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(ニューヨーク)-中国の全国人民代表大会(全人代)は、検討中の刑事訴訟手続法案の中で、一定の犯罪の容疑者を非公開の場所に隔離拘禁することを認めるとされる規定を削除すべきだ、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。この法案は中国の国際法上の義務に違反している。全人代は、3月14日、16年ぶりとなる刑事訴訟法手続きの抜本的な改定案を採択する見込みだ。

本法案では、容疑者を6ヶ月まで「失踪させる」権限は撤回された。しかし、現状の法案でも、政府批判をした個人や、「国家安全保障」、「テロ」或いは「汚職」の容疑者とされた個人を事実上秘密拘禁する権限を警察に与えたままとなっている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの中国担当ディレクターのソフィー・リチャードソンは「この刑事訴訟手続法案には、建設的な条文も多く盛り込まれている。しかし、秘密拘禁を認める本法案が採択されれば、中国政府が表明していた『適正手続を改善する』という目標は達成困難になる。このような規定は、反体制派や人権活動家にとって明確な脅威であり、中国政府の国際的義務に対する明らかな違反である」と述べる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、本改定法案の中に(仮に実施されれば)拘束期間の厳格な制限、弁護士へのアクセス保証の改善、未成年や精神疾患者の保護強化など、一般犯罪の容疑者の手続保護や適正手続の強化が盛り込まれている点は前向きに評価している。

近年、芸術家の艾未未(アイ・ウェイウェイ)氏、ノーベル平和賞受賞者の劉曉波(リュウ・シャオボー)氏、人権派弁護士の高智晟(ガオ・ズィーシェン)氏など、政府を批判した個人に対する警察による秘密拘禁が増加している。こうした秘密拘禁は、中国の国内法においても違法な措置である。2011年8月に国民からの意見聴取のために公開された当初の改定案は、6ヶ月以内の強制失踪を事実上合法化する条文を含んでいた。当該条文は国内外の強い非難を呼び、最終的に3月8日に法律改定案第2案として全人代に提出された際には、政府によって撤回されていた。

しかし、改定案の第73条「居住地での監視(自宅軟禁)」の規定のもとでも、法執行機関は、国家安全保障やテロ関係の容疑者を、6ヶ月以内の期限で法執行機関が選ぶ指定地に拘禁する権限を有する内容となっている。当該措置をとる法執行機関は、その事実を24時間以内に容疑者の親族に通知しなければならないが、その通知は容疑者の所在を明らかにする必要がない。また、改定案は、拘禁期間中における容疑者の弁護士へのアクセスを警察が拒否することも認めている。

通常の拘禁制度の枠外で外界との連絡を絶たれて(incommunicado)秘密拘禁される場合、拷問や虐待の危険性が高まる。しかも、拷問や虐待は通常の拘禁でも慢性的に発生している。昨年秘密拘禁された人権弁護士たちは、拘禁中に激しく拷問された実態を詳しく明らかにしている。

また、改定法案の第37条及び第83条にも、「国家安全保障、テロ、重大な汚職」事件の犯罪容疑者を37日間の期限で秘密拘禁することを認める内容が含まれている。

これらの例外規定では、容疑者の拘禁に関する24時間以内の親族への通知を、「捜査の障害」になると法執行機関が見なした場合、通知の延期を認めている。弁護士へのアクセス権の保障も、法執行機関が「承認」するかどうかに左右される。事実上、被疑者と弁護士との間のあらゆる接触を禁止する権限が法執行機関に与えられているといえる。

こうした例外規定の存在は、この刑事訴訟法改定法案が刑事拘禁システムを改善しようとしている点(親族への24時間以内の通知と48時間以内の弁護士へのアクセスの保障)をないがしろにする内容となっている。

中国政府は「国家安全保障」関連犯罪を非常に広く定義しており、支配政党たる共産党や政府への批判は勿論、チベット人やウィグル人のような民族的少数派の自治や独立の権利の平和的な擁護活動に対しても、「国家安全保障」罪が適用される。今年2月にも、同胞に対し政治的自由を求める事への支持を強く訴える詩を書いた反体制派詩人の朱虞夫氏に対し、国家安全保障犯罪である「国家政権転覆扇動」罪が科せられ、7年の刑が言い渡されるなどしている。

中国政府は最近、新しい刑事訴訟手続法案は人権保障の改善のために起草されたものであり、国家機関による秘密拘禁の実施は監視されると共に、警察は例外的状況下でのみそれを行うと主張している。しかし実際には、警察の活動に対する実質的な司法審査は実施されていない。しかも、警察の権限は強大で、警察を監視する役割を負うはずの裁判所や、「居住地での監視(自宅軟禁)」や刑事訴訟手続上の拘禁を監督する法的責任を有する検察機関である検察院の権限よりも、警察の権限の法が遥かに大きいのが現状である。中国の司法制度は、制度上共産党の指導下におかれており、しかも、独立した弁護士会も存在していない。こうした現実を考慮すれば、法執行機関による人権侵害で被害を被った被拘禁者が、救済措置を求める手段もまた制限されているのが実態だ。結局、法執行機関が、この法改定案上の規定を恣意的に運用したり逸脱した場合や、政治的な動機で訴追が行われた場合でも、効果的な救済手段は存在しないのが現実である。

恣意的拘禁の禁止は司法の根幹となる原理である。国際慣習法の反映とみなされる世界人権宣言でも謳われている。中国が1998年に署名したものの批准はしていない「市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下ICCPR)」は、「刑事上の罪に問われて逮捕され又は抑留された者は、裁判官又は司法権を行使することが法律によって認められている他の官憲の面前に速やかに連れて行かれるものとし、妥当な期間内に裁判を受ける権利又は釈放される権利を有する」と規定している。更にICCPRには「逮捕又は抑留によって自由を奪われた者は、裁判所がその抑留が合法的であるかどうかを遅滞なく決定すること及びその抑留が合法的でない場合にはその釈放を命ずることができるように、裁判所において手続をとる権利を有する」と規定されている。ICCPRの署名国として中国は、「条約法に関するウィーン条約」に基づき、「条約の趣旨及び目的を失わせることとなるような行為を行わないようにする」義務を負っている。

拷問等の禁止に関する国連特別報告者と恣意的拘禁に関する国連作業部会は、秘密拘禁と外界と隔離された(incommunicado)拘禁を、法律で禁止すべき重大な人権侵害として繰り返し非難してきた。国連総会も、そうした行為を同じように強く非難してきた。

「司法審査を経ない秘密拘禁システムを合法化することは、法の支配の確立へ向けた期待を打ち砕くものだ。このような抜け穴を塞ぎ、人権問題の改善に向けて法律を活用するという中国政府の公約を実現するのに、遅すぎるということはない」と前出のリチャードソンは指摘する。 

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