場のある階で、私の目の前で爆発があった。多量のほこりと瓦礫が舞い上がった。逃げようとすると、周りの人が呼び止めひざをついて歩くように言って、私の上腹部にスカーフを巻いてくれた。それから病院の前にいた若者が、私を抱き上げ、手術室に連れていってくれた。傷を洗浄され、包帯を巻かれ、別の病院に運ばれた。一連の出来事、特に私の目の前の家が攻撃されてから、迫撃弾が私たちのそばに着弾するまで数秒以内に起こった。

Awadは背中の左側、左ふくらはぎ、右足首と右手に弾傷を受けた。

攻撃が発生したときに、Ali Jalil 医師は診療所におり、ミスラタ病院に救急車で搬送される際に、負傷者を治療した。「大きな爆発音が1回。その後、より小型のものが飛ぶ音がした」と、彼はヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。「ガラスが飛び散り、ある車はひどく破損していた。」

リビアに適用される国際人道法上、紛争のあらゆる当事者は、民間人や民間施設を標的にしてはならず、または民間人と戦闘員を区別せずに攻撃をすることは許されない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。民間人の犠牲を最小限にするために、人口密集地域に軍を配備せず、標的を軍事施設に絞ることも含め、すべての実行可能な予防措置をとる必要がある。

「非戦闘地域を無差別に発砲することは、明らかに戦争法違反だ」と前出のブッカーは語る。「診療所を標的にすれば、それは戦争犯罪になる。」

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