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タイ:「ボートピープル」化するロヒンギャ民族の釈放と保護を

1,800人以上が非人道的に拘束され 家族も離ればなれに

(バンコク)-タイ政府は、非人道的で安全の確保がされていない状態で拘束されているビルマ出身のロヒンギャ民族を釈放し、保護のニーズを保障すべきである。

2013年8月13日、タイ政府は閣議で、タイ各地の入管収容施設と福祉保護施設に収容されたロヒンギャ民族1,839人を、タイ・ビルマ国境の難民キャンプに移送する計画を検討した。

「タイ政府高官の一部は、ロヒンギャ民族の窮状を認識していながら、収容継続の線をいまだに探っている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムスは述べた。「タイ政府は、ロヒンギャ民族の非人道的な収容を停止した上で、国連難民高等弁務官事務所などの国際組織に対し、必要性が非常に高い保護と支援を提供するための、完全なアクセスを保障すべきである。」

8月9日、タイのパウィナー・ホンサクン社会開発・人間安全保障相はマスコミに対し、タイでのロヒンギャ民族の収容と人身売買(人の密輸、トラフィッキング)は、深刻な人権問題だと述べた。しかし4日後の閣議で、同大臣は、ロヒンギャ民族の難民キャンプへの移送を提案した。伝えられるところでは、この計画は、インラック・シナワット首相とスラポン・トーウィチャックチャイグン外相に支持されている。多数のロヒンギャ民族が、ビルマのアラカン州で昨年起きた、「民族浄化」と、人道に対する罪を逃れてきたにもかかわらず、タイ政府は、ロヒンギャ民族を依然として難民とはみなしていない。

タイ当局は、ロヒンギャ民族用の代替施設の設置や、ソンクラー、ラノーン、プラチュワップキーリーカン、ノーンカーイ各県にある既存の入管収容施設での、ロヒンギャ民族向け収容能力の拡大の提案も検討した。

タイ政府によれば、今年1月以来、タイ当局がロヒンギャ民族2,055人を密入国容疑で拘束している。同国は、ロヒンギャ民族の家族を分離している。男性は各地の入管収容施設に身柄を送られる一方で、女性と子どもは社会開発・人間安全保障省の保護施設に収容されている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、タイ人とロヒンギャ民族の人身売買業者が、政府の保護施設に立ち入り、ロヒンギャ民族の女性と子どもを誘い出そうとしている事実をとりまとめた。6月には、人身売買業者が、パンガー県の保護施設にいた、ロヒンギャ民族の女性ナルニサさん(25歳)を、マレーシアにいる夫のところに5万バーツ(約15万円)で連れて行くと約束しながら、この女性を繰り返し強かんした。

多くの入管収容施設は、きわめて過密で、医療などの基礎必需品にアクセスもできない。ロヒンギャ民族の男性は、大きな檻のような房に押し込められており、座る場所もないほどだ。長い場合は5か月間もこの房にいるため、運動不足で足が腫れたり、筋肉が衰えた人もいる。男性8人が、収容中に病死した。マスコミの報道や国際社会の懸念表明にも促され、国際機関が医療を提供したため、健康状態は改善された。だが多くのロヒンギャ民族は、今なお、劣悪な収容環境のせいで、許容しがたいリスクにさらされている。

「タイ政府は、ロヒンギャ民族への懲罰的な収容政策が、非人道的かつ非生産的であることを認めるべきだ」と、前出のアダムスは指摘する。

7月以降、ロヒンギャ民族の男性たちは、ビルマに送還されて再び迫害を受けるか、タイで無期限に収容されるのではないかと懸念して、ソンクラー県とパンガー県の入管収容施設で抗議を行ってきている。このほかロヒンギャ民族の男性、女性と子供どもたち208人ほどが、収容所から脱出し、姿を消した。

タイ当局は、ロヒンギャ民族に対し、移住労働者の資格申請を可能にすべきである。許可証があれば、労働と移動を自由に行うことができる。ビルマ政府が、ロヒンギャ民族にビルマ国籍を与えず、差別を行っていることを踏まえ、タイ政府は、移住労働者の資格取得について、国籍確認を要件から外すべきだ。

「ロヒンギャ民族は、ビルマ国内でのすさまじい人権侵害から逃れており、その多くが帰還すれば危険にさらされる」とアダムスは指摘する。「タイ政府は、ロヒンギャ民族を、国境の難民キャンプや入管収容施設に収容し続けるのではなく、ロヒンギャ民族が一時的な保護の下で、滞在、労働、生活する権利を検討すべきである。」

 

背景情報:保護とはほど遠い タイのロヒンギャ難民政策

長年にわたり、ビルマのアラカン州から多数のロヒンギャ民族が、政府の迫害を避けて、海路で脱出している。情勢が著しく悪化したのは、2012年6月にアラカン州で、ムスリムのロヒンギャ民族と仏教徒のアラカン民族との宗派間暴力が発生してからだ。以来、ロヒンギャ民族数万人が、住んでいた場所を離れざるを得なくなっている。2012年10月、アラカン民族の政治指導者・宗教指導者と州治安部隊は、ロヒンギャ民族への「民族浄化」作戦を実施するなかで、人道に対する罪を行った。同年10月から今年3月の航海に適した期間に、ロヒンギャ民族3万5,000人以上がビルマを出国したとされる。国際社会は、タイ政府に対して、同国に上陸したロヒンギャ民族に一時的庇護を与えるよう強く求めた結果、現在では収容の方針がとられている。今年1月以来、ロヒンギャ民族1,800人以上が、入管の収容施設と政府の保護施設に移送されている。しかしこの他にも数千人が、タイ当局により洋上で臨検を受け、マレーシアに向け追放されたり、あるいは密入国業者や人身売買業者に引き渡されているとも言われている。これら業者は、ロヒンギャ民族に金銭を条件にして、身柄の釈放とそれ以降の移送を請け負っている。

タイ政府の「ヘルプ・オン」政策は、誤解を招く呼び名だ。ロヒンギャ民族の庇護希望者に対して、国際法が定める保護を提供しないだけでなく、場合によっては、当人のリスクを高める可能性さえある。この政策に基づき、タイ海軍は、ロヒンギャ民族が乗る小型船が、タイ領の海岸に接近した際には、航行を停止させる。そして燃料と食糧、水などの物資を、その船がマレーシアかインドネシアに出航するとの条件で提供することになっている。この「ヘルプ・オン」政策は、支援や庇護を提供するのではなく、庇護希望者を乗せた不十分な装備しかない小型船に、航海を続けさせるか、または金銭と引き替えにロヒンギャ民族を送り届けると約束しながら、金額が払えない場合には人身売買業者に身柄を引き渡している。

世界人権宣言では、あらゆる人に迫害を免れるため避難する権利を認めている。タイ政府は1951年の難民条約の当事国ではないが、国際慣習法により、タイ政府にはノンルフールマン原則(当人の生命や自由が危険にさらされる可能性のある場所への送還を禁じるもの)を尊重する義務がある。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、その「庇護希望者の拘禁に関する適用可能な判断の基準と尺度についてのガイドライン」で、庇護を求めることは基本的人権であることを再確認した上で、「一般原則として、庇護希望者は拘禁されるべきではない」と述べる。このUNHCRガイドラインはさらに、拘禁を懲罰もしくは懲戒手段として、または難民の庇護申請を抑止する手段として、用いてはならないと宣言している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、タイ政府に対し、UNHCRと緊密に協力するよう求めた。UNHCRには難民申請の審査を行う専門要員が配置されており、難民と無国籍者を保護するマンデートが与えられている。UNHCRが、船で到着したロヒンギャ民族に効果的な審査を実施することは、タイ政府による難民認定手続きへの支援となる。

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