(ニューヨーク)- イラン当局はユーセフ・ナダルハーニー牧師を直ちに解放し、氏に対する告訴をすべて取り下げるべきだ、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日こう述べた。棄教を理由に起訴され、イラン北部のラシュト刑務所に収容中の同氏に死刑判決が下される可能性がある。

ナダルハーニー氏(33)は、2011年9月25日に召喚状に応じて高等裁判所に出頭した、と氏の代理人のモハンマド・アリー・ダードハーフ弁護士は述べた。裁判所はナダルハーニー氏に対し、現在の信仰を捨て、イスラームを信仰する機会を3度与えると伝えた。3回行われた審理の最後となった9月28日に、氏は改宗を3度拒否した。6月の最高裁判決は、棄教を理由とした死刑判決を破棄し、下級審に対して、氏が死刑を回避するためにキリスト者としての信仰を捨てる気があるかを判断する追加調査を命じた。

「イランは21世紀に至ってもなお、個人を裁判所に引きずり出し、信仰か死かの選択を迫る数少ない国の1つだ」とヒューマン・ライツ・ウォッチの中東局長代理ジョー・ストークは述べた。「ナダルハーニー氏は今後一日たりとも収容されるべきではない。死刑など論外だ。」

治安部隊は当初、チャーチ・オブ・イランのメンバーで、イラン北部ラシュトで約400人の信徒を持つナダルハーニー氏を2009年10月に逮捕した。そして2009年11月に、下級審はイラン刑法にはそのような犯罪は存在しないにも関わらず「イスラームの棄教」を理由とし、氏に死刑を宣告した。2010年9月22日、ギーラーン高等裁判所第11支部は棄教を理由とする氏への死刑判決を支持したが、2011年6月に最高裁判所は、氏が成人に達した(イラン法では男性は15歳)以降にムスリムではなく、かつ現時点で改悛しているのであれば処刑はできないとして、下級審に差し戻して再調査を求めた。

ナダルハーニー氏は現在ギーラーン高等裁判所の判断を待っており、死刑や懲役刑となった場合は上告する意向だ。

最高裁判所は、棄教はイラン刑法の条文に存在していないことのみを持ってイラン法上の犯罪とはならないとの主張を退け、この犯罪はイスラーム法に存在が認められ、かつイラン・イスラーム共和国の建国者アヤトッラー・ルーホッラー・ホメイニーも認定しているとした。

ナダルハーニー氏の弁護士はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、氏は19歳でキリスト教に改宗したが、それ以前に本人には、イスラームないし何らかの宗教を信じているとの認識はなかったと話している。同弁護士はまたナダルハーニー氏が思春期に達する前にムスリムであったかどうかの議論は、棄教がイラン刑法上の犯罪として存在しない以上、法に基づく議論ではないと述べた。

2009年以降、公安および司法当局は福音派キリスト教徒やキリスト教改宗者を大量に逮捕している。主要な標的の1つが、福音派の全国的な信徒団のチャーチ・オブ・イランだ。9月初め、高等裁判所で、反体制宣伝の罪で(伝えられるところによれば改宗を行ったために)起訴された、チャーチ・オブ・イランのメンバー6人に対する1年の刑を下した判決が維持された。当局は当初、シラーズのチャーチ・オブ・イランの聖職者ベフルーズ・サーデク-ハーンジャーニーを、棄教を理由に起訴すると脅迫したが、不起訴とした。

当局はまたこれ以外の福音派ならびにプロテスタント系信徒団も標的とし、メンバーを逮捕している。2010年12月から2011年1月にかけて、治安部隊は、福音派団体に属するとされるキリスト教徒約70人を逮捕した。2010年7月18日には、マシュハドに住むキリスト教徒15人を、ボジュヌールドの仲間との会合のために出発したところを逮捕した。当局が福音派キリスト教徒を棄教で起訴することはほとんどなく、かわりに「国家安全保障を脅かす行動」や「反体制宣伝」、「イスラームの神聖さを侮辱する行為」など昔からの容疑が用いられている。キリスト教団体側の主張によれば、当局は2010年6月から2011年2月の間にイラン国内で250人以上のキリスト教徒を逮捕している。

アルメニア人やアッシリア人、カルデア人のようにイランで伝統的に公認されるキリスト教系少数民族とは異なり、福音派キリスト教団体はペルシア語で礼拝を行う。また当局からは、ムスリムを自分たちの信仰に呼び寄せるためにペルシア語で宗教文書を広めていると批判されている。2月にモルタザー・タマッドン・テヘラン州知事は、福音派キリスト教徒をスンニ派の過激派やタリバンと比較した上で、国営イラン通信に対し、こうした人びとは「嘘つきで常軌を逸した腐敗カルト集団」だと述べた。そして「テヘランでこうした運動を行う指導者の身柄は拘束しており、近い将来逮捕者は大きく増えるだろう」と付け加えた。

2010年10月に最高指導者アーヤットラー・アリー・ハーメネイーはコムを訪問した。その際に「人を惑わす偽りの信仰と戦う必要がある」と発言し、福音派とプロテスタント系信徒団、ネッマトッラーヒー・ゴナーバーディー・スーフィー教団、バハーイー教徒に言及した。イスラーム高位聖職者を含むイラン政府高官は、特に若者に見られるイスラーム以外の信仰や信条の拡大と自らが見なす現象について、懸念を表明している。

2006年にアフマディネジャド大統領は、一般文化評議会に対し、とくに宗教系の「逸脱団体」への対策を実施する権限を付与した。一般文化評議会は、公的部門での雇用と教育に関する規制を実施する行政機関である、文化革命最高評議会の下部機関だ。

国際法は宗教に基づく差別と迫害を厳しく禁じている。イランも批准する市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)第18条2項は「何人も、自ら選択する宗教又は信念を受け入れ又は有する自由を侵害するおそれのある強制を受けない」と定める。また同規約第27条は、宗教的少数者が自己の宗教を信仰しかつ実践する権利を否定されないと定めている。

イラン憲法第13条はキリスト教を公認された少数派宗教とし、同第14条は「すべてのイスラーム教徒は、非イスラーム教徒に対し、正義と善意に基づいて遇する義務を有する」と定める。そして第26条では、宗教団体の結成の自由がうたわれている。

「国際法とイラン国内法は共に、イラン当局に対し、すべてのキリスト教徒について、アルメニア人やアッシリア人、カルデア人といった歴史的な共同体に属するか、改宗者であるかに関わりなく、平等と人権を保障する義務を定めている」と前出のストークは指摘した。