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シリア:クルド人の実効支配地域で起きている人権侵害

恣意的な逮捕や不公正な裁判、子ども兵の徴用など

(ニューヨーク)-ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日、シリア北部の少数民族、クルド人関係当局による恣意的逮捕や適正手続き違反、未解決の殺害および失踪事件に対する不作為についての報告書を発表した。

トルコのクルド労働者党(PKK)の分派クルド民主統一党(PYD)は、住民の大半がクルド人で占められるシリア北部の3地方から2012年に政府軍が撤退したあと、そこに裁判所や刑務所、警察署を設置して事実上統治している。

報告書「クルド人支配のもとで:シリアのクルド民主統一党統治地域の人権侵害とは」(全107ページ)は、支配政党に対抗する人びとの恣意的逮捕や拘禁中の人権侵害、未解決の失踪および殺人事件を調査し、取りまとめたもの。加えて、民主統一党が統率する警察および武装下部組織「人民防衛隊」(YPG)による子ども兵の徴用についても、同様に取りまとめた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東・北アフリカ局局長代理のナディム・フーリーは、「シリアのクルド人実効支配地域は、戦火に引き裂かれた同国の他地方に比べて平静ではある。しかし、重大な人権侵害は起きているのだ」と述べる。「民主統一党の支配は強固であることから、党がこの問題を阻止することもできるはずだ。」

2014年1月に民主統一党ほか連合政党は、北部のアフリン(Afrin)、アイン・アラブ(Ain al-`Arab)、ジャジーラ(Jazira)の3地方に暫定政権をうちたてた。省庁の役割を果たす各種評議会を設置して、新憲法も導入している。

民主統一党は、これら3支配地域へのヒューマン・ライツ・ウォッチの訪問を容認したが、実際は治安上の懸念から、ジャジーラ地方のみ訪れることができた。2014年2月にジャジーラ地方にある2カ所の刑務所を訪問し、何らの制限もなく関係者や囚人ほかにアクセスすることができた。

Asayish (域内治安軍)として知られる民主統一党の警察組織が、クルド系野党党員を政治活動を理由に逮捕したとみられるいくつかの事案について、ヒューマン・ライツ・ウォッチは調査・検証。一部では、野党党員が明らかに不公正な裁判で有罪判決を受けている。容疑は爆弾攻撃への関与が一般的だ。

一般的な犯罪で拘禁された人びとは、令状なしに逮捕され、弁護士との接見も拒否されたまま、裁判官との面接まで長期にわたり拘禁されていたと証言している。

民主統一党が一部または完全支配する地域で、少なくとも9人の政敵が、過去2年半の間に殺害されるか失踪している。党はこれら事件との関連を否定しているが、本格的な捜査は行われていない模様だ。それとは対照的に党が仕切る治安部隊は、イスラム過激派が実行したとみられる爆弾攻撃事件のほとんどで、実に速やかな大量逮捕を行っている。

人民防衛隊は3つのクルド人実効支配地域の治安を維持しており、国際過激派武装組織(主にヌスラ戦線およびイラク・シリアイスラム国-以下ISIS)との戦闘を展開。

5月29日にISISの部隊がジャジーラ地方ラース・アル=アイン近郊の村落アル=タリリヤ (al-Taliliya)を攻撃し、6人の子どもを含む少なくとも15人の一般市民を処刑した、と村民および救急隊員がヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。またISISは、ここ数カ月にアレッポ県で何百というクルド系住民を再三にわたり拉致し、人民防衛隊に所属すると疑った数名を処刑している。

民主統一党および地方行政当局者は、かの地の司法制度や新たに設置された「人民法廷」は独立していると主張するが、弁護士および人権活動家たちは、捜査や裁判が政治介入を受けている現状を詳述している。裁判官が被告の自白のみを根拠に有罪判決を下し、尋問中の人権侵害をめぐる苦情申立は考慮しなかったとみられる事案も複数あった。

囚人の一部は、域内治安軍に殴る蹴るの暴行を受けたが誰もその責任を問われることはなかったと証言している。軍が近時にかかわった2つの事件で、殴打された囚人が死亡している。1件目の事件では加害者の兵士が罰せられたが、2件目では、被害者は自ら頭を壁に打ちつけて死亡した、と軍が主張。しかし遺体を目撃した人の話では、被害者の目の周りには黒いあざ、首の後ろには裂傷があり、頭部への自傷行為という説明とは食い違っている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチがカーミシュリー(Qamishli)とマリキヤ(Malikiyah)で訪れた2つの刑務所は、基本的な国際基準を満たすもののようにみえた。日に3回の食事と1回の運動時間があり、必要ならば診察も受けれると囚人たちは話す。訪問当時マリキヤの刑務所にいた2人の女性囚は、男性とは別の房に一緒に収監されていた。いっぽう男性囚はいずれの刑務所でも、軽罪/重罪にかかわらず一様に集団房に収監されていた。

民主統一党が掌握するクルド人実効支配地域におけるシリア国内法改正の試みで、司法制度は複雑化している。同国国内法の一部は国際人権基準に則したものでないことから、改正が求められるのは確かだ。が、無計画で不透明な改革過程が原因で、弁護士や囚人、はては関係当局者まで現行の法解釈をめぐり混乱している。

前向きな進展は、今年1月に導入された「社会契約」と呼ばれる憲法が、いくつかの重要な人権基準を擁護し、死刑執行を禁じていることであろう。

域内治安軍と人民防衛隊は昨年、18歳未満の未成年を軍事目的で徴用することを停止すると約束したが、どちらの組織でも問題は継続している。6月5日に人民防衛隊は、1カ月以内に18歳未満の戦闘員を動員解除するとおおやけに誓約した。

いずれの組織でも、内規は18歳未満の未成年徴用を禁じている。シリアでも適用される非政府系武装組織に関する国際法は、新兵募集および(斥候、密使、検問所隊員などとしての)前線参加の最少年齢を18歳と定める。

またヒューマン・ライツ・ウォッチは、昨年6月27日にアムダ (Amuda)で起きた暴力事件についても調査した。人民防衛軍が反民主統一党デモの参加者に対して過度な実力行使に出て、3人の男性を射殺した事件である。状況は不明だが、治安部隊も同日夜に2人、翌日1人を殺害した。27日夜、人民防衛軍は同地で50人超の野党イエキーティー (Yekiti)党党員あるいは支持者を恣意的に逮捕し、軍事基地で暴行した。

アフリン、アイン・アラブ、ジャジーラ地方を実効支配する民主統一党主導政権には、国際人権法および国際人道法の尊重が求められる。これらには拷問・恣意的拘禁・子ども兵徴用の禁止、および常設の法廷における公正な裁判の実施が含まれる。

これら諸問題に対処するために、ヒューマン・ライツ・ウォッチはいくつかの取り組みを提言する。たとえば政治囚をめぐる事案を再考する独立した委員会の設置や、恣意的に拘禁された人びとすべての釈放など。被拘禁者が逮捕や尋問あるいは拘禁中に受けた人権侵害を告発するための明瞭な仕組みも設置されるべきだ。加えて、告発があれば、常設の法廷で加害者に対する法的措置が取られるようにすべきである。

新たに設置された法廷では、国際人権基準を満たすために必要に応じて改正したシリア国内法が適用されるべきだろう。同国国内法の改正はすべて、即時に出版・配布されなければならない。

域内治安軍および人民防衛隊は18歳未満の未成年徴用を停止し、現在所属する未成年の動員を解除すべきだ。

前出のフーリー局長代理は、「シリア北部のクルド人指導部はそれがクルド人であれ、アラブ人やシリア人ほかであれ、支配地域のあらゆる住民の人権を保護するのにもっとできることがたくさんある」と指摘する。「たとえ暫定政権であっても、重要な視点を尊重しつつ包括的にかの地を治めるべきだ。」

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