(ジュネーブ)-2012年以降、世界数十カ国で何百人もの医療従事者が攻撃にさらされている、と本日発表の共同報告書内でヒューマン・ライツ・ウォッチと「紛争下の医療を守る連合」(Safeguarding Health in Conflict Coalition)は述べた。世界各国の厚生相が集って5月19日~24日に予定されている会合に先立ち発表された本報告書は、紛争や社会不安に揺れる国々で攻撃下にある患者や医療従事者および施設を保護するための更なる措置を、各国政府に要請した。
報告書「攻撃にさらされる:医療従事者と患者、医療施設に対する暴力問題」(全28ページ)は、世界各国で近時に起きた医療分野への攻撃に焦点を当てたもの。本報告書が言及する事例には、パキスタンとナイジェリアでポリオの予防接種に従事していた医療従事者70人超の殺害事件や、バーレーンとトルコでデモ参加者に治療を施した医療従事者の逮捕事件、そしてシリアで続く病院への爆撃と何百人もの患者や医療従事者の死亡事件などが含まれている。
「紛争下の医療を守る連合」代表のレオナルド・ルーベンスタインは、「医療従事者および施設が攻撃下にあれば人びとの治療は不可能になるし、救急医療が必要な地域から医療専門家たちが避難してしまう」と指摘する。なお同連合は、人権および医療関連を含む二十数のNGOから成る。
本報告書ではほかに、南スーダンとアフガニスタンにおける医療従事者を標的とした攻撃についても言及。両国では一般市民のための医療アクセスが著しく悪化している。南スーダンでは今年、ユニティ州ベンティウ、上ナイル州マラカル、ジョングレイ州ボルで反政府勢力が入院患者を射撃したり、診療所や病院を略奪および放火した。武力紛争下で病院施設、医療従事者あるいは患者を故意に標的とするのは戦争犯罪である。
アフガニスタンでは昨年、医療従事者の殺害、襲撃および誘拐が何十件も報告された。今年4月には、アメリカ人医師が首都カブールのキュア・ホスピタルで警察官に殺されている。近時ではラグマン州で医療救助活動の最中に救急車が標的にされたり、アワール州で予防接種に従事していた関係者が襲われる事件も起きた。また資格のある女性医療従事者の不足から、女性のための医療活動が特にそのあおりを受けている。
こうした危機に対処する動きは始まったばかりだ。本報告書は国連の健康への権利特別報告者が2013年10月に発表した報告書も引用。同報告書は世界の注意を引き、世界保健機関(WHO)がこうした攻撃のタイプや頻度をデータ化する方法を発展させる試みにも繋がった。
加えて国連安全保障理事会が、子供と武力紛争に関する事務総長特別代表の権限を拡大し、医療施設および従事者に対する攻撃の報告と法的責任追及を可能にした。赤十字国際委員会と国境なき医師団は、医療関係者および施設に対する攻撃を焦点とした反対キャンペーンを展開している。
とはいえ依然として、攻撃の監視強化など更なる行動が求められる。世界各国が医療従事者の法的保護を定め、反体制派に医療を施す医師や看護師の活動を犯罪とする法律を撤廃して、加害者の法的責任をもっと追及すべきだ。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ保健と人権局長かつ連合メンバーのジョー・エイモンは、「医療従事者および医療施設に対する攻撃は、多くの場合すでにぜい弱な状態にある医療をさらに破壊する」と述べる。「各国政府は医療従事者を攻撃から保護するための確固たる措置に向け、決意を新たにすべきだ。」