(ニューヨーク)-ヒューマン・ライツ・ウォッチ、国際危機グループ(インターナショナル・クライシス・グループ、ICG)、アムネスティー・インターナショナルは本日、スリランカ政府の「過去の教訓・和解委員会(Lessons Learnt and Reconciliation Commission)宛ての共同書簡を公開し、スリランカ政府の委員会における証言を辞退するとの意向を明らかにした。同委員会は、戦争犯罪に対するアカウンタビリティを実現できない、というのが辞退の理由である。
この3団体は、スリランカにおける政治和解とアカウンタビリティ(真相究明と責任追及)に向けた真に信頼足る機関には喜んで出席し証言するとしつつも、この「過去の教訓・和解委員会」は事実調査委員会(commissions of inquiry)としての最低限の国際基準を満たしていない、と述べる。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのエクゼクティブ・ディレクターであるケネス・ロスは「根本的欠陥のあるこのような委員会に出席しても、得られるものはほとんどない」と語る。「スリランカにおける戦争犯罪に対するアカウンタビリティ実現のためには、中立な国際的調査が不可欠だ。」
「過去の教訓・和解委員会」は、スリランカのマヒンダ・ラージャパクサ(Mahinda Rajapaksa)大統領が、2010年5月に設立。スリランカ政府と分離独立派武装組織タミル・イーラム・解放のトラ(以下LTTE)の間の25年に及ぶ内戦の最終局面の数ヶ月において、戦時国際法(戦争法)違反が報告されている。ラージャパクサ大統領による本委員会設立は、これらの疑惑に対する国際的調査を求める声を逸らそうというスリランカ政府の作戦であることは明らかである。
この「過去の教訓・和解委員会」は、適切なマンデート(目的と権限)を与えられておらず、独立性に欠け、アカウンタビリティ実現に向けた信頼性はほとんどない機関である、と前出の3団体は書簡で述べる。同委員会のマンデートは、スリランカ政府とLTTEの間の2002年停戦協定破棄に焦点を当てており、内戦中の戦争犯罪疑惑に対する調査は任務とされてはいない。また同委員会は、現在までの審理の過程で、こうした戦争犯罪疑惑を調査することに何の関心も示していない。
しかも、この「過去の教訓・和解委員会」では、長い内戦のなかで政府高官だった人物や内戦における政府軍の行動を積極的に擁護してきた人物たちが、委員に任命されている。よって、委員会は中立性にも欠けており、それ以外の委員たちも、政府よりの人物たちが任命されている。
さらに、3団体の書簡は、この「過去の教訓・和解委員会」には証人保護規定がまったくないことにも言及。現在のスリランカでは、政府高官らが、政府による人権侵害の可能性を語る国民は誰でも「非国民」だと公言している実態。この状況下では、この委員会に証人保護のしくみがないことは、とりわけ深刻である。
スリランカは、内戦終結にもかかわらず、いまだに政治的発言を犯罪として取締る非常事態の下にある。こうした非常事態の下、政府を批判した人物に対する暴力事件に、しっかりした捜査のメスが入ったためしはない。
「内戦の最終局面の数ヶ月間で、政府とLTTEの双方により重大な国際法違反が行われた。その結果、数千人の民間人が殺害された」と前出のロスは語る。「この『過去の教訓・和解委員会』は、真のアカウンタビリティを実現するための本格的調査を避けようとするスリランカ政府の小手先の作戦にすぎない。」