Short Caption: Tibetan monks sit as they wait for the body of Jamphel Yeshi, a Tibetan man who set himself ablaze at a protest criticizing China’s President Hu Jintao’s visit to India in Dharamsala on March 2012.

© 2012 Reuters

(ニューヨーク)-チベットでの人権状況悪化に懸念を抱く各国政府は来週開かれる国連総会に平行して、チベット・コンタクト・グループ設立のための議論の場を持つべきだ、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

コンタクト・グループの設立は、中国政府に対しチベット代表団との建設的な交渉の再開を検討するよう働きかけられると共に、チベットでの人権状況悪化について国際的な懸念が高まっていることを明示できるという意味がある。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ中国部長のソフィー・リチャードソンは、「チベットで新たに人権弾圧を行っている中国政府への各国政府の反応は、弾圧の範囲と規模に比べてあまりにも小さい。懸念を有する各国政府は、中国政府の心証を害するという怯えをすて、チベットの人びとの基本的人権を守るよう中国政府に働きかけなければならない」と指摘する。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは各国政府に、国連特別報告者や外交官、ジャーナリストほか、独立系調査関係者たちが長期にわたり要請している、チベット地方への立ち入りを支持するよう強く求めた。

相次ぐ焼身自殺による抗議に対応して、中国政府はチベット—中国間の情報と通信の規制を強化、弾圧的な治安活動を拡大し、恣意的な拘禁を多数行っている。2012年に入り、これまで38人のチベットの人びとが自らに火を放ち、うち32人が死亡。その一部は、中国政府の政策に抗議しての行動であると表明していた。中国政府は独立した立場の人びとがチベット地方に立ち入るのを禁止し続けている。

中国政府当局者は2012年8月、抗議運動に一斉検挙・拘禁・統制強化(特に僧院への)で対応した。複数のチベット人権団体が、馬爾康県(チベット語でバルカム)にあるツォドゥン(中国語でカオデン)僧院の僧侶3人が8月12日に逮捕され、8月16日にも2人が逮捕されたと報告している。焼身自殺をした個人の調査のためとされているが、逮捕は夜間に行われ、武装警察官が仏僧院に入って僧侶に暴行を加えた上に尋問している。逮捕理由は明らかにされていない。9月1日にも青海省の称多県(チベット語でツリンドゥ)のジカル僧院にて、同様に武装警察官による捜索が行われ、僧侶5人を逮捕、コンピューターと備品などが押収した。

中国政府はかつてないほど、宗教・文化・基本的自由に対する規制を強めており、これが近年多発する焼身自殺の一因になっている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。2009年2月以降チベット地方では、合計51人が焼身自殺を図り、うち38件が2012年に、7件がこの8月に起こっている。数千人の人びとが焼身自殺者の葬式に参列し、数百人を巻き込んだ事件や抗議行動を誘発した例もある。

中国政府は、根本原因である人びとの不満への対処を行うのではなく、治安部隊の配置とチベット地方全域への抑圧的な規制の強化を優先して事態に対応している。

背景

中国政府は以前、チベット自治区(TAR)内で、政府の規則に従う僧侶による僧院の運営を認めていたが、2011年後半その政策を転換した。導入された新システムは、チベットにあるほとんどすべての僧院を恒久的に政府当局者や中国共産党職員の直接支配下に置き、各宗教施設に政府関係者を常駐させ、僧侶と尼僧に関する情報の収集と政治的信頼性のチェックを行うというもの。2011年12月の政府の公式ニュースによれば、こうしたチベット地方で前例のない措置は、「チベットの長期的安定構築に向けた制度」に関する「重要覚書」に盛り込まれていた。

政府の治安維持と規制は、僧院内およびその周辺で特に強化されている。2012年5月に、四川省アバ県(チベット語でンガバ)にあるキルティ(中国語でゲ・エルデ)僧院などの焼身自殺事件が起きた宗教施設から、治安部隊が立ち去りはじめたという報告があったが、ここ数カ月間は警察や治安部隊隊員が僧院に立ち入るなど、事態は悪化しているとみられる。抗議のため自らに火を放った者の多くは、現役あるいは元僧侶や尼僧だ。

チベット民族の人びとは、中国語を話す人びとや中国の他地方に住む人びとよりも、遥かに厳しい情報規制を受け続けている。2012年を通じてヒューマン・ライツ・ウォッチは、チベットでニュース、メディア、その他の通信手段への規制が徐々に強まり、中国国内のチベット民族が、政府統制を受けていない情報から遮断されている実態を取りまとめてきた。情報統制に逆らおうとする個人は、厳しく処罰される。政府当局は8月に、四川省アバ県にあるカシ(中国語でカクスィ)僧院の僧侶で、8カ月間行方不明だったロ・ユンテン・ギャツォが、禁錮7年の刑を言い渡されたと報告している。彼は6月18日に、焼身自殺による抗議の写真を含むチベットについての情報を、亡命チベット人に渡した容疑で有罪判決を受けていた。2011年8月にも、同様の焼身自殺による抗議の写真を渡した罪で、少なくとも2人の僧侶が刑を受けている。

中国政府はチベット自治区における情報統制政策を拡大、2012年5月には、「チベットのイデオロギー的かつ文化的な分野に対する絶対的な秩序を確保」するために必要であるとして、インターネット使用、電子メール、電話所有権、コピーなどを地方政府当局が詳細に管理するためにリストアップするという、新たな措置を公表した。この結果チベット民族は、独立系のニュースに合法的にアクセスできなくなった。

チベット民族は、地方に住む多数の人びと含め、昨年後半以来チベット地方全域の村々や学校、僧院などで政治教育を受けさせられている。

移動の自由についての制限もまた強化された。他省からチベット自治区に入り、ラサやチベット地方の中心部を旅しようとするチベット民族に対する規制も強化され、無数の他省出身のチベット民族が、一部は有効な在留許可を得ているにもかかわらず、ラサから強制送還されている。

中国政府は、インドやネパールへの旅から戻ったチベット民族もターゲットにしてきた。2012年2月以来、ネパールの次にインドに旅行しダライ・ラマの講話を聴いた1,000人を超える人びとのほとんどが合法的な渡航関係書類を得ていたにもかかわらず、「法的教育」とよばれる政治的再教育のために司法手続きを経ないまま拘禁された。60歳以上を除いてほとんどの被拘禁者が、釈放されるまで2カ月間監禁されたと伝えられている。

何カ国かの政府、特に中国政府と公式に人権対話を行った政府などが、同地方で起きた人権侵害を取りまとめて文書化したり、焼身自殺などの憂慮すべき事件について協議相手である中国政府内の当局者との間での個人的な会話について詳述したりするなどして、チベットにおける人権環境の悪化について公式に懸念を表明している。しかしそれでも、中国政府に対する行動要求は、チベット側代表と建設的な交渉を再開するよう強く勧めるに留まった例がほとんどだった。協調した強い国際的圧力なしに、中国政府がチベット側との対話を再開する見込みは低い。

前出のリチャードソン中国部長は次のように指摘する。「長年にわたるチベット族の基本的人権への規制は、自暴自棄を引き起こし、危機をエスカレートさせており、弱まる兆しはない。国連加盟国は今こそ、チベットの人びとにいくらかの希望を与えることができる取り組みを行うべきである。」