(ワシントンDC、2017年1月25日) -ドナルド・トランプ米大統領が2017年1月25日に署名した移民および国境政策に関する2つの大統領令は、数百万人規模の移民および米国国民に深刻な被害を与えるだろうと、本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた 。
これらの命令は出入国管理の執行優先順位を広く定めたもので、犯罪歴のない人びとも含む数百万人規模の非正規滞在者に適用されることになる。命令は、いわゆる「聖域都市」および州に不利益を科し、人権侵害の頻発している略式強制国外退去手続および外国人の長期間拘禁の強化を目指す。 また、庇護希望者の入国まで阻止する恐れのある厳しい国境政策を定め、リンドン・B・ジョンソン大統領以来、米国が従ってきた国際難民法に抵触し、難民を危険な状況に送り返すという事態に至る可能性もある。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ米国プログラム共同ディレクターのアリソン・パーカーは、「トランプ大統領はこのひとつの決定によって、軽微な犯罪歴しかない、あるいは全く犯罪歴がない人びとを深刻な危険の中に送り返し、その米国籍の家族を絶望に陥れる可能性がある」と指摘する。「この命令の結果、米国との長期的な関わりを持つ人びとに危害を及ぼすとともに地域を恐怖に陥れるような過度に広範な検挙が行われる可能性がある。」
「刑事犯罪に該当する行為を犯した」個人の追放を優先するというトランプ大統領の決定は、重大な人権問題を含む。
最近のヒューマン・ライツ・ウォッチによるブリーフィングでも詳しく述べられているように、トランプ大統領の政策は、正規滞在者を含む有罪判決を受けていない個人、あるいは出入国関連の違反以外犯罪を犯していない個人を含む数十万人が一掃される危険をはらんでいる。実際には、出入国管理当局は、米国へ不法入国した人びとの強制送還を優先するとみられるが、米国に滞在している非正規滞在者1100万人の半数以上が対象に含まれることになる。
トランプ大統領の命令はまた、暴力と人権侵害が多発する米国の入管拘禁制度の利用を大幅に拡大させることになる。連邦政府機関に対し、すみやかに拘禁能力を強化し、強制送還手続の結果が出るまで外国人をほぼ全面的に拘禁するよう指示しているからだ。 ヒューマン・ライツ・ウォッチは、入管施設への過度な拘禁により、人びとが危険な収容環境におかれている現状及び強制送還に関する公正な審問を受ける権利が侵害されている現状を調査・検証してきた。
もうひとつの大統領令で庇護希望者の権利を脅かす国境政策を発表。これらの政策は、「迅速追放」システムとしてしられる略式強制送還手続の使用を拡張し、米国に不法入国した人びとの刑事訴追を促進するものだ。迅速追放システムおよび不法入国の訴追は庇護希望者や、長期滞在者(米国籍者の家族がいる場合が多い)の権利に悪影響を及ぼしている。米国法および国際法が長年保障してきた保護を求める、迫害や暴力から逃れてきた子どもなどの個人への影響も必至だ。
大統領令はまた、ビザなしでメキシコから入国した人びとを同国に送り返すために、その権限を用いるよう米政府に指示するものでもある。庇護希望者を米国外に退去させてしまえば、庇護の主張を完全かつ公正に審査してもらう能力を申請者から奪ってしまうことになりかねない。
トランプ大統領はまた、地方警察を出入国管理法の執行代理機関とする合意をとりつけることを目指すと発表した。そして、連邦出入国管理局に対する地元法執行機関の協力を制限する「聖域」政策をとっているとトランプ政権がみなす都市や州に対し、連邦交付金の停止も指示している。
トランプ大統領はこうした決定は地域の安全のためと主張するが、移民と犯罪を一緒くたにしており、危険で誤ったものだ。移民の増加で犯罪も増加するという神話は数多くの研究によって否定されている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査によると、一部のコミュニティーでは、地方警察が出入国管理執行機関に関与している結果、レイプなどの暴力犯罪を含む犯罪の被害者が、警察への報告を恐れるという事態が起きていることがわかっている。地域の法執行機関の多くは、トランプ大統領が批判するところの、外国人の滞在資格に拘わらず地域の犯罪を報告するよう奨励する政策を支持している。それが結局あらゆる人の安全を守る最善の方法だと考えているからだ。移民と犯罪を結びつける政策や政治的レトリックは、外国人嫌悪による暴力ほかの犯罪に油を注ぐことにもなりかねない。
パーカー共同ディレクターは、「トランプ大統領は、アメリカ第一主義ゆえにこれらの決定が必要と主張する。しかし現実には、家族が一緒に暮らし、地域が安全・安心であるという米国国民の利益を害することになろう」と述べる。「米議会と裁判所、そして一般市民がこうした政権の動きをチェックし、すべての人びとの権利のために立ち上がる必要がある。」