(ニューヨーク)-イラン政府当局は、労働者の権利擁護のために平和的に活動したとして投獄中の労働運動家と独立労働組合活動家数十人を即時釈放すべきだ、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日こう述べた。結社と表現の自由の平和的な行使のみを理由とする有罪判決、またこれらの理由で訴追されている人物への起訴は撤回されるべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは主張した。
最新の大量逮捕はテヘラン、東アーザルバーイジャーン州およびコルデスターン州で発生している。当局は2012年1月中旬に活動家4人を出頭させ、2011年に宣告した長期刑に服させた。1月28日、当局はテヘラン在住の教師で労働運動家のアリーレザー・アファヴァーンを逮捕した。勾留場所は不明だ。1月18日に治安部隊は、モハンマド・ジャラーヒーをタブリーズの自宅で逮捕した。この3日前、公安警察はタブリーズの労働運動家シャールク・ザマーニーを逮捕し、同市内の2人の活動家にも出頭を命じた。1月16日、当局はコルデスターン州の州都サナンダジュの著名な人権活動家で独立労働組合メンバーのシャイス・アマーニーを逮捕した。1月上旬に当局は、メフディー・シャンディーズを逮捕し、テヘランのエヴィーン刑務第350区に移送した。逮捕された全員が労働運動家か、政府が認めていない独立労働組合の組合員だ。
「マフムード・アフマディーネジャード(アフマディネジャド)政権下での労働者の権利擁護について、独立労働組合はきわめて重要な役割を果たしてきた」とヒューマン・ライツ・ウォッチの中東局長代理ジョー・ストークは指摘した。「今回の大量逮捕は、独立労働組合を標的とし、強制的に国家の完全な統制下に置こうとする、長年にわたる卑劣な伝統の延長線上にある。」
当局はまずザマーニーを2011年1月7日に、独立画家組合の組合員であり、労働組合設立追究委員会理事であることで逮捕した。タブリーズ革命裁判所第1支部は氏に11年の刑を宣告した。容疑は「労働者ストライキと武装蜂起を通して国家の安全を損なう目的での[中略]反国家的非合法団体の結成への参加」また「さらなる違法な活動を目的とした会合および共謀」と「反体制プロパガンダ行為」も挙げられた。
同じ裁判で、裁判所は2010年10月20日に逮捕されたジャラーヒーに対し、民主労働者運動という名前の「非合法」団体を結成したとして5年の刑を宣告した。またニーマー・プーリヤグーブに同じ容疑で5年、さらに「反体制プロパガンダ行為」で1年の刑を宣告した。ササン・ヴァーヘビヴァシュは関連する活動で6カ月の刑を宣告された。プーリヤグーブとヴァーヘビヴァシュはタブリーズのアーザード大学の工学部の学生だ。
当局はこの4人を2011年11月に保釈金と引き替えに釈放した。しかし東アーザルバーイジャーン州第6高等裁判所は一審判決を支持した。当局は今年になって4人に出頭し、刑期に服すよう求めた。
イラン国内の報道によれば、コルデスターン州サナンダジュの著名な労働運動家でイラン自由労働組合(IFWU)理事のアマーニーが逮捕された。サナンダジュの検察官事務所を訪れ、1月初めに拘束された2人の活動家の消息を訪ねた後のことだった。
ヒューマン・ライツ・ウォッチはこのほかにも現在収監中の著名な労働運動家や組合活動家の健康を懸念している。レザー・シャハービー、アリー・ネジャーディー、エブラーヒーム・マダーディー、ベフナーム・エブラーヒームザーデなどだ。マダーディーはテヘラン・近郊バス会社労働者組合(SWTSBC)副委員長でシャハービーは同組合の財務担当だ。マダーディーは国家の安全を脅かしたとして3年6カ月の刑を宣告され、収監中だ。シャハービーは2010年6月12日に逮捕された。テヘラン革命裁判所は2011年5月25日、国家の安全への脅威と「反体制プロパガンダ行為」の容疑で裁判を行ったが、判決はまだ出ていない。
シャハービーの親族に近い消息筋によれば、氏はエヴィーン刑務所で1年6カ月にわたって収容されており、うち数カ月は独房拘禁状態だった。現在、首と背中に激しい痛みを訴えている。氏は2011年12月22日に、自身の身柄の拘束と、当局が適切な医療措置を行わないことに抗議する30日間のハンガーストライキを終え、現在はテヘランのエマーム・ホメイニー病院に入院している。
このほかアリー・ネジャーディーとベフナーム・エブラーヒームザーデという2人の独立組合活動家も、国家の安全に脅威を与えたとしてそれぞれ1年と5年の刑で収監されている。両人とも医療面で深刻な問題を抱えている。ヒューマン・ライツ・ウォッチが入手した情報によれば、両人は適切な医療を受けるために長期の一時帰休を申請したが、司法当局に拒否された。
ネジャーディーはハフト・テぺ・サトウキビ労働者組合(HTSCW)[注:ハフト・テペには広大なサトウキビ農場と製糖工場がある]の元代表で現在は役員を務める。イラン南西部アフヴァーズ州のデズフール刑務所に収監中だ。エブラーヒームザーデはエヴィーン刑務所に収監されている。
イラン自由労働組合とバス労働者組合、サトウキビ労働者組合はイランで最も活発な独立労働組合である。イラン労働法は政府公認組織から独立した労働組合を結成する権利を認めていない。2005年から当局はこれら独立労働組合に加わる労働者に対し、嫌がらせ、出頭命令、逮捕、起訴、有罪宣告などを繰り返し実施し、家族にも嫌がらせを行っている。
こうした逮捕事例のほとんどが、国際労働者デーを記念する取り組みの実施中、または上記組合が呼びかけたストライキの実施中に発生した。なおストの多くは数カ月にわたる未払い賃金の支払いを求めるものだ。バス労働者組合のマンスール・オサーンルー委員長は2005年から2007年にかけて何回か逮捕された後、「国家の安全を脅かす行為」と「反体制プロパガンダ行為」で5年の刑を宣告された。当局は氏が約4年服役した後の2011年6月、エヴィーン刑務所からの仮釈放を認めたが、いまでも残りの刑期に服させるために出頭を命じることができる。ヒューマン・ライツ・ウォッチは司法権に対し、オサーンルーへの判決を撤回するよう求めている。
独立労働組合は、アフマディーネジャード大統領が提案している現行労働法の修正条項に抗議している。現在イラン国会で審議中の改正案は、雇用者による労働者の解雇を容易にするほか、年休など労働者の手当を削減するものだ。
市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)第22条と経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)第8条は、労働組合を結成し及びこれに加入する権利を保障している。イランは両規約の批准国だ。イランは国際労働機関(ILO)の加盟国だが、ILO条約第87号(結社の自由及び団結権の保護に関する条約)と同第98号(団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約)の批准を現在も拒否している。
「労働運動に取り組む人びとは、イランでの結社と集会の自由を求める闘争の最前線に立ってきただけに、大きな犠牲を強いられている」と前出のストークは指摘する。「イラン国内法は独立労働組合を結成する権利を認めるべきであり、構成員の利害を代表した以外の犯罪を行っていない活動家は釈放されるべきだ。」