<2017年7月26日時点アップデート> ハナム省人民裁判所は7月25日、チャン・ティ・ガー氏に9年の実刑、5年の保護観察(probation)の判決を下した。
(バンコク) ― ベトナム政府は人権活動家のチャン・ティ・ガー(Tran Thi Nga )氏を即時釈放して訴追を取り下げるべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した。トゥイ・ガー(Thuy Nga)としても知られる同氏は、2017年7月25日にハナム省人民裁判所で公判が予定されている。当局は1月21日に、刑法第88条にある「国家に敵対する宣伝」の罪で、氏を逮捕した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長代理フィル・ロバートソンは、「ベトナム政府は、チャン・ティ・ガー氏のような活動家を標的にし、長期刑が科される罪をなすりつけて訴追したり、家族に嫌がらせや人権侵害行為を働くことで批判を沈黙させようと、日々極端な手段に訴えている」と指摘する 。「援助国政府はそのレバレッジを用いて、今すぐチャン・ティ・ガー氏を釈放するようベトナム政府に要請すべきだ。そして、友好関係の維持に必要なのは、批評者の投獄ではなく容認だと、きっぱり明言すべきだ。」
チャン・ティ・ガー氏(40歳)の仲間の人権活動家で、「マザーマッシュルーム」の名でも知られるグエン・ゴック・ニュー・クイン( Nguyen Ngoc Nhu Quynh)氏が1カ月前、たった1日の裁判で第88条のもと、10年の実刑判決を宣告されたばかり。マザーマッシュルームに長期刑が下されたことで、チャン・ティ・ガー氏のような公安関連で訴追されているその他の活動家たちに対しても、権利行使理由に厳罰が下される懸念が深まっている。
国営メディアによると、チャン・ティ・ガー氏は、政府に批判的な「多数の動画や記事を投稿するためにインターネットへアクセス」したために逮捕された。同氏は刑法第88条第1項のもとで、最高12年の刑に直面している。同条は公安関係規定のなかでももっとも厳しいもののひとつで、批判者を恣意的に罰し、反対意見を封じ込めるために常々適用されてきた。同条は平和的な政治的言論を、厳罰処分される「国家に背くプロパガンダ」に仕立て上げるもの。同条はまた、ベトナム刑事訴訟法に基づき、国家安全保障上の犯罪として、捜査期間中に個人を外界との連絡を絶って隔離拘禁することを認めている。
チャン・ティ・ガー氏の逮捕は、あいまいな解釈の下、国家安全保障関連犯罪で訴追されたブロガーや活動家に対する、ベトナム政府の継続的な弾圧の一環と言える。現在100人超の活動家が、表現・結社・集会・信教の自由を行使したために投獄されている。ベトナムは無条件でこれら個人を釈放し、平和的な表現行為を犯罪とする法律すべてを廃止すべきだ。
チャン・ティ・ガー氏は人身取引や警察の残虐行為、土地の接収などの人権侵害と長らく闘ってきた労働活動家。同氏はこれまで、仲間の活動家との連帯を示すため、環境抗議集会に参加したり、ブロガーや活動家の裁判を傍聴したり、政治囚の家を訪ねたりしてきた。2013年11月に設立された「人権を求めるベトナム女性の会」(VNWHR)の執行委員を務めたこともある。
ベトナムの当局者は、チャン・ティ・ガー氏の一貫した政治活動に目をつけ、何年ものあいだ威嚇や嫌がらせ、身体的暴力を繰り返してきた。2014年5月に、平服姿の男5人組がハノイの通りで同氏を襲撃し、鉄棒で腕や足の骨を折るけがを負わした。襲撃は撮影されていたが、警察は動画証拠にもかかわらず事件の捜査を拒否。2015年3月にはハノイの治安要員が氏を拘束し、ハナム省の故郷に連れ戻した。護送中の氏は、助けが呼べないよう男に首をねじられ、猿ぐつわをはめられていた。他の男2人が両手足を押さえつけ、4人目の男が平手打ちしたり、げんこつで殴ったりした。
チャン・ティ・ガー氏に対する暴力は、ベトナム全土で権利を行使する人びとに行われている広範な暴力行為の一環だ。 ヒューマン・ライツ・ウォッチは2017年6月の報告書で、ブロガーおよび活動家が暴漢に威嚇・脅迫され、暴行された36件のケースを調査・検証。警察官の目の前で起きたケースもあったが、 警察官は通常止めに入ったり、加害者を捜査または逮捕することはない。また、チャン・ティ・ガー氏のように、後に刑法第88条の下で逮捕されるケースもあり、当局と暴漢のつながりに疑念を抱かせる。ベトナム政府はすべての襲撃の停止を命じ、加害者の罪を問うべきである。
チャン・ティ・ガー氏の弁護士ハー・フイ・ソン(Ha Huy Son)氏によると、ハナム省の拘禁施設で氏の健康状態が悪化しているという。2017年6月に病院での治療を求めたが、拒否されている。
チャン・ティ・ガー氏は、FacebookとYouTubeを使って批判の声をあげ、抗議集会や被拘禁者についての最新情報を共有し、かつ政治的自由のための闘争で互いを支えあいながら広がっている、ベトナム人人権活動家およびブロガーのコミュニティの一員だ。しかし、平和的な行動主義を喚起する役を果たすことから、インターネットは批判者に対する政府弾圧の場となっている。国家安全保障関連法のもと、活動家たちをオンラインの活動を理由に逮捕することに加え、政府は大規模な抗議集会の際にはFacebookのアクセスを遮断したり、多国籍企業に対してソーシャルメディア・サイトから広告を引き上げるよう圧力をかけている。
ロバートソン局長代理は、「チャン・ティ・ガー氏を脅迫し、襲撃した暴漢たちこそ捜査の対象となるべき人間なのであって、母国で起きている権利侵害に声をあげている人間がその対象になるべきではない」と述べる。「オンラインと市井の平和的な言論を抑圧しようとする政府の労力は、言論の自由を主張し続けるより強い決意を、批判者たちに与えているにすぎない。」