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Muhammad al-Ghamdi © Private

(ベイルート)サウジアラビアの裁判所は、X(旧ツイッター)やYouTubeでの行動のみを理由として、ある男性に死刑判決を下したと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。サウジアラビア当局はこの判決を撤回すべきだ。こうした判決は、サウジアラビア政府による同国での表現の自由と平和的な政府批判に対する弾圧がエスカレートしていることを表す一例だ。

2023年7月10日、サウジアラビアの対テロ法廷である特別刑事裁判所は、サウジアラビア人の退職教員であるムハンマド・アル=ガムディ氏(54)に対し、ネット上での平和的表現のみに関わる複数の犯罪で有罪判決を下した。裁判所は、氏のツイート、リツイート、YouTubeでの活動を理由に死刑を宣告した。

「サウジアラビアの弾圧は恐るべき新たな段階に達した。裁判所は平和的なツイートをしたことだけを理由に死刑を宣告できるようになったのだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのサウジアラビア・リサーチャーのジョーイ・シーアは述べた。「サウジアラビア当局はあらゆる反体制派への取締りを信じがたいところにまでエスカレートさせてしまっている。判決などと到底言えないこのような代物は撤回されるべきだ」。

サウジアラビア治安部隊は2022年6月11日、メッカのアル・ナウワリヤ(al-Nawwariyyah)地区にある自宅の外で、アル・ガムディ氏を妻と子どもたちの目の前で逮捕したと、この事件を知る人びとはヒューマン・ライツ・ウォッチに話した。氏はジッダの北にあるダハバーン(Dhahban)刑務所に連行され、4ヵ月にわたり独居拘禁に置かれた。この間、家族とは連絡が取れず、弁護士と連絡することもかなわなかった。その後、当局は氏をリヤドのアル=ハイル(al-Ha’ir)刑務所に移送した。

サウジアラビアの取調官は氏のツイートや政治的意見について尋問し、表現の自由を行使したことで投獄された人びとをどう思うか尋ねてきた。氏には1年近く弁護士がつかず、ようやく見つかった弁護士と話すことができたのは裁判の直前になってのことだった。

アル=ガムディ氏の兄サイード・ビン・ナセル・アル=ガムディは、サウジアラビアの著名なイスラーム法学者で、現政権の批判でも知られる。現在は英国に亡命中だ。サイード氏は8月24日のツイートで「今回の不正な判決は、捜査当局が私を国に連れ戻すことができなかったため、私個人への腹いせを企んだものだ」と記した。ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、サウジアラビア当局は近年、国外にいる体制批判者や反体制派の親族に対し、当人の帰国を強要するために報復することが増えているという。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが分析した裁判記録によると、専門刑事裁判所が7月10日、アル=ガムディ氏に対し、サウジアラビアのテロ対策法第30条の「宗教または正義を損なう方法で国王または皇太子について記述した」罪、第34条の「テロ思想を支持した」罪、第43条の「テロリストと連絡した」罪、第44条の「テロ犯罪を実行する意図で」虚偽のニュースを公表した罪で死刑判決を下した。判決によれば、アル=ガムディ氏はX(旧ツイッター)とYouTubeの個人アカウントを使用してこれらの「犯罪」を実行したという。

検察はアル=ガムディ氏に対するすべての罪状について最高刑を求刑した。裁判記録によれば、裁判所は判決理由について、これらの犯罪が「国王と皇太子の地位を標的にした」ものであり、「彼の行為の重大さは、グローバルなメディアプラットフォームを通じてなされたことで増幅されており、厳罰に処するべきだ」とした。

裁判記録では、アル・ガムディ氏のものだとするX(旧ツイッター)のアカウントが2つ挙げられている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、1つめのアカウントのフォロワーが2人、2つめのアカウントのフォロワーが8人なのを確認した。2つのアカウントのツイート数は合わせて1,000件に満たないが、サウジアラビアの現体制を批判する著名人のリツイートが大部分を占めていた。

起訴状は証拠として、サウジ王室を批判する複数のツイートと、その政治的発言、結社、地位に関して曖昧な多数の罪状で死刑が宣告されかねない著名な聖職者サルマン・アル・アウダ氏や、投獄されている著名なイスラーム法学者の釈放を求めるツイートを少なくとも1つ挙げている。

当のアル=ガムディ氏は自分が政治や人権に関わる活動に携わっているとは思っていないと、この事件を知る人びとは指摘する。一般人としてX(旧ツイッター)でサウジ政府への懸念を表明しているだけだと氏は主張している。

消息筋によれば、アル=ガムディ氏はメンタルヘルスの深刻な問題をいくつも抱えているが、サウジ当局は症状の治療とコントロールに必要な処方薬についてその一部を提供することを拒んでいる。逮捕されて以降、氏の健康状態は精神的にも肉体的にも著しく悪化しているそうだ。

アル=ガムディ氏への死刑判決は、サウジ当局がネットでの平和的な表現を理由にソーシャルメディアユーザーを弾圧する一連の事件のなかでも、最も新しく厳しいものだ。2022年1年間で、サウジの裁判所は政府を批判したソーシャルメディアユーザーに有罪判決を下し、数十年の刑を科してきた。

2022年8月、サウジアラビア特別刑事裁判所の上訴裁判所は、大学院博士課程に在籍中だったサウジアラビア人女性サルマ・アル・シェハブ氏への実刑判決を、X(旧ツイッター)での活動のみに基づいて6年から34年に大幅に引き上げた。その後、被告の上告により刑期は27年に減刑された。同じ日、特別刑事裁判所の上訴裁判所はヌーラ・ビン・サイード・アル・カフターニー氏に対して「インターネットを利用して(国の)社会構造を引き裂いた」罪で45年の刑を宣告した。

サウジアラビア当局は2022年3月12日に81人の男性の死刑を執行した。死刑執行を抑制するという指導部の約束にもかかわらず、近年で最大の大量処刑だった。サウジアラビアの活動家筋がヒューマン・ライツ・ウォッチに語ったところによると、このうち41人は同国のマイノリティであるイスラーム教シーア派に属している。シーア派の人びとは政府による制度的差別に長年苦しめられている。ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれまでにもサウジアラビアの刑事司法制度横行する組織的な人権侵害行為明らかにしてきた。この制度の下では、アル・ガムディ氏をはじめとする被告人が公正な裁判を受けることはほぼ不可能である。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、サウジアラビアの刑事司法制度に横行する人権侵害行為を繰り返し批判してきた。例えば、起訴も裁判もないまま長期間未決勾留されること、弁護士による援助が拒否されること、裁判所が有罪判決の唯一の根拠として拷問による自白に依拠することがある。被告人の権利侵害はきわめて根本的かつ体系的であり、サウジアラビアの刑事司法制度を法の支配の基本原則や国際人権基準に基づく制度と調和させることは困難である。

サウジアラビアが批准するアラブ人権憲章などの国際人権基準は、各国に対し、死刑を「最も重大な犯罪」に対してのみ、また例外的な状況に限って執行することを義務づけている。国連人権高等弁務官事務所は2022年11月に発表した声明で、サウジアラビアが薬物事案への死刑執行について21ヵ月間の非公式モラトリアムを終了させた後、死刑執行が憂慮すべき割合で増加していることを指摘している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、どのような国であれ、いかなる状況であれ死刑に反対する。死刑の特徴は残酷さと究極性において他とは異なるものであり、恣意性、偏見、誤謬に必然的かつ例外なくつきまとわれる。

「サウジ当局はネット上の批判に対して、不公正な見せしめ裁判だけでなく、死刑の脅迫によって対処しようとしている」と、前出のシーア・リサーチャーは述べた。「政府を批判する1つのツイートが死刑判決をもたらしうる現在、権利尊重型の社会を目指すというサウジアラビア政府指導部の公約が空約束ではないと考えるのは困難である」。

Correction

8/29/2023: This news release has been updated to reflect the updated spelling of the al-Nawwariyyah neighborhood. 

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