先月の衆議院総選挙を受けて来週、特別国会が召集される見込みだ。新しい国会は、刑事司法制度の検証を始めてほしい。
死刑が確定していた袴田巌さん(88)に対する9月26日の静岡地裁の再審無罪判決は、検察の上訴権放棄により確定した。袴田さんは1966年、一家4人殺害事件で逮捕されて虚偽の自白を強要された。そして30年以上、確定死刑囚として拘禁されていた。
袴田事件は、刑事司法制度の改革が急務であることを改めて示している。畝本直美検事総長は10月8日、談話を発表し「再審請求手続がこのような長期間に及んだことなどにつき、所要の検証を行いたい」として、最高検察庁として検証を行う考えを示した。袴田さんの無罪が確定するまでに、1981年の再審請求開始から実に43年を要した。
検察庁自身による再審手続きの検証は必須だ。ただ、それで終わらせるべきではない。石破政権はもちろん、国会も、袴田事件の検証委員会を立ち上げ、立法を含む抜本的な是正措置につなげるべきだ。
具体的には、少なくとも以下の3点の検証が必須だ。まず、自白の強制のまん延。日本の刑事司法制度は、保釈なしに長期の身体拘束をしたうえで弁護士の立会いなしに脅迫・誤導などの取り調べで自白を迫る「人質司法」が、長年批判されてきた。
そして、死刑制度。死刑は残虐で不可逆的、かつ回復不可能な刑罰であることを踏まえ、廃止されるべきだ。しかも日本では、死刑執行が当日、直前に本人に告知される運用だ。袴田さんは33年間毎日、今日こそ死刑が執行されるかもしれないという恐怖のもとにおかれていた。
さらに再審制度の不備。手続きに43年という断じて許されない歳月を要した袴田事件を通じて、再審制度の不備が改めて浮き彫りになった。再審法の改正が必要だ。
袴田さんは、自白を強制され、死刑を宣告され、機能不全の再審制度によって何十年も死刑囚として拘禁された。こんなえん罪と処罰が今後二度と繰り返されてはならない。そのために、日本政府は、刑事司法制度の改革を開始すべきなのだ。