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(カトマンズ)-ネパールの内戦終結後5年が経過するが、被害者は今も法の裁きの実現を待ち続けている、とヒューマン・ライツ・ウォッチおよびアドボカシ-・フォーラム(Advocacy Forum)は本日発表した共同報告書で述べた。容疑者らは、中立的かつ効果的な犯罪捜査を受けることはまったくなく、政府の要職についたり、国連平和維持活動で国外に派遣されるなどしている。

殺害の犠牲者の遺族や失踪・拉致被害者の家族は、法の裁きを求めて懸命に闘ってきたが、重大な人権侵害の犯人は1人も文民法廷で起訴されていない。警察が真剣に捜査を行おうとする姿勢はなく、裁判所が政府に出した命令に従う兆しも殆ど見せていない。政党の指導者たちは、現在裁判係争中の内戦中の事件を取り下げると公に議論したり、軍人や毛沢東主義派兵士への恩赦についての議論も公然と行ってきた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの南アジア調査員テジスリー・タパは「重大な人権侵害の加害者に対する恩赦は、重大犯罪の被害者にとっては正に追い打ちである。新政権が樹立された今こそ、ネパール国民に対し、人権犯罪の責任を問う政治的意思が存在する真に新しい時代が来たということを示す時だ」と述べた。

報告書(全59ページ)「追い打ち:内戦時の人権侵害 不処罰続く」は、ネパール政府に対して、その公約であるとともに国際法上の義務でもある人権犯罪に対するしっかりとした捜査及び責任者訴追を果たすよう求めた。同報告書は、ネパールの不処罰問題に関し、ヒューマン・ライツ・ウォッチとアドボカシー・フォーラムがこれまで3度にわたって発表した共同報告書の続編であり、殺人、失踪、拷問に関する6つ事件を詳細に調査した結果をまとめている。また別表では、62の法廷係争中の内戦中事件について、裁判の遅れに関する最新情報を提供している。

アドボカシー・フォーラム代表のマンディラ・シャルマは「犯罪に対するアカウンタビリティ(法の裁き)は、統治、司法、法の支配の改善の前提条件である。もしネパール政府当局が内戦中の人権侵害の加害者を訴追するという義務を結託して回避し続けるなら、持続的な和解など遠い夢のままだろう」と語った。

ヒューマン・ライツ・ウォッチおよびアドボカシ-・フォーラムは、警察が、政府高官や諸政党そしてネパール国軍から、裁判の妨害や遅延という強い圧力にさらされていると述べた。様々な説明がなされてはいるものの、現実には、人権犯罪の加害者に法の裁きを下そうとする政治的意思が欠けているのは明確である。法の執行を確保するしっかりした法制度がないため、加害者(特に軍当局者)たちは、内戦時の犯罪は文民法廷ではなく「真実和解委員会」で審議すべきという論拠を用い、最高裁判所の判決を無視する形で訴追を免れている。過去の人権侵害に対するしっかりした刑事捜査ができるような司法改革が進まず、かつ、和平協定で約束されたトランジショナル・ジャスティス(移行期の正義・司法)制度の設立も進まないため、人権犯罪の加害者は不処罰のまま放置されている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチとアドボカシー・フォーラムは、ネパール政府に以下を求めた。

● 「重大な人権侵害に対しては恩赦を与えない」と明確に約束すること

● 失踪や殺人など内戦時の人権侵害に対して、治安部隊員や政党党員などを含む全ての責任者を、総力を挙げて捜査・起訴すること

● ネパール国軍が関与した事件を捜査するため、検事総長下に特捜部を立ち上げること

● ネパール警察を監督する独立した機関の設立

● 裁判所の命令を遵守しない行為を重い犯罪とすること

● 軍人の昇進、国外での国連平和維持活動への参加、海外での特別訓練などに対する効果的な公職評価システム(vetting system)を設置すること

● 「失踪者調査委員会」と「真実和解委員会」の設立を、国際的基準に沿った形で行うこと。公約にもかわらず未だ実現していない。

ネパール政府は、2011年1月の国連人権理事会(ジュネーブ)の普遍的定期的審査(UPR)で、不処罰問題に対処すると約束をした。本報告書は、国連人権事務所、援助国・援助機関をはじめ、ネパールに影響力を持つ他の国際的アクターに対して、ネパール政府がその約束を守るよう働きかけることを求めた。

前出のシャルマは「政治的な思惑に基づく訴追撤回や恩赦に断固とした姿勢で対抗し、アカウンタビリティ(法の裁き)の実現のために早急に行動することによってのみ、持続的な平和が保障され、国と法執行機関に対する国民の信頼が回復される。ネパールがその新たな歴史の局面に入るにあたり、法の裁きを求めて闘う人びとの夢と熱意が尊重されることは大変重要なことである」と指摘する。 

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