(ニューヨーク)-スリランカ軍が重大な戦争法違反を犯したという疑惑を調査するため、スリランカ軍は、5人の委員で構成される調査委員会を設立したと発表した。これに対し、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日、この委員会もスリランカ政府恒例の遅延戦術に過ぎず、国際世論対策とみられると述べた。
政府軍と分離独立派「タミル・イーラム・解放のトラ」の内戦は2009年5月に終結した。しかし、内戦最終盤の数ヶ月間に両陣営が犯した国際人権法及び人道法違反のアカウンタビリティ(真相究明と責任追及)は、未だ果たされていない。国連人権理事会(スイス・ジュネーブ)は2012年2月27日からの次期会期でアカウンタビリティの欠如に関する決議を議論すると見込まれている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムスは「戦争終結後3年も経ってスリランカ軍が調査委員会設立を表明した理由は、今やっと素晴らしいアイディアが生まれたからではない。真摯な国際的調査を求める国際世論をかわす策略とみられる」と語る。「国連人権理事会でのスリランカ決議採択が視野に入るや突如表明されたこの調査委員会。国際社会を小馬鹿にしたスリランカ政府お馴染みの無意味な動きだろう。」
スリランカ軍はこれまで、内戦末期の民間人の死亡に一切責任はない、と主張し続けてきた。しかし、国連専門家委員会や米国国務省、そしてヒューマン・ライツ・ウォッチなどの人権団体は、スリランカ軍による民間人への無差別砲撃や超法規的殺害が行われた詳細な調査報告を発表してきた。これに対し、スリランカ政府は、こうした取り組みや国連人権理事会での決議に向けた動きなどを非難し続けている。
今回の軍調査委員会の委員を指名したのはジャガス・ジャヤスリヤ(Jagath Jayasuriya)中将。同中将は、戦争終結までの数年間、主たる戦場となったワンニ(Vanni)で治安部隊指揮官をつとめた人物。軍のウェブサイトは、ジャヤスリヤ氏が「ワンニにおける軍事計画・作戦全般に積極的に関与していた」としている。ジャヤスリヤ中将は、重大人権侵害に関与した可能性のある幹部将校たちを監督する立場(あるいは同僚)だった。その中将が指名した調査委員会が中立かつ公平に調査を行うなど到底期待できない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。
スリランカ政府には、過去にも何度も、国際世論が高まるや、政府よりの委員から成る調査委員会を立ち上げ、調査を妨害したり調査結果を無視してきた長い歴史がある、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。国連専門家委員会は、国連事務総長の潘基文氏に対し、スリランカ内戦における国際法違反を調査する独立した国際的なメカニズムを設立するべきだと勧告したが、ヒューマン・ライツ・ウォッチもこうした国際メカニズムの設立を長い間求め続けている。スリランカ政府が設置した「過去の教訓・和解委員会(LLRC)」が2011年12月に発表した報告書は、人権問題に関して厳しい勧告を行なったものの、政府による人権侵害に関するアカウンタビリティには全く触れなかった。
前出のアダムスは「犠牲者とその遺族の思いに応えるためには、今回設置された軍調査委員会が国連人権理事会におけるスリランカ決議妨害に向けた策略で終わってはならない」と語る。「高官であろうと地位に関わりなく訴追され法の前で裁かれてはじめて、スリランカ政府がアカウンタビリティに向け真剣に取り組んでいると評価できる。さもなくば、今回の軍調査機関も、スリランカ政府の『アカウンタビリティの約束』破りがまたひとつ増えたという結果になるだけだ。」