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タイ:手錠をされた薬物犯罪容疑者が射殺された事件 捜査必要

タクシン元首相時代の残虐な「麻薬戦争」再来の懸念

(ニューヨーク)タイ政府当局は、警察署の拘束下にあった容疑者(麻薬密売と殺人の容疑)が、手錠をかけられたまま射殺された事件について、直ちに調査を開始すべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。

マニット・トムサン(Manit Toommuang)(別名トング・ドンサイ)は、2010年6月26日、ラーチャブリー県警バンぺー郡警察による拘束下で射殺された。警察によると、マニット容疑者逮捕の後、警察は、彼をポーターラーム郡の自宅アパートに連行、覚せい剤(メタンフェタミン)の錠剤の捜索を開始したとという。そうしたところ、手錠をかけられたマニット容疑者が、もがきながら警察官から11mm拳銃を奪い一発を発砲したため、警官は正当防衛のためマニット容疑者を射殺した、というのが警察の発表である。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理エレイン・ピアソンは「警察の拘束下にあった容疑者の殺害事件は、関係警官の主張だけで幕引きを図るべきでない。真の捜査が必要だ」と述べた。 「この件に関し、タイ警察自体が法を順守する組織に生まれ変わる以外に、急増する薬物問題に対する真の対策は進展しない。」

マニット容疑者は、タイ西部地方ラーチャブリー県の最重要指名手配犯リストに載っていたと警察側は述べている。警察によると、6月25日、マニット容疑者はバンペー郡の検問所をバイクで強行突破。そのため、検問所にいた警察官が発砲し、後部座席に座っていたマニット容疑者と交際中の女性Suwisa Upanさんが死亡した。逃走中、マニット容疑者は発砲し、警察巡査部長長官Suvit Kwanmuangが死亡したと伝えられている。翌日、警察はマニット容疑者を逮捕した。

警察によると、マニット容疑者は、麻薬密売ネットワークの一員で、そのネットワークの代表Wisan Sansoy氏は、パークトー郡の森中にある隠れ家に対する警察の一斉検挙から逃げようとした6月4日、その妻Wassana Chanhomと共に殺害された。警察は、この麻薬密売ネットワークのメンバーには、警察官に対する傷害・殺人の前歴が多数あると発表している。

国際人権法は、拘束中の者の虐待を禁止している。タイ警察には、拘束中の容疑者(特に麻薬密売・使用事件の容疑者)に対し、違法な暴力を加えていた長い歴史がある。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、タクシン政権による2003年及び2004年の「麻薬戦争」の際、その裏で、超法規的殺害などの重大な人権侵害が行なわれていた実態を調査・発表している。当時も、犠牲者の多くは、麻薬密売の疑いありとして警察のブラックリストに載っていた。多くの場合、被害者は警察の検問所で殺害されたり、あるいは、尋問のため警察署に呼び出された直後に殺害されており、警察の関与が強く疑われる。

タイ政府の設置した独立委員会である「薬物抑制政策の立案・実施に向けた調査・研究・分析独立委員会」(ICID、座長は元検事総長カーニット・ナナコーン氏)は、調査ののち、ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査結果を支持する内容の結論を出している。同委員会は、タクシン政権は、適正手続きや人権尊重を無視して「麻薬戦争」を策定、実施したと断定。委員会は、2003年の2月から4月の3ヶ月間にかけて行われた「麻薬戦争」の際、2,819名が殺害された、と認定した。殺害された人のうち、1,370名は麻薬取引に関与していたものの、878名は全く関与していなかった。その他の571人は明確な理由もなく殺された。しかしながら、ヒューマン・ライツ・ウォッチの知る限り、殺害に関与した警察官はひとりとして訴追されていない。

アピシット首相は6月9日、政府はICIDを刷新し、タクシンの「麻薬戦争」の下に行われた人権侵害の責任者を裁きにかけると発表。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、治安部隊がその後の時期に行なった同様の人権侵害についても調査の対象とするよう委員会に要請した。

「タクシン元首相時代の『麻薬戦争』政策'は、タイの人権史上、とくに残酷で暗い時代だった」とピアソンは述べる。 「この国が再び同じ道を歩むことがないように、アピシット首相は、麻薬一掃作戦中の警察の残虐行為の疑惑を直ちに捜査し、犯罪行為を行った警察を訴追すべきである。」

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