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スリランカ:政府案では、戦争責任は問えない

国連事務総長は、国際調査団の設立を

(ニューヨーク)-スリランカ政府は、戦争責任を問う新たな委員会を設置するという考えを示し、その委員会で、分離独立派「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」と政府との内戦でおきた戦争法違反問題に対処するとの構えを示した。しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、この動きは、独立した国際調査団の設立を妨害しようとする一連の対策にすぎない、とスリランカ政府を批判。さらに、潘基文(パン・ギムン)国連事務総長に対し、スリランカでの戦争法違反容疑事件に対する独立した国際調査を行うとともに、戦争責任を問う手段を講じるよう強く求めた。

この「教訓と和解」委員会の設立発表に先立って、スリランカ政府は、スリランカでの戦争責任問題の対処方法について潘基文(パン・ギムン)国連事務総長に提言を行なう専門家委員会の設立を妨げようと、一月にわたる一連のキャンペーンを続けてきていた。2009年5月に内戦が終結。その後、マヒンダ・ラージャパクサ(Mahinda Rajapaksa)大統領は、「スリランカ政府は、国際人道及び人権法関連の違反疑惑に対処するべく措置を講じる」と約束して、潘基文国連事務総長との共同声明に署名した。しかし、今に至るも、実質的な措置は何ひとつとられていない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは、「国際社会が戦争責任の問題を持ち出すたび、スリランカ政府は、時間だけはかけるが何もしない委員会を設立して、戦争責任問題を回避し続けてきた」と述べる。「パン事務総長は、スリランカのこの巧妙なトリックのゲームをやめさせるべきだ。そして、スリランカ内戦の被害者すべてが法の正義の恩恵を受けられるよう、プロセスを今こそ始めるべきだ。」

スリランカ政府は、2009年11月にも、戦争法違反疑惑を調査する委員会を設立。しかし、2010年4月が期限とされていたにも拘わらず、今に至るも調査結果は公表されていない。この委員会の設立が明らかにされた際にも、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、戦争責任の明白化を妨げるための煙幕に過ぎない、と警告していた。

2009年の1月から5月までの間に殺害された民間人は、国連の控えめな推計によっても7千人に上る。さらに、1万3千人を超える人びとが負傷したとみられる。殺害されたのは2万人に上るとの推計もある。ラージャパクサ大統領など政府高官は、政府軍による国際法違反はなかったと繰り返し主張し、戦争責任の明白化に関する実質的措置を避けてきた。

2010年5月6日、スリランカ政府は、新たな委員会をまた設立し、内戦で学んだ教訓と和解に向けた努力に関して報告する予定、と発表。政府のウェブサイトに掲載された声明には、スリランカ政府は、「内戦状況下、国際的に確立された行動規範への違反や、違反行為の原因となったと考えられる状況、さらにそうした違反行為の責任者や団体の特定に関する調査が行われる予定」と述べられている。しかし、スリランカ刑法に違反した者の責任追及について何も語られていないほか、スリランカの国内法又は国際法に違反した者にする対処についても全く述べられていない。

スリランカ政府発表によれば、今回設立される委員会はスリランカ国内外に住む7名のスリランカ人で構成とのことで、国際的な関与はない。

「スリランカ政府が、国民和解のために広範な人びとの参加を得て誠実に努力するのであれば、そうした努力は支持されるべきだ」と前出のアダムズは語る。「しかし、戦争責任に正面から誠実に向き合うことなしには、国民和解の成功はありえない。」

人権侵害の蔓延と不処罰の放置に対する国際社会からの批判をかわそうと、委員会を設立するのは、スリランカ政府の常套手段である。1948年のスリランカ独立以来、こうした委員会が少なくとも10個は設立された。しかし、いずれもしっかりした成果をあげていない。

内戦の両当事者が犯した重大な人権侵害容疑事件を調査するとして、2006年11月、ラージャパクサ大統領は、大統領下の調査委員会を指名。しかし、これも完全な失敗に終わった。国際的基準に沿った調査を確保しようと、国外から専門家グループ(注:日本からは横田洋三教授)が任命されたものの、同グループは2008年に辞任。「委員会の手続きが透明性を確保しているといえず、また国際的な基準を満たしているともいえない」と判断したためである。

2009年6月、大統領下の調査委員会は、諮問された16の重大な人権侵害事件のうち、7つしか調査をしていないのに、ラージャパクサ大統領は同委員会を解散。しかも報告書の公表もしなかった。

スリランカ政府は、パン国連事務総長が専門家委員会を設立するのを何とか阻止しようと、様々な働きかけを行なってきていた。そして、今週、新たな委員会を設立するという新たな構想が明らかにされたわけである。パン国連事務総長は、3月5日、スリランカの戦争責任に関し、事務総長に提言をする専門家委員会の設立を考えている、とラージャパクサ大統領に伝えた。そうしたところ、スリランカ政府は、これに猛烈に反発し、「不必要」かつ「不当」だ、と非難してきた。

パン事務総長は、まだ専門家委員会のメンバーを任命していない。また、同委員会が何を行なうのかの詳細も明らかにしていない。

「スリランカ政府は、戦争被害者たちのための法の正義の実現を妨げようと、パン事務総長に対する猛烈な抗議と干渉を続けている。パン事務総長はこうした圧力に屈してはならない」と前出のアダムズは語る。「今こそ、パン国連事務総長は、スリランカの長い内戦で苦しんだ被害者側に立つということを、明らかにすべきである。」

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