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(ロンドン)-スリランカ政府治安部隊が、武装勢力「タミル・イーラム・解放の虎」(以下LTTE)のメンバーや支持者とみなす人物を拷問するため、レイプなどの性暴力を用いている。被拘禁者に対するレイプは、内戦中(09年終結)にも広く行われていた。が、軍と警察による政治的性暴力は、現在も続いていることが明らかになった。

報告書「これは見せしめだ:スリランカ政府治安部隊によるタミル系住民への性暴力」(全141ページ)は、スリランカ全土にある公式・非公式の収容所で2006〜12年にレイプや性的虐待を受けたという告発75件について、その詳細な証言を記述したもの。ヒューマン・ライツ・ウォッチが調査した事件では、複数の人間に何日にもわたってレイプされたと男女共々訴えており、多くの場合、軍や警察、親政府民兵組織がこれらに関与している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長ブラッド・アダムスは、「スリランカ政府の治安部隊は拘禁下にあるタミル系住民の男女に、数知れないほどレイプを行ってきた」と指摘。「それが単なる内戦時の残虐行為にとどまらず、現在まで続いている。こうして、LTTEとの関与を疑われて逮捕された人びと全員が、重大な危険にさらされているのだ。」

聞き取り調査に応じた強姦被害者のほとんどがスリランカ国外でヒューマン・ライツ・ウォッチの調査に応じており、証言は医学的および法的な報告に裏づけられている。調査対象者全員が性暴力以外の拷問や虐待も受けていた。スリランカ国内でオープンに調査を行ったり、今現在拘禁中の人から聞き取りを行うことは不可能なため、本報告書内で明らかにされた事件は、政治的レイプの氷山の一角に過ぎない可能性が極めて高い。

強姦事件の多くには共通のパターンがある。正体不明の男たちによって自宅から拉致されて収容所に連行され、LTTEの活動に関与したという容疑で尋問され、その間、レイプなどの虐待を受けるというもの。近時外国からスリランカに帰国した23歳の男性は、拉致されたのち立件されることもなく拘禁され続け、自白調書に署名するまで3日間続けてレイプされた。平服の男2人に捕えられ、服を脱がされた上で写真を撮られたと話す32歳の女性は、「すべて白状しろ」と言われたという。女性は、「どうせ殺すつもりだろうからって自白を拒否しました。そうしたら殴られて拷問され続けたわ。2日目に部屋に現れた男にレイプされ、その後は違う男たちに少なくとも3日間レイプされ続けました。何回レイプされたかなんて思い出せないほどに」と証言した。

拘禁中の男女に対する内戦中およびそれ以降も続く治安部隊によるレイプなどの性暴力の実態からは、LTTEメンバーやその支持者と疑われた個人に加えられている拷問の主な手法のひとつが性的な拷問であることが分かる。拷問の目的は、LTTE活動への関与を認める「自白」を得ることと、配偶者や家族など関係者の情報の獲得、そして、LTTEと関係することを思い留まらせるため、タミル系住民に広く恐怖を植えつける意図もあるとみられる。

被害者たちは殴打されたり、腕から吊るされ、一時的に窒息させられたり、タバコの火でやけどを負わされるなどもしていた。ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じた人びとは皆、拘禁中に弁護士や家族、医師へのアクセスを与えられていなかった。そのほとんどが虐待を終わらせてほしいという期待から自白調書に署名したものの、レイプなどの拷問は多くの場合その後も続いたという。証言者たちは正式に釈放されたというよりは、家族が当局者にワイロを渡した後に、「逃げる機会」を得ていた。

「2人に後ろ手に押さえられて、もう1人に性器をつかまれて金属の細い棒を突っ込まれた」と、2009年5月に政府軍に投降したある男性は話す。「小さな金属の球も入れられたが、これは国外脱出してから外科手術で取りださなくてはならなかった。」彼の証言は医療診断書により裏づけられている。

強姦被害をヒューマン・ライツ・ウォッチに訴えた男女は、犯罪を告発した場合に社会から押される烙印と加害者の報復を恐れて、受けた被害については概して沈黙していたと話している。人びとが性的虐待を告発するのをためらうほかの理由としては、スリランカの司法制度上の様々な障害ゆえ、強姦事件の被害届やしっかりした捜査が行われにくいことも挙げられる。

前出のアダムス局長は、「スリランカ政府はこれまでにも、レイプ被害者の治療や心理ケアを妨害してきた」と指摘。「タミル系住民が多い北部地域で国内外の組織が性暴力被害者に対し支援サービスを提供することを、スリランカ軍が事実上禁じてきた」とする。

政府治安部隊メンバーのうち、内戦最終局面あるいは終結以降に被拘禁者に対する強姦容疑で有罪判決を受けた個人はもちろんのこと、訴追された個人も皆無である。

証言者たちはヒューマン・ライツ・ウォッチに、軍と警察関係者たちは自らを治安部隊要員であるかのように装う努力はほとんどしていなかったと話していた。これらには軍や軍情報部、刑事捜査局(CID)とテロ捜査局(TID)のような特殊な部署を擁する警察なども含まれている。複数の国家機関関係者が人権侵害的尋問を合同で行っていたとする証言も多くあった。また証言者たちは、人権侵害が行われた具体的な収容キャンプや施設も特定している。

これらの事件が示唆するのは性暴力が、特定の地域で単発に発生したり、治安部隊の不良分子が行った類いのものではなく、政府上層部が認知していた、または知るべきだった広範な慣行である、ということだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチに報告された事件の数々は北部の戦地だった地域だけでなく、首都やコロンボほか戦地からはるか離れた南部や東部にある軍の基地や警察署でも起きていた。これら事件現場には、コロンボにある悪名高い刑事捜査局本部4階や、テロ捜査局本部6階なども含まれる。

内戦の一環で行われたレイプなどの性暴力は「戦争犯罪」に該当する。スリランカ政府はこうした違法行為を防止するのみならず、人権侵害を受けたという信頼性の高い申立を捜査し、加害者を訴追する義務を負っている。虐待を知っていた、あるいは知っているべきだった関係当局者および虐待に対し不作為だった当局者は、上官責任により刑事責任がある。

国連人権理事会は2012年3月、スリランカ政府に対し内戦時の人権侵害に対する法の正義とアカウンタビリティ実現を求める決議を採択した。同理事会は今年2月、この決議に従うと約束したスリランカ政府が、その後適切な措置を講じているかどうかを検証する予定だ。同理事会は国連人権高等弁務官に独立した国際調査を指示すべきだ。

前出のアダムス局長は、「治安部隊による性暴力の告発に対するスリランカ政府の反応は、『ねつ造』あるいは『LTTE支持派のプロパガンダ』だなど、これまで全否定している」と指摘。「この恐ろしい犯罪を、政府内の誰が知っていたのかは分からない。しかし、今も続いているこの虐待に対応しようとしない政府の姿勢は、国際調査が求められることの更なる証拠でもある。」

報告書「これは見せしめだ」からの証言抜粋:

(使用したイニシャルはすべて仮のものであり、証言者の実名とは完全に無関係)

JHのケース

英国に留学していた23歳のタミル人男性JHは、2012年8月に家庭の事情でコロンボに戻った。1カ月後、仕事からの帰宅途中に白のバンが停車、数人の男が飛び出してきた。男たちは取り調べの必要があると言うと目隠しをして、車で1時間以上かけて見知らぬ場所に彼を連行した:

「目隠しを外されると、部屋の中に男が4人いました。椅子に縛りつけられ、LTTEとの繋がりと最近の海外渡航の理由について質問されました。男たちは僕を裸にして暴行し始めました。電気コードで殴られ、タバコの火で焼かれ、ガソリンの入ったポリ袋で窒息させられたんです。その夜遅く、もっと小さな部屋に入れられ、それから3日続けてレイプされました。最初の晩は男が1人でやってきて肛門をレイプされました。2晩目と3晩目は男2人に同様に肛門をレイプされ、オーラルセックス(口腔性交)もさせられました。何回もレイプされて、僕はLTTEとの関係を認める自白調書に署名してしまったんです。」

TJのケース

19歳のTJは英国での留学を終えスリランカに帰国していた。2012年8月のある夜、ワウニア(スリランカ北部)の友人宅を訪れての帰宅途中、白いバンが近くに停まり、平服の男5、6人が飛び出してきた。彼らはTJを車に押し込み、目隠しをして、所在不明の場所に連行した:

「目隠しを外されると、部屋には男が5人いて、1人は軍服姿でした。英国でのLTTEへの協力について質問が始まり、海外にいるLTTEとの関係についても聞かれました。質問に答えないでいると拷問が始まりました。最初は平手と拳で殴られ、その後はめちゃくちゃな拷問が待っていました。警棒で殴られ、タバコの火で焼かれ、水を張った樽の中に頭を突っ込まれて…。取り調べの間、服は脱がされて裸でした。」

「暴行と拷問は次の日も続き、朝に水を少しもらっただけでした。次の日の夜、服を返されて、小さな暗い部屋に入れられました。男が1人入ってきて、暗くて姿は見えませんでしたが、僕の顔を壁に叩きつけて押しつけたままレイプしました。」

GDのケース

31歳のタミル人女性GDは、2011年11月コロンボ郊外の自宅にいた時、平服姿の男4人の訪問を受けた。GDはヒューマン・ライツ・ウォッチに、その男たちが刑事捜査局の関係者だと名乗り、彼女の家に住む家族全員の身分証明カードの検査を求めたと話している。それから男たちは国外にいる夫のカードを押収、取り調べのために同行するよう彼女に伝えた:

「コロンボにある刑事捜査局事務所の4階に連れて行かれ、部屋の中に閉じ込められました。食べ物も水もなしにね。次の日、武器を携帯した軍服姿の男を含む何人かがやってきて、私の写真と指紋をとり、何も書いてない紙に署名させました。自分たちは私の夫について何でも知っているって言って、夫の所在を質問し続けました。私は夫は海外にいるって言ったけれど、彼がLTTEを支援しているって非難し続けていました。色々なもので殴られ、取り調べ中に時にタバコでやけども負わされました。そこら中を平手打ちされ、砂を詰めたパイプでも殴られました。暴行の間中、夫の詳細について聞いてきました。そしてある晩レイプされたのです。私服の男2人がきて、私の服を引き裂きレイプしました。シンハラ語をしゃべっていたから何も分からなかったし、暗くて顔もはっきり見えませんでした。」

DSのケース

DSの父親はジャフナ(北部州州都)でコピー屋を経営、プロパガンダ用のビラを印刷し、配布することでLTTEを支援していた。彼が13歳だった2005年にLTTEは10日間の軍事訓練を受けさせるため、彼を強制連行している。ジャフナに戻った後はビラの配布やLTTEの催す文化祭に参加するなどして、LTTEに協力していた。17歳になった2009年に、警察と軍関係者が学校から帰宅途中のDSを逮捕、目隠しをして所在不明の収容所に連行した:

「LTTEへの協力活動を全部話せって言われた。そうしたら解放してくれるって。僕は何にも認めなかったんだ。そうしたら暴行し始めた。ブーツで踏みつけられ、拳で殴られたよ。それから丸裸にされて、逆さまに吊るされ、タバコの火で焼かれた。砂を詰めたパイプやワイヤーでも殴られたよ。ゴムで足の裏を殴られ、ガソリン入りのポリ袋を頭にかぶされて窒息しそうにもなった。」

「ひとりが目の前で自慰行為をした後に僕をレイプした。気を失ってしまった。肛門からひどく出血していたんだ。トイレがなかったから、ポリ袋を使うしかなかった。取り調べをした担当官は寝かしてくれなかった。最初の2、3日は飲まず食わずで…。指紋と写真もとられた。結局、シンハラ語の自白調書に署名して、彼らの言うこと全部認めてしまったんだ。」

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