(ニューヨーク)-イラン政府は、人権侵害に関する国際的な批判を無視している。イラン政府のこうした態度は、国連人権理事会がイランを注意深く監視する必要があることを示す、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。2010年2月15日、国連人権理事会(在ジュネーブ)は、すべての国連加盟国が対象となる普遍的定期的審査(UPR)で、イランの人権状況を検討した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、UPRの審査の際、他の加盟国が行なった多数の勧告に注目している。昨年6月12日の大統領選挙後におきた平和的な抗議活動や、イランの市民団体のメンバーに対する政府弾圧に関する勧告が多かった。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、今も続くイランの人権危機を終わらせるため、イラン政府当局に対し、こうした勧告を直ちに受け入れるよう求めた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東・北アフリカ局長サラ・リー・ウィットソンは、「弾圧のなかで実際何が起きたのかを明らかにするよう、人権理事会はイラン政府に求めなくてはならない」と述べる。「一体何人が殺されたのか?逮捕されたのは何人か?被害者の名前は?拘束されている人びとは何処にいるのか?国連人権理事会は、イラン政府に、ただ全てを否定するのではなく、人権侵害を行なった政府当局者の責任を問うよう、求めなければならない。」
普遍的定期的審査(UPR)の際、理事会メンバーは、デモ参加者や野党党員に対してイラン当局が過去8ヶ月の間に行なった、激しく組織的な攻撃に関して、非常に多くの懸念を表明した。人権侵害に対する説明責任の欠如についても懸念が表明された。こうした懸念に応えて、イラン政府の代表は「全ての事件は資格のある裁判所で、公開の上然るべく対処されており、被告人は自分たちの選んだ弁護士に相談することが出来た」と述べ、イランの司法制度は「市民の権利侵害の申し立てに対し、細心の注意を払って審査し、被拘束者への軽微な違法待遇の苦情申し立てにでさえ綿密に審査した」と言い張った。
イラン政府の主張は多くの証拠と完全に食い違う。実際には、過去8ヶ月の間に、数千件もの恣意的逮捕、長期拘束、被拘束者への拷問が行われた証拠があり、加えて裁判所によって大規模な見せしめ裁判が行なわれている。こうした広範な人権侵害にも拘わらず、捜査や責任追及が正式に開始された事件はほとんどない(あるいは全くない場合もある)。イラン政府代表がこの発言をしたのは、イスラム革命31周年にあたる2月11日の平和的なデモに対し、治安部隊が激しい弾圧を加えたたった数日後のことである。
市民を威嚇し、街頭抗議行動への参加を阻止する意図で、イラン軍及び治安部隊幹部が多くの警告を発した。それにもかかわらず、テヘラン、エスファハーン、シーラーズ、アフヴァーズなどの都市部で、数千名のイラン人がデモに参加。これらのデモは概ね平和的だった。デモ参加者たちが、機動隊に催涙ガスを浴びせられ、警棒などの携帯用武器で殴られ、解散させられたり逮捕されたことを、沢山のメディア報道が明らかにしている。
「イラン政府の普遍的定期的審査(UPR)における発言内容は、基本的人権を行使しようとしたイラン人数千人が直面している暴力的な現実と矛盾している」とウィットソンは語る。「強力な国際的な働きかけがない限り、人権侵害は続くであろう。イラン政府の現実を否定する態度は、それを示している。」
2月17日、国連人権理事会の普遍的定期的審査(UPR)の作業部会は、2月15日のセッションで各国代表が提出した勧告リストを含む報告書をイランに提出する予定である。イラン政府は、国連理事会の6月の一般会期までに、普遍的定期的審査(UPR)作業部会による、この報告書の一部若しくは全部の受け入れ又は拒否を明らかにし、回答をする提案をする機会がある。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、普遍的定期的審査(UPR)に対し、イランの人権状況に関するレポートを提出した。イランでの選挙後の危機に関連して、数千人に及ぶデモ参加者や市民運動家が殺害・逮捕、そして拘束された件について、公平性と透明性を確保した総合的な捜査を行なうよう、国連人権理事会はイラン政府に求めるべきである。また、数千人に及ぶデモ参加者や野党党員、市民運動家に対する違法な殺害・逮捕・拘留・虐待に関与した政府関係者を捜査・訴追・処罰するよう、国連人権理事会はイラン政府に求めるべきである。そして、拘束された全ての人びとに対し、法の下での迅速な容疑の明確化、弁護人選任権、裁判官の前で審理を受ける権利などの適正手続きでの保護を確保するよう、国連人権理事会はイラン政府に強く求めるべきである。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、イラン政府に対し、6月の会期までにこれらの勧告に対応するのではなく、勧告を直ちに受け入れることも求めた。
背景
普遍的定期的審査(UPR)は、過去4年間のイランの人権状況を審査。この審査が行われたのは、イランのイスラム革命31周年記念日にあたる2月11日に行われた平和的なデモに対し、治安部隊が激しい弾圧を加えた僅か数日後のことだった。メディア報道によれば、野党指導者で大統領候補者だったミル・フセイン・ムサビ(Mir Hossein Mousavi)氏とメフディー・キャッルービー(Mehdi Karrubi)氏の両氏も、親政府勢力に襲われ、テヘランでのデモに参加を阻止された人びとに含まれていていた模様。ムサビ氏の妻も親政府民兵による襲撃の結果負傷し、キャッルービーの息子の1人も逮捕・連行され、所在不明となってしまった。1日後、キャッルービーの息子は釈放されたものの、彼の体には、親政府部隊の手による肉体的虐待があったことを示す複数の痕跡が残っていた。モハマド・ハタミ(Mohamed Khatami)前大統領の車列も襲われた。前大統領の弟と義理の妹も治安部隊に拘束されたが、その日遅く釈放された。
2月14日、アリ・キャッルービー(Ali Karrubi)の母親は、最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師に対し、イランの治安部隊が拘束された人びとに対して過去8ヶ月間に行ってきた、精神的・肉体的虐待をやめるよう、ハメネイ師が命じることを要請する公開書簡を明らかにした。
イラン政府が2月11日に行なった弾圧の前には、数週間に及ぶ大々的な強制捜査が行われていた。強制捜査の多くは夜間に行われ、ジャーナリスト、人権活動家、学生、反体制派をターゲットにしていた。今月、ジャーナリスト保護委員会(Committee to Protect Journalists)は、イランが2009年6月以来47名のジャーナリストを拘束し、その数は世界で一番多かったことを明らかにした。治安部隊は、こうした組織的な逮捕だけでなく、ニュースや情報ウェブサイトへのサイバー攻撃も行っており、電子メールアカウントのブロックを強化したり、インターネットをつながりにくくしている。こうした措置は、情報の自由な流れを封殺し、すでに僅かにしかイラン国民に残されていない利用可能な通信手段をさらにブロックしようとするものだ。