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(ダカール)-「成人の間の同意に基づく性行為を犯罪とするセネガル法は、差別的であるとともに、同性愛者に対する警察と一般大衆双方からの人権侵害を招いている」とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で述べた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、セネガル刑法第319条3項の廃止を強く求めるとともに、性的指向やジェンダー表現に関わらず全ての社会の構成員を保護するようセネガル政府に求めた。

報告書「セネガル:同性愛者への残酷な暴力の実態」(全97ページ)は、警察やその地域社会に属する他の者からの脅迫と暴力に遭った、何十人もの聞き取りなどからなる報告書。なかでも、2008年2月に起きた「同性愛結婚」スキャンダル事件、および2008年12月に起きた「ムバオ(Mbao)の同性愛者9名」逮捕事件という、2つの重大事件に関して詳細に調査報告している。本報告書は、刑法第319条3項による警察による逮捕が恐怖と疑念をあおっている実態を示す、他の複数の事件も検証している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチLGBT人権プログラムの調査員ディピカ・ナットは、「同意に基づく性行為を犯罪とするセネガルの法律は、多くのコミュニティ、特にゲイにとって、非常に有害だ」と語る。「人びとは、他と違っていると見られたという理由で、仕事、家族、生活、自由、そして命そのものまでを失う不安に、付きまとわれながら生活することを余儀なくされている。」

刑法第319条3項は「不自然」な性行為に対し、5年の刑および罰金を科す。同法は、表向きは人格ではなく行為を処罰するものとしているが、事実上は特定の「タイプ」の個人を標的とする道具として使われている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。レズビアン(L)・ゲイ(G)・バイセクシャル(B)・トランスジェンダー(T、以下あわせてLGBT)の人びとを暴力から保護していないセネガル政府の実態とこの法律が密接に関わって、既に弱い立場にある人びとを更に社会的に孤立させている。聞き取り調査に応じたある人物は、自分に暴力をふるった警察官が処罰されていない実態について、以下のように話す。       

「本当のところ、警察は私がセックスをしていたから捕まえたんじゃない。私が居た場所と、どんな格好をしていたかで決めてかかっったんだ。服を引き剥がし、裸にして殴った。2カ月間捕まっていた。私を虐げた上に、グールジギーン(人権侵害的な呼び名)って呼んだ・・・。(私がゲイだと)認めさせようとして爪の下に針を刺した・・・。頭とオデコそれに顔も引っかいた。腕、お尻、背中も殴られた。警察は、私を女性の名前で呼んだ。・・・こんなことが警察署で3日間あった。毎日ぶたれた。彼らは、私を殺すとも言っていた。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチが本腰を入れた調査を開始したのは2008年2月。この時、セネガルのゴシップ誌アイコーン(Icône)が、あるパーティーの写真24枚を掲載し、それらの人びとが「同性結婚」式に参加した同性愛者だ、とした。写真はもちろんどこにも同性愛行為の証拠はなかったが、警察は写真に写っていた数人の男性を逮捕。その男性たちはまもなく釈放されたものの、宗教集会や説教そしてセンセーショナルなマスコミ報道に煽られた世論の大々的な抗議が巻き起こり、その後の数カ月間、脅迫事件や襲撃事件がたびたび起こった。これに伴い、多くの同性愛者が身を隠したり、亡命を余儀なくされた。

2008年12月、セネガルが国際HIV/エイズ会議を主催した僅か数日後に、警察はHIV/エイズ団体であるエイズ・セネガル(AIDES Senegal)のメンバー9人に、同性愛行為容疑をかけた。この場合もやはり、裁判所は同性愛行為の証拠がないまま、彼らに8年の刑を言い渡した。男性9名は2009年4月に釈放されたものの、多くは職を失い、家族と地域社会から疎んじられるようになり、現在日々の暮らしに苦しんでいる。

これらの事件をきっかけとした世間の非難の嵐は、これまでセネガルの同性愛者たちが被ってきたものをはるかに超え、今も、その影響を及ぼし続けている。報告書「セネガル:同性愛者への残酷な暴力の実態」に掲載された個人の証言は、同性愛容疑が、証拠なしでも容易に人を恐怖に陥れるとともに、襲撃や村八分を誘発する実態を明らかにしている。こうした暴力と迫害は、人びとが医療やHIV検査、カウンセリング、治療を求めなくなることにも繋がり、公衆衛生にも悪影響がでている。

報告書は、セネガルの政治指導者や宗教指導者が、国民感情を誘導している実態についても調査している。彼らは、敵意に満ちた同性愛嫌いの風潮を形成する道具として機能してきた。報告書は更に、セネガルのメディアが、一方的、そして時には憎しみを煽るような報道を嵐のように行なう実態についても取りまとめている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチがインタビューしたセネガル人たちは、司法に頼ることも出来ず、警察や地域社会や宗教指導者からの保護もないまま、刑務所内で侮辱され、暴行を受け、服を引き剥がされ、脅迫され、拷問を受け、地域社会で襲撃や脅迫を受けた、と話した。警察に逮捕され人権侵害に遭った人びとは、釈放された後にも、社会の一般の人びとから暴力にさらされている。性的指向とジェンダー表現を理由に地域の暴力組織などからの暴力の脅迫の被害を受けている人びとを、警察は守ることができていないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは明らかにした。

セネガルは、国内法、地域法、そして国際法により、すべてのセネガル人の権利を保護し、促進する義務を負っている。セネガルは、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」の加盟国である。同規約は、第9条で、個人の自由と安全に対する権利を万民に保障し、恣意的な逮捕と拘束を禁じている。第17条ではプライバシー権を、第19条および第22条では表現と結社の自由、第2条および26条では平等と無差別を保障している。セネガル憲法も、第8条と第12条で、すべての国民に対し、表現および結社の自由、健康権を含む、基本的権利と自由を保障している。更にアフリカ人権憲章(African Charter on Human and Peoples' Rights)は、あらゆる差別を禁止する(第2条及び第9条)とともに結社の自由(第10条)と健康権(第16条)をも保障している。

前出のナットは「一部の社会構成員に対する偏見に基づいた制度的暴力を是認することは到底できない」と語る。「人びとが日々、不安と危険の中で生活しているのに対し措置を講じないのは、個人の権利に対する脅威であるとともに公衆衛生に対する脅威でもある。」