内閣総理大臣 高市早苗 殿
CC: 経済安全保障担当大臣 小野田紀美 殿
CC: 外務大臣 茂木敏充 殿
CC: 経済産業大臣 赤澤亮生 殿
私ども下記に署名した非政府組織(NGO)は、日本政府において、外交貿易・経済安全保障政策のひとつの柱に人権を据える立法措置及び改革を提言したく、本書簡を差し上げる次第です。具体的には別紙のとおり、日本政府において、次の措置を講じるよう要請いたします。第一に、グローバル・バリューチェーンでの事業活動における人権・環境デューデリジェンスの実施を企業に対して法的拘束力のある義務として課すことです。これに加えて第二に、強制労働を伴う手段で生産された物品の輸出入禁止措置を導入し、人権・環境デューディリジェンスを補完することです。第三に、欧州連合(EU)や東南アジア諸国を含む関係国政府と協議しながら、これらの基準を誠実に執行することです。さらには、他のドナー国政府による対外援助の大幅削減の影響を緩和する目的で、独裁国家や亡命先で活動する独立系メディアや市民社会団体への新たな資金提供方法を模索することも要請いたします。
これらの改革は、日本のサプライチェーンの強靭化と、国際市場での日本企業の競争力向上を通じて日本の自律性と戦略的優位性の向上をもたらすだけでなく、国際社会での日本政府の道義的な信頼を高めることにも貢献します。
人権侵害は世界中で蔓延しているだけでなく、増加すらしています。政府軍や武装勢力などが、国際人権法及び国際人道法に違反して文民に危害を加えており、武力紛争により何百万人もの人々が難民となっています。また、多くの人々が、生活費の高騰、経済格差、気候変動の影響によって苦境に立たされています。
権威主義が台頭する中、各国政府は、スパイ防止や対テロ等の「国家安全」を名目とするなどして、平和的な活動をしている市民社会活動家、人権活動家、弁護士、ジャーナリスト、研究者、そして異議を唱える政治家が、監視され弾圧されています。脅迫、恣意的拘禁、虐待、不当な起訴に直面する人も多く、強制失踪や殺害の犠牲者となる場合もあります。難民、移民、少数民族や宗教的マイノリティも、差別に直面しています。
こうした不正義を被害者の多くは、人権を尊重する民主主義国の支援を頼りにしてきました。しかし、その期待は打ち砕かれつつあります。米国のトランプ政権は、対外援助を大幅に削減したことで時には命が失われる事態も招くなど、米国内と世界各地の人権状況を深刻に悪化させています。欧州連合、英国、その他の西側民主主義諸国もその力を完全には発揮していません。
こうしてグローバルな人権のリーダーシップに空白が生じる中、日本はこの空白を埋める力を秘めています。私どもは、日本が人権、民主主義、法の支配―日本の最大の外交上の資産のひとつです―を基盤とした外交・経済安全保障政策を構築されることを願っています。
ご関心に感謝申し上げます。これらの課題について、皆様と直接意見交換の機会を頂戴できますと幸甚に存じます。ご連絡は までいただけますと幸いです。
敬具
取りまとめ団体(2団体)
ヒューマン・ライツ・ウォッチ
ヒューマンライツ・ナウ
署名団体一覧(50音順 18団体)
アジア太平洋資料センター(PARC)
北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会
公益社団法人アムネスティ・インターナショナル日本
国際環境NGO FoE Japan
国際人権活動日本委員会
在日カンボジア救国活動の会
在日ビルマ市民労働組合
特定非営利活動法人アフリカ日本協議会
特定非営利活動法人 ACE
特定非営利活動法人 日本ウイグル協会
ヒューマン・ライツ・ウォッチ
ヒューマンライツ・ナウ
南モンゴルクリルタイ(世界南モンゴル会議)
レイディー・リバティー香港(LLHK)
NPO日本在住ベトナム人協会
NPO法人DPI日本会議
SFT 日本
Social Connection for Human Rights(SCHR)
別紙
外交・経済安全保障政策における貿易とビジネス
世界各地で何百万人もの人びとがグローバル・バリューチェーンで労働に従事しており、強制労働、児童労働、セクシャルハラスメント、有害物質への曝露、組合活動への報復、低賃金といった人権侵害に直面している人も大勢います。日本政府は、法的な拘束力がない「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(2022年)を導入しましたが、バリューチェーンにおける人権侵害に対応するために法的義務を定めた人権・環境デューデリジェンスを依然として導入していません。また、強制労働などの深刻な人権侵害に対処するための輸出入禁止措置も導入していません。
貴政権に以下を求めます:
- 国内外で事業を展開する日本企業および日本で事業を展開する外国企業に対し、人権・環境デューデリジェンスを義務化する法律を制定する。
- 強制労働を伴う手段で生産された商品の輸出入禁止措置を導入し、法的な拘束力のある企業人権・環境デューデリジェンスを補完する。
正確な情報収集:独立系メディア及び市民社会団体への資金提供
グローバルな経済安全保障などの外交問題に対する効果的な対応には、正確な情報へのアクセスが不可欠です。独立した調査と情報は国際情勢に関する正確な知識の屋台骨です。日本のように表現の自由が守られている国では、独立したメディアや監視団体が人権侵害や汚職を調査し、明るみに出すことが可能です。しかし、独裁国家では同様の情報を入手することは困難であり、現地の実情を把握することは容易ではありません。
2025年までは、権威主義国家にとって都合の悪い情報を収集・公表するという困難で貴重な活動は、主に独立系メディア団体や事実調査・責任追及(アカウンタビリティ)に取り組むNGOが担ってきました。
しかし現在、こうした組織の多くが存続の危機に直面しています。トランプ政権が米国務省及び国際開発庁(USAID)がほとんどの対外援助プログラムの資金を打ち切ったからです。
現在閲覧できなくなっている過去のUSAIDの資料を引用した国境なき記者団によれば、2023年にUSAIDは「6,200人のジャーナリストへの研修・支援を実施し、707の非政府系報道機関を支援し、独立系メディア強化に取り組む279のメディア分野の市民社会団体を支援」しました。そして、「2025年度対外援助予算には、米議会が『独立系メディアと情報の自由な流通』支援のために割り当てた2億6,837万6,000ドルが含まれて」いました。
援助削減は独立系メディアや事実調査団体に壊滅的な打撃を与え、人権侵害、戦争犯罪、人道に対する罪、汚職、公衆衛生上の緊急事態に関する情報の質と量を損なっています。中国、北朝鮮、ミャンマーなどで政府の不正行為を調査する調査員やジャーナリストは、多くのプロジェクトの中止に追い込まれています。
これまで日本政府は、独裁国家や亡命先で活動する独立系メディアやNGOに対し、こうした団体が生み出した情報や調査を活用しながらも、資金提供を行ってきませんでした。こうした組織の多くが存続の危機に立たされている今こそ、日本政府はその方針を転換し、表現の自由や報道の自由が保障されていない国々からの情報収集・公表を支援すべきです。こうした支援は、日本の政策立案に情報を提供するだけでなく、現地の実情を正確に反映した国際世論の形成にも寄与するでしょう。
貴政権に以下を求めます:
- 権威主義国家を対象とする独立系メディア団体(亡命先で活動する団体を含む)、人権・人道問題、事実調査、責任追及に取り組むNGOに資金提供を行う。
権威主義国家において、政府当局からの迫害対象となっている団体も、資金援助の対象とする方針を採用すべきです。また、こうした現地団体に資金支援を行う国際団体や日本の団体に対しても、必要に応じて政府援助を行うべきです。