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世界銀行:人権配慮、いまだ不十分

キム総裁就任から2年、差別対策は前進、でも弾圧は不問のまま

(ワシントンDC)-ジム・ヨン・キム世界銀行総裁は、同行での人権尊重を部分的に推進しているものの、人権侵害への融資を防ぐチェック体制は不十分だ。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、キム総裁が就任3年目を迎える本日発表の報告書でこう述べた。

キム総裁は2012年7月1日に総裁に就任して以来、差別問題に取り組んできた。人権リスクに関する世銀としての分析と対応を一部改善し、世銀の過去の失敗例から学ぶ動きも取りつつあると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。2014年7月1日にキム氏は就任3年目を迎えるだけでなく、同日はブレトン・ウッズ会議開催70周年にあたる。この会議で国際通貨基金(IMF)と、世界銀行グループで最も古い部門(国際復興開発銀行)の設立が協議された。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのジェシカ・エヴァンス国際金融機関担当上級アドボケートは「キム総裁は差別問題に厳しく対処し、世銀が人権問題に対応できることを示した」と述べる。「世銀は、その融資が貧困脱出の支援対象とする人びとの人権状況を確実に改善するよう、さらに努力すべきだ。」

キム総裁の任期中に複数の人権問題が明るみに出た。最も深刻なのは、世界銀行グループが、殺人などの暴力行為が発生しているホンジュラスでの事業を無批判に支援したことだ。世銀内部のアカウンタビリティ・リポートは、重大な人権リスクへの世銀の対応が無残なものであることを明らかにした。

ヒューマン・ライツ・ウォッチによる今回の報告書『世界銀行:キム総裁就任後2年、人権問題への取り組みの実情』は、キム総裁による改革を評価するとともに、総裁がとった誤った措置についても分析。極度の貧困の撲滅と、繁栄の共有の促進という世銀の2大目標にとって重要な、3つの人権分野での改善を勧告する内容となっている。ヒューマン・ライツ・ウォッチの本報告書は、あらゆる形態による差別の撲滅への支援、世銀グループ全体での人権の尊重と保護、地域住民と独立組織が自国政府や国際機関の責任を自由かつ実質的に追及できる環境の支援について、世銀が取るべき措置の概要を示した。

キム総裁は、ウガンダ、ナイジェリアなど83ヶ国の厳格な反同性愛者法を批判。2月以降、世銀はウガンダの保健セクターに関する9,000万ドル(90億円)の融資実施を遅らせている。政府が最近成立させた反同性愛者法が、融資対象事業に与える影響を評価するためだ。この動きは、世銀の事業が、LGBTなど人びとをさらに社会のすみに追いやるのを促すことを防ぐ上で必要な措置だった。この法律は「同性愛の促進」を犯罪化し、公衆衛生部門での取り組みを直接に脅かすからだ。

しかし差別撲滅に向けた世銀の取り組みには濃淡がある。例えば、世銀はビルマへの再関与を進めているが、ムスリム少数民族であるロヒンギャ民族への、民族浄化に該当するきわめて深刻な差別にほとんど何の対応もしていない。また政治的意見などを理由とした差別の対策にも動いていない。たとえばエチオピアでは、世銀事業そのものがそうした差別を生んでいる。

言論、非暴力集会、結社の自由への弾圧に関する世銀の対応も無策に等しい。こうした弾圧は、独立組織やジャーナリスト、活動家の空間を潰す象徴的な動きだ。国民が政府にアカウンタビリティを要求できる開かれた環境を育くむ上で、世銀が果たせる役割は大きい。強制労働使用のリスクがあったウズベキスタンの複数の投資案件について、世銀は第三者のモニタリングを予防措置として採用するよう強く求めた。しかし、独立したNGOやジャーナリストが事業実施地域でモニタリングを行うための方策はなんら実施しなかった。

キム総裁はこれまでに達成した成果を制度化すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。世銀は、あらゆる組織的な差別(たとえば、性的指向と性自認、性別、民族、宗教、言語、障害、政治などに関する意見の相違)に加担しないよう、常に配慮すべきである。世銀は、実施する事業やプログラムについて人権への負の影響を特定し、回避する配慮義務を負わなければならない。また、あらゆる行動について必ず人権を尊重しなければならない。現在、地域社会や地域の環境を損なうことになる事業について、世銀の投資を防止する保護措置が検討されている。キム総裁はこれに従い、人権配慮義務を世銀の組織全体に行き渡らせるべきだ。

上で述べたホンジュラスの事業では、内部のアカウンタビリティ・リポートによって世銀が人権状況を検討していないことが浮き彫りになった。このレポートは世銀グループの1機関で、民間企業に融資を行う国際金融公社(IFC)が、バホ・アグアン地域の農民の強制移住を実施、促進、あるいは支援したとされる企業1社に融資を行っているとの訴えを受けて作成された。このレポートは、当該企業の管理下または影響下にある政府および民間の治安部隊が、農民組織との暴力的衝突に部分的に関与した事実とともに、複数の殺害を行った容疑を指摘した。

レポートは結論として、IFC職員が、公社の内部規定に違反する暴力行為と強制移住が発生するリスクについて、十分な評価と対応を行わなかったと述べた。また死者が発生し、そのような事態が指摘されてきたにもかかわらず、職員は配慮義務を十分に果たさなかった点も指摘。キム総裁と世銀理事会からの強い圧力を受け、IFCはこの投資案件から生じたさまざまな問題の救済、また内部手続きの見直しに動いている。だがまだ道のりは長いと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

キム総裁は、世銀理事会と共に、世銀グループが過去の過ちから教訓を得ることの重要性を指摘してきた。だが国際金融公社にはさらなる実質的な改革が必要だと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

世銀グループは以下に取り組むべきである。

  • 政府当局が以下のような行動を起こした場合、非公式と公式の両面から、常に当該国政府に懸念を表明すべきである。
    • 独立組織の動きを封じるための脅迫や法律、暴力の使用、政権に批判的なジャーナリストや野党政治家の逮捕、人びとの動きを押さえ込む目的での抑圧的な法律の導入
    • 国際法が禁じる、何らかの根拠に基づく差別。具体的には人種、肌の色、家系または民族的出自、国籍、言語、宗教、性別、障害、性的指向と性自認、政治的またはその他の意見、国民的もしくは社会的出自、財産、出生、婚姻の状態、HIV感染の有無、その他の地位によるもの
    • 「開発への努力」を名目にした人権侵害の発生
  • 職員に対し、国際人権法を尊重・保護すること、人権侵害を後押しあるいは悪化させる可能性のあるいかなる活動も支援しないこと、人権リスクを同定する人権配慮義務を負うこと、人権への負の影響を回避・対応・緩和するよう求めること
  • IFCに対して、組織としての文化とインセンティブ、環境・社会的リスクの分類方法、ならびに投資案件での人権リスクへの定期的評価・対策能力について改革を求め、その成果について時間を区切った評価基準を定めること
  • 保護措置に関する方針/達成基準を遵守し、周辺化された集団に人権面で正の影響をもたらす、包括的・持続可能な開発を進める職員に対し、これに報いるインセンティブを組織として定めること。また職員の怠慢により負の影響が生じた場合について制裁措置を定めること
  • 年次報告書『ビジネス環境の現状』で、政府が自国の法制度の下で、強固で透明性のある人権配慮義務の実現を企業側にどの程度求めているか評価すること。企業活動の人権・社会・環境への影響、国内外の政府への支払い状況について公的な報告を行うこと

「世銀は一部の案件で人権問題を特定するための措置を取っており、対策にも乗り出している」と、前出のエヴァンスは述べた。「今こそそうした取り組みを組織全体として行い、普遍的人権とは任意に保障されるものではないことを認めるべきである。」

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