(トリポリ)-リビア政府は法の支配と人権の確立に失敗しており、更なる無法状態に陥りつつある。政府支配が及ばない中で、人権侵害を犯している数百もの武装民兵組織を御する能力が政府に欠けていることは想像に難くない。が、人権を侵害する法律や民主主義への移行を妨げる法律の改正に向けて、政府が動き出すことは可能であり、そうすべきである。
ワールドレポートと併せて本日発表したリビアに関する報告書(全69ページ)内でヒューマン・ライツ・ウォッチは、死刑の廃止をはじめとする様々な法律改正を求めた。現行法上では30種以上の犯罪に死刑が適用されており、司法手続きの公平性に対する懸念を踏まえて、政府は、法改正を待つことなく死刑を即時に一時停止(モラトリアム)すべきだ。国会議員たちは、婚外交渉や名誉毀損に対するむち打ちの刑や四肢の切断など、残虐な刑罰を定めるカダフィ大佐時代の諸法を廃止すべきだ。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東・北アフリカ局局長サラ・リー・ウィットソンは、「苦難に耐えてきた全リビア人のためにせめて新政府ができることが、人権を侵害するカダフィ大佐時代の法律の改正だ」と述べる。「たとえリビア政府が民兵組織の武装解除ですでに手一杯だと感じているとしても、司法制度改革や軍・警察の強化、人殺しに手をそめる民兵組織の取締りを推進することはできる。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、死刑を多用するリビア刑法をはじめ、言論・結社・集会の自由の制限、そして女性に対する差別を可能にする法律などについて、直ちに改正する旨をリビア政府に強く求めた。リビア刑法はまた、公務員を「不快にさせる」あるいは国家権威を「侮辱する」など、定義があいまいな様々な犯罪に対し厳しい刑罰を科している。
「ワールドレポート2014」(全667ページ、発刊以来24年目)でヒューマン・ライツ・ウォッチは、90カ国超で起きた人権問題についてまとめた。シリアで多くの人びとが極めて残虐な方法で殺害され、その実態が明るみに出されたにもかかわらず、世界の指導者たちが打った対策はわずかに過ぎなかった。2005年に宣言された「保護する責任」原則の尊重機運が再度生まれ、アフリカにおける大規模な残虐行為の一部は食い止められた。しかしエジプトなどの国では、権力を持つ多数派が、批判者や少数派の諸権利を引き続き弾圧。そしてエドワード・スノーデン氏による米国監視プログラムの暴露は世界中に波紋を投げかけた。
リビアの人権状況評価では、2013年にリビア全土でいかに治安状態が不安定であったかを詳述。同国東部の都市ベンガジやデルナで正体不明の武装した男たちが、少なくとも60人の裁判官や活動家、政府軍要員を暗殺した。武装集団が、治安部隊や政府機関に対し多数の攻撃も加えている。トリポリやベンガジでは、こうした民兵組織に対し去るよう求める大規模なデモ行進がいくつか組織されたが、大半が平和的な参加者に民兵集団が襲いかかるという暴力的な結末を迎えた。ふたつの都市で少なくとも100人が一連の衝突により殺されている。これに対し政府が、加害者たちを捜査・処罰することはほとんどなかった。
司法制度も機能不全に陥ったままだった。民兵組織は、2011年の民衆蜂起に関連して拘束した8,000人のうち約半分をいまだ拘禁している。10月に発表された国連人権報告書によれば、そうした状況下で拷問が蔓延しており、被拘禁者の一部が死亡しているという。政府、民兵組織双方の拘禁下にある人びとの大半が弁護士との接見を許されておらず、裁判官との面会もしていない。民衆蜂起の終結以来、裁判や適正手続きの公正性が憂慮されているにもかかわらず、リビア全土の軍事・民事法廷は少なくとも28人に死刑判決を下しており、そのうち12件は不在判決だった。民兵の被拘禁者問題対策について、2011年以降法律や改善約束が何度もされたのに、わずかな変化をみせたに過ぎない。
カダフィ政権崩壊以来、検察官は言論の自由を制限する刑法の条項を用いて、少なくとも4人を言論関係の「犯罪」で訴追している。罪状には不敬や名誉毀損などが含まれる。もっとも最近では昨年12月31日に、トリポリの刑事裁判所がカダフィ政権下で拘禁されていた政治活動家ジャマル・アルハギ(Jamal al-Haggi)氏を、公務員を「中傷した」罪で有罪とし、8カ月の刑および40万リビアディナール(30万米ドル)の罰金を命じた(ただし控訴可能)。
民兵組織は2013年中、大規模な強制退去という人道に対する罪を犯し続けた。主にミスラタ出身者で構成される民兵組織が、2011年に故郷を追われたタワルガ(Tawergha)の元住人4万人の帰郷を妨害している。タワルガ民族が2011年のアラブの春の蜂起の際にカダフィ派として罪を犯した、というのが民兵たちの主張だ。
リビアの立法府である国民全体会議(国民議会)の主要任務は、リビア新憲法草案を作る制憲議会を立ち上げるための選挙を行うことであるが、これを果たしていない。リビアの高等国政選挙委員会は選挙日を発表していないものの、2014年前半の実施が広く期待されている。
特に必要性が高い法改正:
· 死刑を科す諸法の改正
· 不敬・名誉毀損法など、表現の自由を犯罪化する諸法の改正
· 出版および放送媒体の認可の際の公平性と差別の禁止を確立する法案および規則の制定
· 国際基準にそった拷問禁止法の制定。「拷問等禁止条約選択議定書」の批准および拘禁施設に対する独立した査察機構の設置
· 女性差別あるいは女性に対する暴力を事実上容認する諸法の改正
· 毎年リビアに何千人もの移民と庇護希望者が入国する実態を踏まえ、そうした人びとの保護を定める難民認定法の制定および「難民の地位に関する国連条約」の批准