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Photo by David Ryder/Getty Images

私が最初に人種的偏見を体験したのは、親の仕事の都合で米国カリフォルニア州にある白人がマジョリティの田舎町に引っ越してから数年が経った頃でした。壁にボールをぶつけて遊んでいたときに、白人の友達と口喧嘩になったことがきっかけでした。

身をもって経験した偏見

「お前は余所者(よそもの)だ」

当時、「余所者(よそもの)」という英単語(Foreigner)を理解できず、なんども聞き返したのを覚えています。やっと理解できたときは、落ち込みました。(Foreignerは、「外国人」という意味のほかに、「よそもの」のような排他的な意味合いで使われることがあります)

 ただ、その後米国で体験した人種的偏見に比べたら、小学生のときの経験は軽いほうでした。「チンク」(中国人に対する侮辱語)や「グック」(アジア人に対する侮辱語)、「ジッパーヘッド」(起源は多々あるようですが、ひとつの説は、米軍兵士がベトナム戦争中に現地の人々を射殺した際、頭がジッパーを開けるように破裂したから、というものです)などの侮辱言葉は日常的で、「フラットフェイス(平らな顔)」、目を釣り上げるなど外見を揶揄されることもありました身体的な暴力(ヘイトクライム)の被害を受けたこともあります。

カメルーン人哲学者のアキーユ・ンベンベ氏の著書『ネクロポリティクス:死の政治学』から言葉を借りると、これら「人種主義による傷害」は「身体とその実質だけではなく、(省略)尊厳や自尊心など無形なものも攻撃するため、苦しく、忘れにくい」のです。彼が書いたように、「これらの痕跡はほとんど目に見えず、傷跡は癒えにくい」と感じます。

「日本に差別はない」のウソ

私は新型コロナウイルス感染症の流行を受けて増えているアジア人に対する暴力や、ジョージ・フロイド氏の殺害を受けて米国で広がるブラック・ライブズ・マターのデモを見たことで、個人的な経験が鮮明に蘇ったうえ、米国だけではなく日本における差別や偏見について考えるきっかけになりました。

例えば、歴史的に在日コリアンの人々は日本で差別を受けてきました。1923年には、関東大震災直後の混乱のなか、コリアンの人々が暴動や放火しているとデマが広まり、大勢の人々が殺害されました

今の日本では、民族や人種を理由にした暴力は希ですが、一部団体による在日コリアンのコミュニティを標的にしたヘイトスピーチなどは起きています。また、一部の人々は、「在日」と言う単語を「反日」と同義的に使用しています。(参照:朝日新聞DIGITAL

法的抑止力が皆無な日本

日本では外見が異なる人に対する偏見もあります。アフリカ系アメリカ人との「ハーフ」の宮本エリアナさんは、ミス・ユニバース日本代表に選出された際、ネットで「日本人らしくない」という言葉が寄せられました。このような排他的な反応は、インド人の父親を持つ吉川プリアンカさんがその翌年に同じタイトルを獲得した際にもありました。

日本政府の政策の下でも被害が発生しています。日本政府が拡大している「技能実習制度」では多くの外国人が技能習得の名目を示されて日本に来たものの、違法な低賃金や醜い偏見の被害にあっています。

また、日本は「単一民族国家」という神話を権力を持つ人びとが発信していることが、日本での排他的な感情を助長していると考えられます。なぜなら、そうした神話は在日コリアンや先住民のアイヌの人々の歴史や経験を縮小化してしまい、マイノリティの声に耳を傾けなくなってしまうからです。(参照:the japan times

日本にいるマイノリティの人びとは弱い立場に立たされています。なぜなら、日本には人種、民族、宗教、性的指向や性自認(ジェンダーアイデンティティ)による差別を禁止する法律がないため、何が差別かという一般認識も低く有効な救済制度もほとんどなく、被害者は泣き寝入りを余儀なくされる場合が多いのです。また、日本政府は国連からの度重なる勧告にもかかわらず、いまだに国内人権機関を設立していません

間接的にでも考えるきっかけに

以上を踏まえると、米国に限らず日本にも解消する必要がある差別や偏見が多々あることがわかります。だからこそ、日本にいる人々はブラック・ライブズ・マターの運動をアメリカ特有のものと見ず、日本にも人種や民族を理由に差別や偏見の被害にあいやすい人々がいることを考える良い機会として捉えるべきです。

アフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者であったキング牧師は、「バーミンガム刑務所からの手紙」でこう書いています。

いかなる不正も、あらゆる公正に対する脅威となる。我々は、避けることのできない相互関係のネットワークのなかに生きており、運命というひとつの織物に織り込まれている。誰かに直接的に影響することは、皆に間接的に影響する」と。

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