(バンコク)–ビルマ国軍は、戦時国際法に違反し、ビルマ北部カチン州ライザ市街への無差別砲撃を行っていると見られると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは同国政府に対し、戦闘で土地を追われたカチン民族数万人に対する、人道援助機関のアクセスを許可するよう強く求めた。

2013年1月14日午前8時30分頃と午後10時30分頃、ビルマ軍は、対立するカチン独立機構(KIO)の行政上の中心地であるライザに、105mm榴弾砲を複数発射した。1回目の砲撃は市中心部に着弾し、民間人(非戦闘員)の死者3人(初老のキリスト教聖職者、国内避難民の男性(46)、男子(14)) と複数の負傷者を出した。夜間の砲撃では人口過密な住宅地区内に2発が着弾したが、犠牲者はなかった。

第1回目の砲撃が着弾したのは、カチン独立軍(KIA)軍司令部から約1.5km離れた地点だ。司令部はライザ市内でも中緬国境に近いホテルの最上階にある。司令部は攻撃対象としてもよい軍事目標だが、ビルマ政府は声明で国軍のライザ砲撃自体を否定しているため、司令部が実際の攻撃目標だったのかについては疑問が生じている。

「ビルマのテインセイン大統領は自らの指揮下にある国軍司令官に対し、戦時国際法を遵守し、民間人への違法な攻撃を停止するよう命じなければならない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチアジア局長代理フィル・ロバートソンは述べた。「ライザ市内や付近にいる数万人の民間人に危険が及ばないように、ビルマ軍とKIAは必要なあらゆる予防措置をとらなければならない。」

国際人道法(戦時国際法)では民間人および民間構造物を標的とした攻撃は禁止されている。カチン州での交戦当事者双方も同法の適用対象だ。そのほか特定の軍事上の目標物を直接の標的としないか、標的にできないことを理由として、民間人を危険にさらす攻撃も禁じられている。軍事目標が存在することを理由として町全体に爆撃を行うことも同様に無差別攻撃にあたる。ビルマ軍が人口密集地に向けて大きな爆発半径を持つ榴弾砲を発射したことも、無差別攻撃の禁止規定に違反する可能性がある。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、戦時国際法によれば、紛争の全当事者は、実現可能な範囲で、人口密集地域内または付近への軍事力の展開を避けることが求められていると指摘した。KIAが司令部をライザの市街地に置いたことで、民間人は不必要な攻撃の危険にさらされている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはビルマ政府とKIAに対し、軍事行動中の民間人の人命と財産の損失を最小限とするように、すべての必要な予防措置をとることを強く求めた。

カチン独立機構とライザにあるカチン民族の民間団体が設置したキャンプは、約15,000人の国内避難民(IDP)が身を寄せている。ライザの定住人口はおよそ2万人だ。

1月14日にビルマ政府のイェトゥ報道官は、政府の砲撃がライザに着弾した事実はないと述べた。この前の週には、大統領府が、国軍がヘリコプターとジェット戦闘機を使って空からの攻撃を行っている事実はないと述べていたものの、その後ニュース報道で攻撃の様子を撮影した映像が流れると、前言を撤回した。

2011年12月、テインセイン大統領はビルマ北部の軍参謀長と軍司令部宛の書簡で、国軍に対してカチン州では自衛以外での攻撃を行わないよう求めた。しかし国軍側は指令に従っているという証拠はほとんどない。

紛争の背景

ビルマ政府は2011年6月、中国が所有する水力発電ダムの周辺地域でKIAとの交戦を再開した。これにより政府とカチン独立機構との17年間の停戦は崩壊した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、昨年3月の報告書『語られない悲劇:ビルマ・カチン州での戦時人権侵害と強制移住』(全83頁)の中で、ビルマ国軍がカチン人の村を襲撃し、逃げ惑う住民に発砲・殺害し、家を破壊し、尋問中に拷問を用い、強かんを行い、財産を略奪する現状を明らかにした。戦闘の結果、何万人もの人びとが住み慣れた土地を追われている。このほか国軍は対人地雷を敷設し、前線で強制労働を徴用している。強制労働ではわずか14歳の子どもも動員されている。KIA側も対人地雷の敷設や子ども兵士の配備を行っている。

「カチン州でビルマ国軍による人権侵害が続いているという事実は、ビルマ国内での変化が国全体に及びつつあると考える各国政府に対して、再考を促す機会となっている」と、前述のロバートソンは指摘した。

カチン州には約9万人の国内避難民が存在し、うち6万人あまりが中国雲南省との国境沿いに広がるKIA支配地域のキャンプに身を寄せている。ビルマ政府は、KIA支配地域の避難民にアクセスしようとする国連や国際援助団体に対し、人道目的でのアクセスをこれまで何度も不許可としてきた。これによって人道危機が生じており、当該地域の避難民は、カチン独立機構や現地の市民団体、地域住民組織などが提供する最小限の支援頼みの生活をしている。避難生活が数か月、場合によっては1年以上にわたっており、避難民の多くは食糧、医薬品と医療、暖かい衣服と調理器具、適切な住居を切実に求めていると、現地で救援活動を行う関係者筋はヒューマン・ライツ・ウォッチに述べた。

国際人道法は、紛争当事者には、戦争被災者の人道ニーズを確実に満たす責任があると定める。もし政府がこの義務を完全には履行できないならば、中立的な人道援助機関が政府の代わりにニーズを満たす活動を行うことを認めなければならない。ビルマ政府は、人道援助スタッフの移動の自由を、軍事上の必要がある場合にのみ規制を加える形にした上で、ただちに保障すべきである。

「テインセイン大統領は、支援の必要な何万もの戦争被害者への援助を意図的に妨害している。これは人権状況の改善と改革の急先鋒という自ら作り出したイメージと完全に矛盾する」とロバートソンは指摘する。「関係諸国は、カチン州への人道援助をビルマ政府が一貫して否定している状況を直ちに終わらせるよう要求すべきだ。」