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(ロンドン)ナイジェリアのイスラム主義武装勢力「ボコ・ハラム」に誘拐された成人女性と少女たちは、強制結婚、強制改宗のほか、物理的・精神的虐待、強制労働、拉致期間中のレイプなどの人権侵害を受けていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で述べた。ボコ・ハラムは2009年以降に500人以上の未成年・成年女性を拉致してきた。ナイジェリア政府がボコ・ハラムの主な活動地域に国家非常事態を宣言した2013年5月以降、拉致件数を増加させている。

今回の報告書「収容所での恐怖の日々:ボコ・ハラムによるナイジェリア北東部での成人女性と少女への暴力」(全63頁)は、ボルノ、ヨベ、アダマワ各州でのボコ・ハラムによる拉致事件の目撃者と被害者46人以上に行った聞き取りに基づいている。2014年4月に少女276人が拉致されたチボク中等学校事件で被害に遭った後、脱出した少女からも話を聞いた。彼女たちの証言から見えてくるのは、政府の適切な政策・対応の欠如。ナイジェリア政府は、様々な人権侵害から成人女性・少女を守れていないほか、拉致後に効果的な支援、精神保健・医療サービスを提供し、安全な通学先を確保し、人権侵害の実行者を捜査・訴追するといった一連の必要な対応がとられていない。

「ナイジェリア北東部で女性たちが恐ろしいほどに被害を受けやすい状況に置かれている。チボクでの悲劇と、ツイッターでのハッシュタグ#Bring Back Our Girlsを使ったキャンペーンで、この問題が本当に必要としている関心を国際社会がやっと払うきっかけとなった」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアフリカ局長ダニエル・ベケレは述べる。「ナイジェリア政府及びその友好国は取り組みを強化し、こうした残虐な拉致事件を終わらせ、拉致からやっと逃れてきた成人女性と少女に対し、彼女たちが抱える医療・心理・社会といった領域でのニーズに応えるべきだ。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査担当者らは、拉致被害に遭った成人女性と少女をはじめとして、ソーシャル・ワーカー、ナイジェリアの地元NGOと国際NGOのメンバー、外交官、ジャーナリスト、宗教指導者、中央と政府の役人からも聞き取り調査を行った。

ボルノ州の田舎町チボクで女子生徒276人が拉致された4月14日の事件は、ボコ・ハラムによる最大の拉致事件だ。しかしボコ・ハラムはこの事件の前後に多数の人々を拉致している。それほど苦労することはなくチボク事件を実行できたことで、ボコ・ハラムはより大胆になり、各地で拉致事件を起こしているようだ。

ボコ・ハラムは恣意的に人びとを拉致することもあるが、児童生徒とキリスト教徒をとくに標的にしていると見られる。ボコ・ハラムは拉致した人びとをイスラム教に改宗し、通学を止め、ヒジャーブをかぶらなければむち打ち、殴打を行い、殺害すると脅している。組織名の「ボコ・ハラム」はハウサ語の表現で、大まかな意味は「西洋式の教育は[宗教的に]禁止」である。

ボルノ州ゴンドゥガの中学校に通う女子生徒(19歳)はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、今年1月に女子6人で自宅から学校に向かっていたところ、ボコ・ハラムの兵士たちに車を止められたと述べた。兵士の一人はこう言ったという。「ほう。目当てのやつらが見つかった。われわれが『ボコ』は『ハラム』だといっているのに、それでもなお通学しようという頭のかたい連中だ。今日この場で殺してやる。」

6人は、サンビサ森林区(広さ518キロ平方メートル)にあるボコ・ハラムのキャンプで2日間拘禁された。彼女たちは自分たちがムスリムであるふりをし、二度と通学しないと約束して解放された。そして現在も6人は学校に通っていない。ナイジェリア北東部では中等教育を断念する学生がすでに大勢いるが、こうしてその数が増えている。成人女性と少女は、自宅や村で、あるいは自分の畑で作業したり、水をくみに行ったり、路上で物を売ったりしているときに拉致されることもある。

チボク拉致事件が大きく取り上げられたことを受けて、ナイジェリアの中央政府と地方政府は、国際機関と外国政府の支援を受けて、ボコ・ハラムから逃れた57人の生徒のために基金を創設した。しかしこの基金は、そのほか大勢のボコ・ハラムによる人権侵害の被害者にとってはあまり助けになっていないようだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチがインタビューした、別の事件で被害に遭った成人女性と少女たちは、政府による精神保健や医療サービスを受けていないか、その存在を知らなかった。また自分のトラウマを話すことに恐怖を感じる人が多かった。

「ボコ・ハラムの被害を受けた人びとが恥を感じたり、恐れから沈黙を強いられるようなことがあってはならない」と、前出のベケレ局長は述べる。「恥じ入るべきは、コーランをきわめて極端なかたちで解釈して、成人女性と少女への人権侵害を行うボコ・ハラムだ。」

2013年中頃になるまで、ボコ・ハラムは成人女性と少女を個別に拉致するにとどまり、その規模も小さかった。拉致は、組織の拠点があるボルノ州の州都マイドゥグリや、ヨベ州の州都ダマトゥルで、被害者の自宅や路上で行われていた。ヒューマン・ライツ・ウォッチが収集した事例では、ボコ・ハラムは自分たちのイデオロギーを支持しない報復として既婚女性を拉致したり、未婚の成人女性・少女を結婚相手として拉致したあとに、家族にいきなり持参金を提示したりする。後者の場合、家族は拒否したときの報復を恐れて断ることができない。

ナイジェリア政府が2013年5月、ボルノ、ヨベ、アダマワの各州に国家非常事態を宣言した後、ボコ・ハラムは女性、子ども、児童・生徒、農村の住民など弱い立場に置かれた人をますます標的にするようになっていった。ボコ・ハラムの指導者アブドゥガル・シェカウは、自軍の兵士の妻や子どもの身柄を拘束したナイジェリア治安部隊員に対し、家族に報復を行うと警告した。たとえば2013年5月7日、ボルノ州バマの警察宿舎では女性4人と子ども8人がボコ・ハラムに拉致された。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの推計によると、2009年以来、ナイジェリア北東部と首都アブジャでボコ・ハラムは数百回の攻撃を行い、民間人7,000人以上が殺害されている。2013年5月から2014年9月の死者数は少なくとも4,000人にのぼる。ヒューマン・ライツ・ウォッチが収集した証拠は、ボルノ、ヨベ、アダマワ3州の情勢、なかでもボルノ州の情勢が、国際人道法(武力紛争法)の適用対象である武力紛争に該当することを強く示唆している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれまでも、ボコ・ハラムの攻撃に対してナイジェリア治安部隊が行ってきた広範な人権侵害を報告してきた。2009年以降、治安部隊は過剰な実力行使を行っている。家を焼き払い、住民に暴行を加え、被害者を「失踪」させ、ボコ・ハラム支援者と判断した人びとを超法規的に殺害している。

目撃者らはヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、ナイジェリア政府がもっと住民の提供した情報を活用して行動していれば、被害の一部は回避できたと述べる。住民たちが、攻撃を通報したり、あるいは予測される攻撃について情報提供している例もある。目撃証言によれば、治安部隊は兵員数または弾薬でボコ・ハラムに圧倒されていた。

ナイジェリア政府は弱い立場に置かれた人びとに対し、子どもの自由な通学と教育を受ける権利を保障し、拉致など暴力行為の被害を受けた人に対して医療と精神医療サービスを提供するなどの十分な保護策を緊急に実施すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

ナイジェリア当局はまた、公正な裁判に関する国際基準に従い、紛争中に重大犯罪を犯した人びとを捜査し訴追すべきだ。ボコ・ハラム、治安部隊員、政府系の自警団組織が捜査対象であるべきだ。

「ボコ・ハラムによる人権侵害と政府の不十分な対応の結果、現在もナイジェリア北東部で多数の人びとが恐怖と怒りにさいなまれている」と、ベケレ局長は述べる。「ナイジェリア政府とその友好国は保護策や支援サービスの強化と、政府とボコ・ハラム双方による人権侵害について責任者の訴追に力を入れ、恐怖の連鎖を停めなくてはならない。」

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