(ニューヨーク)― ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日、スリランカのラニル・ウィクラマシンハ新大統領に対し、人権に関する重大な問題点を詳述する書簡を発出、その中で、新政権がすべてのスリランカ人の基本的人権を守る政策を導入するべきと述べた。ウィクラマシンハ新大統領は、経済面での失策と汚職に対する広範な抗議行動が何カ月も続いたことを受けてゴタバヤ・ラジャパクサ大統領(当時)が辞任したことを受けて、2022年7月21日に大統領に就任した。
失政と人権侵害が長年続いたスリランカは、政治・経済・人権面の危機の最中にある。スリランカ政府は、適切な社会的保護政策を実施し、蔓延する汚職問題に対処することで一般市民をさらなる苦難から守ることを優先すると同時に、表現の自由や結社の自由などの基本的権利を尊重し、治安部隊による人権侵害行為を終わらせるべきである。
「ウィクラマシンハ大統領は大変な難題に直面している。しかし、厳格な緊急事態規制を課し、デモ指導者らを政治的動機に基づいて逮捕し、活動家団体の監視を強化しても、スリランカの深刻な問題は解決されない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの南アジア代表、ミナクシ・ガングリーは述べた。「スリランカ政府の支援国・機関らは、スリランカ政府が人権や法の支配を尊重し、危機の根本的原因に対処しなければ、国際的な経済援助は効果的でないと明確にしている。」
ウィクラマシンハ大統領は7月18日に非常事態宣言を出した。その下では治安部隊に包括的な権限が与えられ、多数の基本的権利が停止され、軽微な、あるいは定義が曖昧な違反行為に厳しい刑罰が科される。ウィクラマシンハ大統領は就任の翌日、数カ月前からデモ抗議者が占拠していたコロンボ中心部の拠点からデモ隊を追い出すため、警察と軍隊を派遣した。弁護士やジャーナリストを含む50人以上が殴打され、負傷した。抗議者に対する弾圧は今も続いており、当局は少なくとも30人のデモ組織者を拘束している。その多くは令状がない、または私服の警官によるデュープロセス(適正手続き)を欠く逮捕である。
スリランカは5月に対外債務のデフォルトに陥り、政府は現在、債務再編と国際通貨基金(IMF)による救済の交渉をしようとしている。経済危機によって燃料を含む輸入品の深刻な不足や激しいインフレが起きており、何百万人もの人が貧困に陥っている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチからウィクラマシンハ大統領への提言の抜粋は以下のとおり。
- 市民が報復や逮捕を恐れることなく、自由で平和的な方法で意見を表明できるようにすること
- 曖昧で、過度に広範で、偏っている、または基本的権利を侵害する緊急事態規制の規定を撤回すること
- 権利を尊重する反テロ法が導入され、テロ防止法(PTA)の下で恣意的に拘束中の人びとが釈放されるまで、PTAの執行の正式な停止を発表すること
- 経済危機の影響からすべての人の権利を守るのに適し、かつ失策や汚職を防ぐように設計された新たな社会保護制度を導入すること
- 不正な資金の逃避場所をなくすための国際努力を支援するために、世界銀行と国連が共同で行う「隠匿財産回収(Stolen Asset Recovery, StAR)イニシアティブ」へのスリランカの参加を再開し、IMFとの合意の一環として再開を約束すること
- 深刻な人権侵害や上層部の汚職に関する通報・申立に対して、独立かつ公平な調査を行い、容疑者を適切に訴追すること
「この数カ月間で多くのスリランカ人が勇敢に街頭に出て、改革、汚職の責任追及、そして基本的権利を求めてきた」と前述のガングリー代表は述べた。「ウィクラマシンハ大統領は、抗議する人びとを黙らせようとするのではなく、耳を傾けるべきである。」