(ロンドン)-バーレーンの刑事司法制度は基本的なアカウンタビリティを実現していない不公正なものだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で述べた。
今回の報告書「反体制活動の犯罪化、不処罰の強化:BICI報告書以後も続くバーレーンの司法制度改革の不在」(全64頁)は、ハマド・ビン・イーサ・ハリーファ国王が、非暴力反体制派の釈放および人権侵害を行った当局者の責任追及を求める「バーレーン独立調査委員会」(BICI)の勧告を受け入れてから2年以上が経過していることを指摘した。バーレーンの裁判所は、同国のきわめて抑圧的な政治体制が維持される上で主要な役割を果たしている。非暴力デモ参加者には日常的に長期刑が宣告される。一方、治安部隊が不法な殺害や拘禁の責任を問われることはめったにない。起訴された数少ない事案でも刑はきわめて軽い。
「バーレーンの警察官がデモ参加者を冷酷に殺害する、または撲殺すると刑期は6か月、せいぜい2年だ。だが共和制導入を訴えてデモをすると終身刑になる」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東局長代理ジョー・ストークは述べた。「バーレーンの問題は司法制度の機能不全ではなく、きわめて効率的に機能する不公正な司法制度にある。」
今回の報告書は、書面による陳述などの裁判所資料に基づいたもので、治安部隊員が深刻な人権侵害で起訴された事案と、言論や非暴力集会にかかわる活動に基づく「犯罪」で起訴された事案とで扱いが好対照であることを明らかにした。
報告書は、バーレーンは調査委員会の主要な勧告を実施し、司法改革を進めているとの英国外務省の主張に真っ向から反論するものだ。調査委員会の報告書は、国際的に尊敬される裁判官5人が作成したもので、2011年2月から4月に行われた非暴力の民主化デモの弾圧について、治安部隊は十数人の不法な殺害と日常的な過剰な実力行使に責任があることを示した。また被拘禁者が「故意の虐待」を受けており、少なくとも5人が死亡していると指摘した。
調査委員会報告書は政府に対して「政治的表現に関わる犯罪で起訴されたが、暴力を扇動してはいない全員」を刑務所から釈放、有罪判決を取り消すよう勧告した。報告書はまた、発生した人権侵害について高官の責任を問うことを目的として、少なくとも18人のデモ参加者と被拘禁者の不当な死について犯罪捜査を行うことも勧告した。
この報告書が発表されて2年が経った。しかし2011年の抗議運動幹部は現在も獄中におり、一部には終身刑が宣告されている。また裁判所側はこのほかにも、反体制的な政治的意見を表明するか、平和的な集会を開催する権利を行使しただけの理由で「犯罪」とされた被告人に対し、新たに有罪判決を下しているとヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。抗議運動指導者をテロ行為で有罪とした判決を維持するため、最高上訴裁判所は2012年9月に、テロは暴力の使用や脅威を含む必要はなく「倫理的圧力」の結果であってもよいとする判断を示している。
別の裁判では、破毀院は「特定層の国民への憎悪・軽蔑を扇動した」としてデモ参加者1人を有罪とする判決を維持した。この容疑は、バーレーン当局が平和的な政治的訴えを訴追するにあたり日常的に用いられるものだ。破毀院はまた別の裁判で「国の政治制度の変更」を訴えることは「犯罪の実行」を構成するとの判断を示した。さらに別の裁判で同院は、首相の写真を踏みつけたデモ参加者を「公共物の損壊」で有罪とした判決を維持している。
深刻な人権侵害に荷担したとして治安部隊が訴追された数少ない事案は、ほぼすべて階級の低い隊員が対象となり、無罪になるか犯罪事実と釣り合わない軽い刑が宣告されている。デモに参加して犯罪の容疑者とされたアリー・シャケル氏の撲殺事件では、公判中に提出された検視報告書では全身に「鈍器で殴られた跡」があると記されていたにもかかわらず、複数の隊員は殺人罪より軽い暴行罪での有罪とされた。控訴裁判所は10年の刑を2年に減刑した。加害者は「犠牲者を含む被拘禁者の生命を保護」していたとの理由に基づき「寛大な措置」に値するとの、にわかに信じがたい決定を行った。
別の事件では、ハニ・アブド・アル=アジズ・ジュマ氏を1メートルの距離から射殺し、その場に放置して死に至らしめた警官に有罪判決が出た。しかし殺害を意図した行動ではないとされ、警官は暴行でのみ有罪とされた。控訴審では7年の刑を6年の刑に減刑した。
バーレーンの同盟国である英米とEUはバーレーン政府に対し、人権侵害について治安部隊員の責任追及を行ったり、著名な政治囚を釈放したりするよう強く求めずにいる。英外務省は4月に発表した人権年次報告でバーレーンの司法改革を「人権状況の全体的な動向が今後前向きであろう」分野に分類・強調している。
「共和制を訴えると終身刑だが、丸腰のデモ参加者を射殺すると6か月の刑。こうした現状はきわめて不適切だ」とストーク局長代理は述べた。「バーレーンについては、同盟国とくに英国が人権侵害の証拠が山積するにもかかわらず政権批判を行わずに支援を続ける限り、国内での安定と改革の実現は不可能だ。」