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Rohingya refugees walk on a muddy path as others travel on a boat after crossing the Bangladesh-Myanmar border, in Teknaf, Bangladesh, September 6, 2017. © 2017 Reuters

ロヒンギャ難民のヤスミナさん、15歳。筆舌に尽くしがたいレイプを生き延び、バングラデシュの難民キャンプにたどり着きました。2017年8月下旬、ヤスミナさんの家族は、村から逃げ出したところを、ビルマ軍兵に発砲、刺殺されてしまいました。ヤスミナさんはかろうじてその場を逃れ、川を泳いで渡って次の村になんとかたどり着きました。しかし暴力の手はヤスミンさんを捕えました。国軍兵士たちに取り押さえられ、小屋に連行され、他のロヒンギャの女性・少女たちと一緒に、集団レイプされたのです。

「レイプは続きました。男たちが入れ代わり立ち代わり…全員が軍服を着ていました」と、ヤスミナさんは話します。「体を起こすと体中に激痛が走って…でも次の瞬間思ったんです。『どうする?ここにいたら死んでしまう』と。そして他の被害女性たちと外に出ました。全部で9人だったと思います。私たちは駆け出したんです。」

世界中の多くの人びとが、ラカイン州北部のイスラム教徒ロヒンギャの人びとに対するビルマ国軍の残虐行為に、心を痛めています。日本政府は暴力行為を非難はしましたが、暴力終結を促すため、ビルマ政府にいっそうの圧力をかけるべきです。

今回の危機は規模と深刻さの面できわめて重大で、国際社会の強力な対応が必要です。62万人以上の成人男女と子どもたちが民族浄化作戦から逃れ、バングラデシュ国内の巨大で過密な難民キャンプに身を寄せています。ロヒンギャ難民たちの安全、人間としての尊厳、そして未来は、不安に満ちています。

今回のロヒンギャへの軍事作戦の発端は、ロヒンギャの武装集団が8月25日、複数の政府施設と陸軍基地1カ所を襲撃した事件です。国軍はロヒンギャ村落に大規模攻撃を行い、対ゲリラ戦を口実にロヒンギャ住民を追い出しました。兵士による虐殺などの殺害、恣意的逮捕、大規模な放火、広範なレイプも行われたのです。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、バングラデシュに逃れたロヒンギャ成人女性・少女52人に話を聞きました。うちレイプのサバイバーは実に29人に上りました。1人を除く全員が国軍の軍服を着た男たちに集団レイプされました。女性たちは口々に、殴られ、蹴られ、胸にかみつかれたと訴えました。人道団体側は数百人のサバイバーを診察したとのことですが、氷山の一角にすぎないとみるべきです。性暴力被害のスティグマや難民キャンプの混乱のせいで、多くの被害者はレイプ被害を言い出せないのです。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、バングラデシュへの脱出の逃避行中、性器の腫れや傷の激しい痛みに耐えながら何日も歩きとおしたという、集団レイプのサバイバーたちから話を聞きました。一歩ずつ、一歩ずつ、何日もかけて歩いてきたそうです。筆舌に尽くしがたい痛みでした、とある女性。インタビューに応じてくれた女性たちの多くは、バングラデシュ側に来てすでにひと月が経っていましたが、いまだに性器の裂傷や感染症が癒えていませんでした。

レイプによる恐怖や不安は、長期にわたり続くことが多いのです。サバイバーたちは、眠れない、食欲や他人への関心の減退、おびえや不安が常に続く、鬱状態などを訴えました。ある女性は「家には絶対戻らない」と語りました。またヤスミナさんは感情が凍り付いたまま、と言います。

私たちが話を聞いたロヒンギャの成人女性・少女たちにとって、レイプを口に出し、人生最悪の苦しい経験を話すことは容易ではありませんでした。インタビューに応じてくれた方々は、世界に実態を知ってほしいと願ったからこそ、あの苦しいインタビューに応じてくれたのです。彼女たちが求めているのは行動です。

しかし日本政府は彼女たちの訴えに耳を貸してきたでしょうか。はなはだ疑問です。

まずはじめの一歩として、日本政府が今月12月から国連の安全保障理事会で議長国を務めるにあたり、やるべきことがあります。紛争下の性的暴力に関する国連特別代表パッテン氏を公開会合に招き、ロヒンギャに対する性暴力についてパッテン氏が最近行った調査結果のブリーフィングを行うべきです。

また日本政府は安保理に対し、重大な人権侵害行為に関与したビルマ国軍幹部へのビザ発給停止と資産凍結、ビルマへの武器禁輸措置、ビルマの事態の国際刑事裁判所(ICC)への付託を求めるべきです。11月には国連総会(第3委員会)で「ロヒンギャ民間人に対する超法規的処刑、レイプ…、恣意的拘禁や説明なしの失踪、[および]家屋の大規模な破壊と組織的な追放」を非難する決議が採択されました。しかし日本政府はこの決議に、あろうことか棄権したのです。重要な機会を逸しました。日本は12月の国連総会本会議の場では態度を改めるべきです。また国連人権理事会でも、ロヒンギャの基本的権利保護に向けた行動に、支持を表明すべきです。

同時に日本政府は、ビルマ国軍が保有する主な企業との金融取引を禁止すべきです。さらにバングラデシュのロヒンギャ難民を支援する人道援助の活動に継続して資金提供するとともに、難民がビルマへ意に反して送還されない権利を擁護することも求められます。

ビルマ政府は、広範なレイプを含む全ての国軍の不法行為について、メディアの中でも、そして形ばかりの「調査」の中でも、責任なし、としています。それどころか、あるビルマ政府高官は9月、レイプのサバイバーを嘘つき呼ばわりしてこう言いました。「証拠なんてないじゃないか。被害を訴えている女たちを見てみるがいい。誰がレイプしたいと思うかね?」

こうした中、ロヒンギャのサバイバーたちは、日本を含む国連加盟国の精神的な支援、そして具体的行動を必要としているのです。とくに、人権尊重をうたう国々、中でも日本のようにビルマ政府に大きな政治的影響力をもつ国の行動が、今こそ求められています。

日本政府はロヒンギャのレイプ・サバイバー側に立てるのか?それが、問われているのです。

土井香苗 (ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表) & スカイ・ウィーラー (ヒューマン・ライツ・ウォッチ 女性の権利・緊急対応部門調査員)

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