(ラングーン)ビルマ新政権は議会の多数派であることを利用し、非暴力の言論や集会を犯罪化するために使われている軍政期や植民地期の法律を廃止または改正すべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で述べた。
「ビルマの歴代政権は、適用範囲が広く、語の定義もあいまいな法律を定め、基本的自由を統制し、犯罪にすることで、何千人もの政治囚を生み出してきた」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは指摘する。「国民民主連盟(NLD)率いる新政権は、暴力によらない表現やデモを理由に投獄されていた人びとを多数釈放するとともに、その他の人びとへの起訴を撤回する素早い動きを見せた。だが政治囚が再び生み出される状況を一切作り出さないためには、抑圧を行う法的基盤の解体がきわめて重要である。」
今回の報告書『「いつ逮捕されてもおかしくない」:ビルマでの非暴力表現の犯罪化』(全113頁)は、適用範囲が広く、語の定義もあいまいなさまざまな法律が使用・乱用されることで、公共の利益に関する討論など、暴力によらない表現が犯罪とされる現状を明らかにするとともに、こうした法律の廃止や改正について具体的な勧告・提案を行っている。
報告書はビルマ刑法のほか、平和的集会及び平和的行進法、電子通信法、ニュースメディア法など各法の条文の詳細な分析に基づいている。またこれらの法律によって起訴された人びとのほか、ジャーナリストや市民活動家、弁護士への聞き取り調査の結果も反映している。また、政府が直ちに取り組むべき具体的な法改正の提案も行った。
この5年間、ビルマには自由化と変革の時が訪れている。だがテインセイン前大統領時代には、新たな自由を用いて政府や国軍を明確に批判した人びとが、たびたび逮捕、起訴されていた。反体制派への報復を助長したのが、表現や非暴力的集会の開催など国際的に保護されている権利を侵害する一連の法律だった。これらの法律には、イギリス植民地期に遡るもの、歴代軍事政権が制定したもの、テインセイン政権の表面的な改革が定めたものがある。ラングーン在住の弁護士パンロン氏がヒューマン・ライツ・ウォッチに2016年1月に述べた言葉を借りれば「こうした法律があるからこそ、いつでも逮捕が可能なのだ。逮捕されない保証などない」のである。
人権侵害の度合いが最も激しいのは2012年の平和的集会及び平和的行進法に関するもので、この数年間で非暴力のデモ隊を多数逮捕・起訴するのに用いられている。標的となったのは、政府への軍の関与に抗議する学生、鉱山開発や軍施設の利用を目的とした土地接収に抗議した農民、他のジャーナリストの逮捕に抗議したジャーナリスト、国民の団結を求めて単身行動に出た個人などである。平和的集会法違反の容疑は、刑法505条(b)違反と組み合わされることが多い。この条文には「公衆の不安を惹起する恐れのある」発言を犯罪とする、とのあいまいな表現がある。例えば学生のゼヤールウィン氏、パインイェトゥ氏、ナンリン氏の3人は逮捕後に保釈なしで拘留され、この2法に基づくそれぞれ2つの容疑で起訴された。そして新政権が起訴を撤回するまで最大5年の刑に服する恐れにさらされた。
テインセイン政権下で逮捕された人びとの釈放は、2016年4月と5月の非暴力デモ隊への新たな逮捕劇で相殺された。5月下旬に議会上院を通過した新集会法は、2012年法に比べて大幅に前進したが、依然として同じ欠陥を抱えており、国際基準に合致させるための改正が必要だとヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
電子通信法66条(d)は、政府や国軍を「侮辱」した、あるいはその悪い面を強調したと見なされる人物の逮捕・起訴に用いられている。例えば、人道援助を行うパトリック・クンチャーレー氏と活動家のチャウサンディトゥン氏の2人は、Facebookへの投稿が国軍最高司令官への「侮辱」と見なされ、6ヶ月の刑に服した。
刑法の名誉毀損罪とニュースメディア法は、政府を批判する報道を行ったジャーナリストの起訴に用いられてきた。ユニティ・ジャーナル紙の記者5人は国家機密法で2014年に10年の刑を宣告された(後に7年に減刑)。この5人は新政権によって4月に釈放されたが、投獄に用いられた法律そのものは改正されていない。
「総選挙の圧倒的勝利を背景とする新政権には、国内法の抜本的な見直しを行い、警察が玄関先にやってくることも、裁判所に連れ出され、犯罪者として起訴されることもなく、人びとが平和的に自らの意見を述べることを保証する義務がある」と、前出のアダムズ局長は述べた。「だが大胆な改革への窓はいつまでも開かれているわけではない。政府はこの課題を国会の再開に合わせ、最優先で取り組むべきである。」