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  1. 北朝鮮の人権侵害被害者にアカウンタビリティ(責任追及・真相究明)がなぜ必要なのでしょうか?

2014年、朝鮮民主主義人民共和国における人権に関する国連調査委員会(COI)は、人道に対する罪(皆殺し、殺人、奴隷、拷問、拘禁、レイプ、強制堕胎、訴追、計画的な飢餓、強制失踪など)が「国家最高レベルでの政策による」ことを明らかにしました。何十年にもわたるこうした人権侵害の重大性、規模、本質は、北朝鮮が「現代世界に類をみない国家であることを露呈」させています。

北朝鮮の無数の被害者は救済されてしかるべき存在です。北朝鮮での世界最悪レベルの人権侵害に関して不処罰が蔓延する現状に終止符を打つ上で、法による正義は依然として決定的な重要性を持っています。調査委員会は、北朝鮮政府が「加害者を起訴し、法の裁きの下に置くという国際的義務の履行に消極的であるが、それは加害者の行動が国策に則っているためである」と記しています。さらに国連安全保障理事会に対して、北朝鮮の事態を国際刑事裁判所(ICC)に付託するよう強く求めています。 

  1. アカウンタビリティに関する専門家パネルの設置が提案されていますが、この組織はどのようなものですか?

国連総会への最新の報告書で、朝鮮民主主義人民共和国の人権状況に関する国連特別報告者(国連北朝鮮人権状況特別報告者)は「アカウンタビリティ確保の手順が緊急に実施されなければならない」ことを強調しました。また「専門家グループが会合を行い、朝鮮民主主義人民共和国による人権侵害に関する今後のアカウンタビリティ確保メカニズムについて議論すべき」との見解を表明しています。国連人権理事会は一連の決議でアカウンタビリティの必要性を強調しており、人権理事会第30回会期でのプレナリー・パネルディスカッションでも、国連人権高等弁務官と多くの国家がこの訴えを支持しています。

目標の実現に向け、国連人権理事会の次回会期では、私たちは参加国に対し、専門家パネルを設置し、北朝鮮での犯罪行為に対処するため、これまでより更に広範な移行期正義戦略の策定をその目的とするよう強く求めます。専門家パネルのマンデートには次の事項が含まれるべきでしょう。

  • 犯罪者のアカウンタビリティを確保する国際的・国内的な選択肢を概説すること
  • 法による正義の実現に向けて創設すべき法的・制度的枠組みを、必要に応じて同定すること
  • ICCへの付託の可能性も考慮しつつ、訴追戦略を考案すること
  • とくに責任の重い人間のアカウンタビリティを確保するため、国際法に基づくアカウンタビリティ確保の考えられる手段について助言を行うこと

犯罪行為のアカウンタビリティの確保に向けた選択肢の分析に取り組むことに加え、国連人権理事会は専門家パネルに対し、真実を解明し、被害者とその家族のニーズに応える上で利用可能な選択肢を検討するよう考慮すべきです。また専門家パネルについては、国連人権理事会第34回会期で作業結果を報告すると定めるべきです。

  1. 北朝鮮に関する国連調査委員会は、人道に対する罪を犯した者のアカウンタビリティ確保の重要な手段としてICCを挙げています。なぜ専門家パネルが必要なのでしょうか?

北朝鮮はICC設立条約の批准国ではないため、北朝鮮の事態を付託し、今後の犯罪捜査を求めることができるのは国連安全保障理事会だけです。各国からは国連人権理事会国連総会の双方でICCの付託を検討すべきとの声が上がっています。国連安全保障理事会は北朝鮮の過酷な人権状況を2年連続で正式にアジェンダとしています。

国連安全保障理事会に対し、北朝鮮の事態のICC付託を強く求めることは、今も国際社会の優先課題でなければなりません。しかし中国とロシアが討議への反対を崩さないことを踏まえると、ICC付託の実現の見通しはいまだ厳しいものがあります。国連安全保障理事会でICC付託への政治的支持を築くには時間がかかるでしょう。控えめにみても、継続的な支持と戦略的アドボカシーについても同様です。

しかし国連安全保障理事会がたとえ付託に動いても、ICCの広範な裁判権と限られた資源を踏まえれば、少数の事案だけが審議される可能性が高いでしょう。より包括的なアカウンタビリティ戦略が、北朝鮮の何十年にもわたる不処罰への対処では必要となるでしょう。

  1. 専門家パネルの設置がなぜそれほど重要なのでしょうか?

特別報告者は「アカウンタビリティをめぐる問題は初期段階で、長期的な戦略を念頭において対処されるべき」であって、「変化の過程の最終段階で[略]行われるべきではない」点を強調しています。

事実、調査委員会が画期的な報告書を発表し、北朝鮮での衝撃的な人権侵害の状況のあらましを伝えてから2年が経過しています。アカウンタビリティ確保の重要性とICC付託の必要性とを国際舞台で強調するという面では、明確な進歩がありました。しかし課題は山積しています。包括的なアカウンタビリティ戦略を考案するプロセスは、文脈を問わず複雑かつセンシティブで時間のかかるものなのだからこそ、専門家パネルがこのギャップを埋めるために優先して設置されなければなりません。こうした分析は、北朝鮮政府による悲惨な人権侵害を停止させ、責任者のアカウンタビリティ確保を実現すべきとの国連加盟国からのメッセージをいっそう強めるものにもなるでしょう。

  1. 提案されている専門家パネルと人権高等弁務官ソウル事務所との違いは何ですか?

2014年3月の決議で、国連人権理事会は人権高等弁務官事務所に対し、現地事務所を設置し、朝鮮民主主義人民共和国の人権状況に関する特別報告者への支援を強化するよう要請しました。現地事務所のマンデートは次のとおりです。

  • 朝鮮民主主義人民共和国でのアカウンタビリティ確立への一歩として、人権状況のモニタリングと記録を強化すること
  • 関係国すべての政府、民間団体、その他のステークホルダーとの関与とキャパシティ・ビルディングを強化すること
  • 持続的な情報伝達、アドボカシー、アウトリーチ活動などを通じて、朝鮮民主主義人民共和国の人権状況の可視性を維持すること

ソウル事務所の重要な役割は北朝鮮の人権状況のモニタリングと記録ですが、提案中の専門家パネルの中心は法的分析なので、両者の役割は大きく異なります。専門家パネルの活動はソウル事務所の活動と重複することなく、アカウンタビリティ確保のための法的な枠組および選択肢に重点を置くことでその活動を補います。他方でソウル事務所は、モニタリングと記録作成の作業を通じて証拠固めを引き続き行います。

さらにいえば、OHCHRソウル事務所のマンデートの大きさと人員の少なさとを踏まえると、アカウンタビリティ戦略の考案に関する複雑な法的・実務的問題を検討するための追加支援が必要です。専門家パネルが設置されれば、こうした問題に取り組む上で優れた位置を占め、必要に応じて、刑事裁判と移行期正義に関する専門家の知識を求めることになるでしょう。

  1. 提案中の専門家パネルは、アカウンタビリティに関する国連調査委員会のようなものでしょうか? さらなる資源が必要となるのでしょうか?

国連調査委員会は、世界各地の証人数百人への聞き取りに基づき、400頁近い報告書を作成しました。対照的に、提案中の専門家パネルのマンデートははるかに限られたものです。活動を行うにあたり、専門家パネルは調査委員会と比べると、はるかに少数の個人に聞き取りを行うことになる見込みであり、報告書の分量もかなり薄くなるでしょう。

こうしたパネルは資源集中型である必要はありません。人権高等弁務官事務所が組織内の専門知識を大幅に利用できる見込みがあります。

例えば、国連人権高等弁務官が国連人権理事会に昨年提出したスリランカ報告書は、スリランカ政府が直面するアカウンタビリティにまつわる課題を概説し、不処罰の対処に向けた具体的な勧告を行っています。こうしたアプローチも可能でしょう。

2015年12月の特別会合で採択された人権理事会のブルンジ決議は、高等弁務官に対して「既存の独立した専門家」チームの任命を要請するものでした。このチームには、アカウンタビリティの確保、その他の国際および域内の団体との「補完かつ調整」に基づく活動といった固有のマンデートが与えられました。

同様に北朝鮮決議も規範的なものである必要はありません。高等弁務官に専門家パネルの任命を求め、OHCHR内部の既存資源の利用を要請するものとすることができるでしょう。例えば、真実・正義・補償・再発防止保証の促進に関する国連特別報告者が、事態の前進に不可欠のリソースとなるでしょう。

  1. アカウンタビリティに重点を置くことは、国連人権理事会の北朝鮮決議に対する投票状況にマイナスの影響を与えるものでしょうか?

人道に対する罪に関する調査委員会の報告を踏まえると、アカウンタビリティの前進に向けた選択肢と勧告を同定することは、欠くことのできない次のステップです。国連人権理事会、国連総会、国連安全保障理事会の3者すべてが北朝鮮の人権侵害に重大な懸念を表明しています。また国連人権理事会と国連総会は安全保障理事会に対し、ICC付託の検討を強く求めています。

昨年の人権理事会の北朝鮮決議の採択結果は、賛成27票に対して反対はわずか6票でした。賛成国側はアカウンタビリティに関する文言をすでに受け入れているのですから、提案中の専門家パネルはこうした既存のコミットメントを単に形にするものになるでしょう。理事会の構成に多少の変化があったにもかかわらず、決議の賛否は賛成に大きく傾いています。このことは、アカウンタビリティ確保の選択肢の同定を追求することが、決議の成果を著しく危うくすることなく、次の確実なステップとなることを示唆しています。

  1. アカウンタビリティは、決議に関して重点事項となりうるその他の分野とどのような関係にありますか?

提案がなされているこれ以外の選択肢としては、パネルディスカッションの新たな開催、人権高等弁務官ソウル事務所の理事会定期報告などがあります。これらはアカウンタビリティなど実体面に重点を置く分野よりも、今後の討議に向けた手続面での方法を示すものです。こうした選択肢は並存できないものではありません。決議はアカウンタビリティ確保という実体面に重点を置くべきですが、それと同時にソウル事務所の活動に基づいた定期ブリーフィングを提案することもできるのです。しかし討議に向けた手続面での方法は、アカウンタビリティに対する理事会のコミットメントを前進させる必要性に代わるものではありません。人権侵害の規模、被害者のニーズ、理事会の威信がアカウンタビリティの確保そのものを要請しているからです。

 

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