(ニューヨーク) - イラン刑務所当局は政治囚17人の独房拘禁をやめ、家族や弁護士との面会などしかるべき権利を認めるべきだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日こう述べた。17人全員が7月26日からエヴィーン刑務所の処遇環境の悪化に抗議してハンガーストライキに入っており、現在まで家族との面会を禁止されている。
この17人は、数百人の囚人がいるテヘランのエヴィーン刑務所第350区に収容されている。その多くが、結果に疑義が呈されている2009年6月12日の大統領選挙後に起きた大量逮捕劇の一環として、不当に拘束された政治活動家と非暴力抗議行動の参加者だ。ここ数日でハンガーストライキに参加する囚人の数が増えているとの観測もある。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ中東副局長ジョー・ストークは「ハンガーストライキに入った囚人を独房拘禁し、正当な要求を無視することは、かれらに更なる不利益を強いることになる」と述べる。「17名は、一般房に戻された上で必要な治療を受け、そして家族や親しい人びととただちに面会することができなければならない。」
当局がこの17人を独房拘禁状態に移したのは、収容条件への抗議があった後の7月26日だった。ある被収容者の家族は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、8月5日時点で、17人のうち3人が「乾いた」ハンガーストライキ(つまり、固形物だけでなく水も一切口にしていないストライキ)を行なっていると報告。また複数の囚人の健康状態がかなり危険な状態にあるという。この17人がハンガーストライキを開始してから、刑務所当局は数人を刑務所内の診療所に移送して点滴治療を行ったが、多くの場合はすぐにそのまま身柄を房に戻すだけだった。17人のうち複数が注意深い看護が必要な病気(糖尿病、多発性硬化症、心臓病)を患っている。
ハンガーストライキに入った17人は以下の通り。バフマン・アフマディー・アムーイー、ゴーラム・ホセイン・アールシー、エブラーヒーム・バーバーイー、バーバク・ボルドバル、マジード・ダリー、ジャアファル・エグダミ、クーヒャール・グーダルジー、ペイマーン・キャリーミー・アーザード、アリー・マリヒ、アブドッラー・モメニー、ハミード・レザー・モハンマディー、ズィヤー・ナバヴィー、ホセイン・ヌーラニーネジャード、アリ-・パルヴィーズ、ケイヴァーン・サミーミー、モハンマド・ホセイン・ソフラービラード、マジード・タヴァッコリー。この17人はジャーナリスト、市民社会活動家、学生活動家、人権活動家、反体制派組織メンバー、イラン・イラク戦争の元兵士などだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、イラン政府が、この2年間にわたり、政治活動を理由として、この17人のうちの一部を恣意的に標的として、逮捕・拘束していることを記録してきた。
前大統領候補で野党指導者ミール・ホセイン・ムーサヴィー(ムサビ)元首相系のサイトkaleme.orgによれば、当局がこの17人を独房拘禁としたのは、刑務所の処遇と他の囚人に対する虐待について抗議を表明した後のこと。ハンガーストライキは独房に移された段階で始まった。独房への移送中には、刑務官がこの17人を脅迫し、言葉による嫌がらせを行ったとされる。当局は先週から第350区の囚人と外部との交通を完全に遮断しており、すべての囚人から、面会する権利と電話を毎日かける権利とを奪っている。
8 月2日に、この17人は5項目の声明を発表。内容は、法が囚人に認めるすべての権利を刑務官が完全に尊重すること、独房拘禁の解除、電話の通話時間の延長、医療機関へのアクセス改善などだ。この声明によれば、刑務所当局はつねに囚人に嫌がらせを行っており、面会や電話の時間を恣意的に制限あるいは禁止し、また最低限の医療措置や寝具を与えていない、という。また350区の過密収容も問題としている。イラン人権国際キャンペーンの報告書によれば、刑務所当局は政治囚への医療行為を組織的に妨害している。
ペルシャ語メディアの報道によれば、17人がハンガーストライキを始めて以降、家族はジャアファリー・ドウラトアーバーディー・テヘラン検事長ら当局者との会談を模索し、囚人へのアクセスの回復と一般房への移送と処遇改善を訴えようとした。そして8月2日には、エヴィーン刑務所当局が面会を再び拒絶したことを受け、家族自身も17人に連帯してハンガーストライキを始めた。
Kalame.orgによると、8 月4日に17人の家族がテヘラン検察庁前で集会を行い、収容中の家族の釈放を求めたところ、機動隊から警棒で襲撃された上で、手にしていた収容中の家族の写真を無理矢理取り上げられ、逮捕すると脅された、という。囚人の家族と密に連絡を取っているイラン人のある人権活動家がヒューマン・ライツ・ウォッチに話したところによれば、数日前からイラン政府当局は家族を逮捕すると脅しており、記者会見を行わないようにと圧力をかけている、という。
イラン国内法と国際法は共に、すべての囚人に生活必需品を供給し、尊厳と敬意に基づいて処遇することを刑務所当局に求めている。イランも批准している、市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)は、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を禁じている(第7条)。2004年に、国連の恣意的拘禁に関する作業部会は、イランで独房拘禁が組織的に行われていることを批判して次のように述べた。「こうした完全な独房拘禁は、それが長期にわたる時には、拷問禁止条約が定める意味の範疇での非人道的処遇にあたる可能性がある。」 国連の被拘禁者処遇最低基準規則は「刑罰としての独房拘禁の廃止、あるいはその使用の制限に向けた努力が、実施され、かつ促進されるべきだ」(第7条)と述べている。
さらにイラン憲法第22条と同39条は個人と被収容者の尊厳を損なうことを禁止している。国家刑務所機構規則は刑務所当局に対し、適切な食料、施設、個人衛生を囚人に与えるよう定めている。また被収容者に対し、医療と医師の指示を受ける権利、面会と通信の権利、家族に重大なことがあった場合の一時的な外出権を保障している。
複数の著名な囚人の代理人を務めるある弁護士は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、当局は弁護士と依頼人の面会もしばしば妨害すると語った。「法は、弁護士は依頼人に面会できるとだけ定めているにもかかわらず、依頼人と面会するには裁判所まで行かなければならない」とのことだ。この弁護士はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、最近、裁判所は面会許可命令を出すのではなく、弁護士に検察庁まで行けと言うようになったと語った。「テヘラン検察庁に何度も足を運んでいるが、依頼人とまだ面会できていない」とこの弁護士は話している。
「ハンガーストライキ中の17人は、イラン政府が自国の法律に沿って行うべきものを求めているに過ぎない」と前出のストークは述べた。「囚人の持つ最低限の権利の行使を求める彼らの戦いは、イランの人権状況がいかに一層深刻になっているかを物語っている。」