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すべての子どもが家族と暮らせる未来を切り開く、画期的な児童福祉法改正が2016年5月27日、塩崎恭久厚生労働大臣のリーダーシップの下、国会で可決・成立した。施設偏重を批判されてきた日本の社会的養護行政を抜本的に改善するチャンスである。法案成立を歓迎するとともに、施設での集団生活で寂しい思いをしている子どもたちに一刻も早く愛情ある家庭を用意すべく、来年4月1日の施行日に向けて行政の迅速かつ徹底した行動を求めたい。

日本では、虐待や予期しない妊娠など、何らかの理由で親子分離された子どもたちは全国で約3万9千人にのぼる。こうした「社会的養護」下にある子どもたちの実に9割近くにも上る子どもが、児童養護施設や乳児院などで集団養育されている。里親家庭や養子縁組によって、新たに愛情を注いでくれる家族にめぐりあえた子どもたちは例外的だ。こうした日本の「家庭分離・施設偏重」型政策は世界的にも突出しており、国際的にも脱施設化を厳しく求められてきていた。

改正児童福祉法の内容

今回の改正児童福祉法が文言通りしっかり実施されれば、施設から家庭へと社会的養護は大転換するはずだ。新設された第三条の二は、すべての子どもを養子縁組、里親を含む「家庭」で育てるという新しい「家庭養護原則」を謳う。施設入所は、これが「適当でない」場合のみに限定し、しかもその場合でも「できる限り良好な家庭的環境」の施設にすることを義務づけた。日本の現状に照らせば画期的な内容の条文だ。就学前の子どもたちはもちろん、産みの親と暮らせない子どもたちであっても、養子縁組や里親家庭などの新しい家族と暮らし続けられる制度が整うはずである。

加えて、児童福祉行政の中で養子縁組がほとんど活用されていない現状を改めるため、養子縁組を法律上より明確に位置づけたが、さらにその利用促進に向けて検討するとしている。

家庭で育つ権利とは

国際人権ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は2014年5月、全国200人以上からの聞き取り調査の結果を報告書「夢がもてない―日本における社会的養護下の子どもたち―」(全89頁)にまとめ、日本の施設偏重の実態を批判し、抜本的な改革を求めた。昨年9月に子ども家庭福祉に関する厚生労働省の審議会(以下、「子ども家庭福祉審議会」)が設置されてからも、制度改正の具体的なあり方についても書簡を送付するなどして提言を続けてきた。

子どもの権利条約20条第3項は、家庭で育つ権利を定める。子どもの代替的養護は養子縁組や里親家庭などで行うこととし、施設収容はその「必要がある場合」に限るとしているのだ。国連・子どもの権利委員会は「子どもの施設入所は最終手段」としており、日本政府に対して2010年、「家族基盤型の代替的児童養護についての政策の不足」に懸念を表明していた。

大阪の施設に入所するノゾミさん(仮名、15歳)は「将来の夢なんてありません」と語る。

「たいていの職員は仕事だから僕たちの相手をしているみたいに思えてしまう。仕事だから遊んでくれるだけ。愛してくれるわけじゃないんです。」と東京の施設に入所するケンジさん(仮名、17歳)。

今後の課題

子どもの最善の利益よりも、様々な「大人の事情」を優先してきたお役所判断が、今の施設偏重型政策を生み出した。茨城県つくば市の施設職員は「日本では親の利益が子どもの利益より重要だと見なされる」と語っている。今後は、改正児童福祉法に沿って、里親より施設を選ぶ実親や、補助金を手放したくない既存施設の業界などの「大人の思惑」を乗り越え、子どもの最善の利益を実現できるかが問われることとなる。

今後に向けて必要と思われる主要な取り組みをいくつか列挙してみたい。

1. 里親比率1/3目標の達成時期の前倒し

日本政府は、現在15%程度にすぎない里親率を1/3に増やし、施設を2/3に抑える目標を2015(平成27)年から推進してきた。しかし、それには15年をかけるとし、達成目標は2029(平成41)年とされている。子どもが毎日成長していることを考えれば遅きに失するというほかない。今回の児童福祉法改正を機に達成時期を抜本的に見直し、特に就学前の乳幼児については来年4月1日の改正法施行時に100%の達成を目指すべく、今から全力で体制作りに注力すべきである。

2.施設の新規建設禁止とレジデンシャルケア(住居型ケア)化

施設から家庭へと社会的養護が転換する中で、新たな施設の建設をやめることは当然である。一方、施設入所が子どもの最善の利益となる場合は、少ないけれども存在する。国連・ユニセフの子どもの権利条約に関するハンドブック282頁は、例えば、①里親との関係が何度も破綻した子ども、②分離を望まない大人数の兄弟姉妹、③自立する直前の10代後半の子どもをあげる。

しかし、HRWの報告書「夢がもてない」で詳述したとおり、日本にある施設の多くはあまりに質が低すぎる。そのため、施設入所が最善の利益となる子どもたちが暮らすための施設環境をすべて、少人数が暮らすグループホームなどのレジデンシャルケア(住居型ケア)化していく必要があり、そうしたレジデンシャルケア施設の新設は推進していくべきである。それと平行して、本体施設の廃止とともにレジデンシャルケアにおける職員比率の改善が急務であり、国際的なベストプラクティスを考慮して、子ども:スタッフの比率は当面のところ1:1を目指すべきである。

3. 家庭養護原則を進める具体的な基準の策定

今回の改正法に明記された家庭養護原則を実施するために、各自治体の現場スタッフが参照できる具体的な基準の策定が必要だ。その内容については、子ども家庭福祉審議会が提言した内容[1]を踏まえつつ、日本政府も支持を表明している国連・子どもの代替的養護に関する指針を含む国際基準に沿った内容とすべきである。特に、里親委託を避けたいという実親の意向によって多くの子どもが施設に入所するという実態をゼロにする基準であることは最低限必要だ。

4. 子どもの最善の利益となる特別養子縁組の促進

改正法では、特別養子縁組制度の利用促進の在り方を検討することが規定されている。すべての子どもに対し家庭養育の永続性を保障すべく、子どもの最善の利益を実現する制度改正を早急に進めるとともに、恒久性(パーマネンシー)の保障を法律に明記していくことが必要だ。

その他にも、5. その子どもの最善の利益に反してすでに施設入所中の子どもたちの迅速な家庭移行の実施(福岡市児童相談所のように、専任の家庭移行担当者をおくことが必要であろう)、6.障がいを持つ子どもの家庭養護・家庭移行に向けた施策の検討・推進、7. すべての児童相談所への弁護士配置を迅速に進め、子どもの最善の利益が親権などと衝突する場合でも、司法介入を通じて子どもの最善の利益を確保する制度を導入することなど、様々な追加的施策が必要となる。

次世代のために

実務レベルでも児童福祉法改正をバックアップする様々な動きがでている。今年4月4日「養子の日」には、合計33の自治体(県11、市9)と13の民間団体が協力し、子どもが家庭で暮らす社会の実現に向けた「子どもの家庭養育推進官民協議会」(会長・鈴木英敬 三重県知事)を発足させた。

「幸福、愛情及び理解のある」「家庭環境」で育つことを基本的権利と謳った子どもの権利条約を1994年に日本が批准してから20年以上。この間に大人になった子どもたちにとっては遅すぎた改正だったと言わざるを得ない。しかし、次世代を支える今の子どもたちに同じ過ちを繰り返さないために、まい進すべきだ。児童福祉法改正はその大きな一歩である。


[1] 社会保障審議会児童部会 新たな子ども家庭福祉のあり方に関する専門委員会「報告(提言)」P24の「就学前の子どもの代替的養育の原則」にて、「就学前はもとより子どもの代替的養育は、アタッチメント形成や発達保障の観点 から、原則として家庭養育とし、児童福祉法にその旨を明確にすべきである。施設養育を選択する時は、養育先への委託が緊急を要している場合、きょうだいの分離を防止する場合、事前に決められた限られた期間の場合、家庭養育では困難な専門 的支援に関する課題を有する場合、当該子どもにとって適切な家庭養育先がない場合など、限定的な場合とすべきである。」とする。(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000116161.pdf)

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