(東京)日本政府は対ミャンマー援助の内容 をただちに見直し、軍事政権、つまり国軍に利益をもたらす人道目的以外の事業を中断すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。日本は、ミャンマー政府の各省庁が携わる政府開発援助(ODA)のインフラ整備事業や、国軍支配下の組織がかかわる援助を直ちに停止すべきである。
2021年2月1日の軍事クーデターを受けて、日本政府は、ミャンマーでの人道目的以外の新規ODA案件の計画を控えると述べた。しかし進行中の事業については明確な公式見解をまだ示していない。最新の数字によると、2019年に日本がミャンマーに支援した金額は、円借款1,688.58億円、無償資金協力150.14億円、技術協力66.55億円となっている。
「ミャンマーでは治安部隊が路上でデモ参加者を銃殺している。日本は『様子見』するのではなく、ミャンマーへの援助の内容を迅速かつ責任を持って見直すべきだ」とヒューマン・ライツ・ウォッチ アジア局プログラムオフィサーの笠井哲平は述べた。「日本は、ミャンマー国軍幹部に対し、暴力的な弾圧を停止し、政治囚全員を釈放し、民主的に選出された政府を復活させるよう圧力をかける世界的な動きに連なり、軍政つまりは国軍を利する人道目的以外の援助事業をすべて見合わせるべきだ。」
現在、ミャンマーで行われている全国的な抗議活動は、国軍による統治への反発の幅広さを示すものだ。大半が非暴力的であるデモ隊に対し、軍政の執行機関である国家行政評議会の対応は残虐度を増している。クーデター以降、治安部隊は750人以上(うち子どもは少なくとも45人)を殺害し、活動家やジャーナリスト、公務員、政治家ら推計3,431人を拘束している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ含む4団体は、2月25日、茂木敏充外務大臣に対し、日本政府はミャンマーへの人道目的以外のODA事業を停止すべきとの書簡を送った。4月15日2021年に外務省担当者は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、日本が2020年7月2日に公表したミャンマー警察への無償資金協力供与額1億円の計画は「クーデターの発生を受け、本件に係る今後の対応は決まっていない」と述べた。同担当者は、同援助が完全に打切られたのか、一時的に中断されたのか明確にしなかった。この事業や継続中の他の援助事業に関しても、公的な声明は出されていない。
問題視すべき事業は他にもある。2016年12月に日本政府とミャンマー政府が承認したヤンゴンの「バゴー橋建設事業」だ。この事業では国際協力機構(JICA)による310.51億円の借款が実施されている。3月26日、現地メディア「ミャンマー・ナウ」は、この事業にはミャンマー経済公社(MEC)が関与していると報じた。MECは米国、英国、欧州連合(EU)が最近制裁対象とした国軍所有の巨大な複合企業体だ。同記事によると、ヤンゴン地方域モビ群区にあるMEC所有の製鉄所が、この橋の建設に必要な3分の2の鋼材を供給し、莫大な利益を得ている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチによる3月27日付の照会に対し、JICAは、この事業に関わる株式会社横河ブリッジが、2019年11月にMECおよびその関連会社との契約を締結したことを確認した。同社担当者は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対しMECとの取引を認めた上、クーデター発生以降は「資材不足もあり、実質的に工事はストップ」しているとした。また、「今後はミャンマーにおける関係者の安全確保に細心の注意を払いつつ、関係者とも協議しながら対応を検討」していくと同社担当者は述べた。
またこの事業は、ミャンマー建設省と、運輸省傘下のミャンマー港湾局により共同で進められている。
ミャンマー計画財務省が運営する援助サイト「モヒンガ」によると、日本は現在、同省および運輸通信省が直接関係する人道目的以外のインフラ整備事業に資金を提供している。このような事業についても見直した上、中止を検討すべきだ。
日本はミャンマーの主要なドナー国だ。2017年までに11,368.00億円の有償資金協力、3,229.62億円の無償資金協力、984.16億円の技術協力を供与している。 2017年時点、日本の対ミャンマーODAは、経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC)の加盟国・機関の中で最も多かった。 ミャンマーの事実上の指導者であるアウンサンスーチー氏が訪日した2016年11月、日本はODAや民間投資をあわせ今後5年間で8000億円を支援すると発表した。
日本はODA大綱で「開発途上国の民主化の定着、法の支配及び基本的人権の尊重を促進する観点から、当該国における民主化,法の支配及び基本的人権の保障をめぐる状況に十分注意を払う」と定めている。日本政府はこの人権にかかわる条項を発動すべきだ。
人道支援については、日本は事業を継続すべきだが、非政府組織を通じて資金を調達することで、資金が効果的に使用され、必要としている人々に直接役立つようにすべきである。開発援助については、人間の基本的なニーズにのみ焦点を当て、可能であれば独立した非政府組織を通じて行われるべきである。
クーデター以降、軍政はミャンマー投資委員会(MIC)および全ての地域投資機関を見直し、軍政の構成員であるモーミントゥン中将ら9人のメンバーを任命した。米国、英国、EUは「ミャンマーの民主主義と法の支配を毀損していること(略)、抑圧的な決定、深刻な人権侵害 」(EU)に直接関与し、責任を有しているとして同中将を制裁対象としている。2019年までラカイン州での軍事作戦を指揮していた陸軍司令官として、EUは同中将に「それゆえに、ロヒンギャ住民への深刻な違法行為や人権侵害行為に責任がある」とする。
「軍政を利する人道目的以外の援助について、その停止をめぐる日本政府の優柔不断さと沈黙はミャンマーでの軍事的抑圧を助長している」と、前出の笠井プログラムオフィサーは指摘する。「日本政府は、自分たちはミャンマーの人びとの味方であって、連日全土で起きているデモ隊の拘束や殺害の背後にいる将軍たちの味方ではないことを速やかにはっきりと示すべきだ。」