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今年6月30日に就任したベニグノ・アキノ3世フィリピン大統領。アキノ大統領は、横浜で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)出席のため、今週、就任以来初めて日本を訪れる。アキノ大統領との首脳会談で、菅首相は、日本の外交政策のひとつである人権保護をとりあげ、フィリピンで続く超法規的殺害の不処罰に対して懸念を表明すべきである。そして、この問題への対応を怠れば、日本とフィリピンの二国間関係に影響を与える、とはっきり伝えるべきである。

先月29日、両首脳はベトナム・ハノイにて初めての正式な首脳会談を行い、両国間の関係強化に合意した。日本は、フィリピンの道路の修理・維持のために408億円(214億ペソ)の借款を約束した。この初会合を終えた今こそ、日本は、人権を両国関係の中心的課題にすえなくてはならない。

2001年以来、フィリピンの治安部隊は、数百名にも及ぶ左派政治家、政治活動家、聖職者、ジャーナリストなどの殺害に関与してきた。ある実例を挙げよう。アンディ・パウィカン(Andy Pawikan)牧師は2006年5月、ルソン島中央部ヌエバ・エシハ州にある教会から妻と生後7カ月の娘、そして同じ教会に通う女性3人と一緒に歩いて帰宅途中、20人ほどの軍人たちに呼び止められた。女性たちはその場を立ち去ることを許されたが、軍人らは赤ん坊を抱いていた牧師を拘束。その30分後、女性たちは銃声を聞いた。しばらく時間が経った後、軍人の一行が牧師の義理の母親の家に、血まみれの赤ん坊(ただ、赤ん坊自身に怪我はなかった)を届けにやって来た。翌日、村の住民たちがパウィカン牧師の遺体を発見。フィリピン国軍は、フィリピン統一キリスト教会(UCCP)の牧師の一部が共産主義運動に関与していると主張している。

こうした超法規的暗殺事件が多数発生する中、日本を含めた国際社会には、フィリピンに超法規的処刑の数を減らすよう求めるべきであるという各国国民からの要求が高まった。日本政府も声をあげた。自民党政権時代には、首脳会談でも、フィリピンでの超法規的殺害がとりあげられた。また、2008年に国連人権理事会が行ったフィリピンに対する普遍的定期審査(UPR)でも、日本政府は、フィリピン政府による超法規的処刑の捜査の有効性と、超法規的処刑を止めさせるために政府がどのような対策を取っているか質問した。フィリピンの最大援助国の一つである日本が、米国やEU、その他の国々と協力してこうした国際的な働きかけを行ったことで、殺害件数は大幅に減少した。

しかし、殺害件数は減少したものの、ほとんどの場合、犯人の責任は問われないままである。2001年以来、6件の超法規的処刑に関連した11人の犯人に有罪判決が下されただけだ。パウィカン牧師の死後4年が経過しているにもかかわらず、警察も司法省もこの殺害事件に対し、しっかりした捜査を行なっていない。2009年11月にフィリピンのマギンダナオ州で州知事選に絡んで57名が殺害された事件は世界的に大きく報道された。しかし、この事件でも、警官数十人と地方政治家数人が現在裁判にかけられているとはいえ、軍人4人を含む115人の容疑者は今なお訴追されていない。

そして残念ながら、超法規的殺害はアキノ政権の下でも続いている。アキノ大統領の就任以来、政治的動機によるとみられる殺人事件が20件以上起き、その一部の事件について治安部隊が関与しているといわれている。今年7月には、中部ルソンとビコール地方にある学校の教師3人が、それぞれ別々に、何者かに銃撃され殺害されている。3人は、学校への出勤途中あるいは帰宅途中だった。そのうち1件の事件では、犯人は国軍の軍服を着用していた。犠牲者は全員、教師連合Alliance of Concerned Teachers(ACT)のメンバーだった。国軍は、この教師連合が共産ゲリラの関連組織だと非難している。

日本は、長年にわたり、フィリピンの警察の重大犯罪の犯罪捜査能力を向上させるプロジェクトに資金援助してきた。だからこそ、日本政府は、フィリピンの治安部隊のアカウンタビリティ(法的責任追及)が果たされていないことに懸念を表明すべきである。菅首相はアキノ大統領に対し、日本政府はフィリピンで、法による裁きがしっかり行われるか、注目していると伝えるべきである。そして、超法規的殺害などの人権侵害を行った犯人の捜査・訴追が行われるか、注意深く監視しなくてはならない。

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