「これは数学クラスの教室。でも、もう違う。軍の塹壕になってしまった」と、学校の教室を見渡して、ある少女が嘆きます。嫌悪の入り混じった絶望の声。彼女は失望をあらわにして続けます。「私たち市民を守ってくれる軍が誇りだった。でも変わり果てた学校の姿をみて、今ではとても恥ずかしい。」

そう嘆いた少女が来週 (12月8日~)、ノーベル平和賞の授賞式に出席するためオスロに向かいます。

教室でのできごとは、2009年に作製されたマララ・ユスフザイさんのドキュメンタリーの1シーン。彼女がタリバーンに襲われる前のことです。一家は戦闘を逃れて故郷の町を離れました。後になってマララさんは、父親の経営していた学校が軍事利用されていたのを知るのです。それがこのシーンです。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは世界各地の紛争地で学校を調査してきました。そして、残念ながら、学校を軍事拠点にして交戦する兵士たちを多く目撃してきたのです。有刺鉄線で校庭を囲み、兵士用の簡易ベッドで教室を埋め尽くす兵士たち。校舎の屋上には周辺を見渡せるよう防御設備、教室の窓には狙撃兵…。廊下にはライフル銃を積み上げて、机の下に手榴弾を隠し、体育館に装甲車両を駐車します。

こうした学校の軍事利用は、学校を敵対勢力の軍事目標に変えてしまいます。生徒や教師はもちろん危険にさらされることになり、実際に犠牲になる生徒や教師が後を絶ちません。生徒たちはまた、兵士と一緒に学校を利用することを余儀なくされ、性暴力や強制労働、強制徴用のリスクにも直面することになります。そして、通学を諦めて自宅待機するか、交戦に巻き込まれるかもしれない恐怖の中で戦闘員の脇で勉強するか、という選択を迫られます。

過去10年で政府軍などの武装軍(そして国連平和維持部隊でさえ)が、学校を軍事利用した紛争下の国は少なくとも25カ国にのぼります。アフリカ、南米、アジア、欧州、中東など世界各地で起きている世界的な問題で、国際的な解決策が必要です。

国際法は武力紛争の全当事者に、可能な限り紛争の危険から一般市民を守るよう、広く義務づけています。ところが、紛争下の軍隊が教育機関を様々な理由で軍事利用することを阻止するための、明確な基準や規範を欠いているのが現状です。

しかし再来週(12月15日~)、これらすべてが変わろうとしています。

ジュネーブの国連本部で開催される会合で、ノルウェーとアルゼンチンの国連大使が、紛争下での軍事利用から学校を更に保護するための指針案を発表する予定なのです。この指針案は、直裁簡明な6つの指針を軍事方針・訓練に適用することを、政府軍および非政府系武装勢力の双方に推奨する内容です。この指針案は世界各地域の専門家との協議の末に策定されました。協議参加者は、武装部隊関係者や防衛省官僚から、子どもの権利団体や国連関連機関に至るまで、実に幅広い顔ぶれでした。

この「学校・大学の軍事目的使用を防止する指針」は武力紛争法および国際人権法に既存する義務をひとつにまとめ、同時に各国軍隊の優れた実践例を参照して作成されました。その結果、その内容は理想主義的なものではなく、実践可能で現実的なものです。武力紛争で軍が難しい判断に直面せざるを得ないこと、そのため実用的な解決を必要としていることをしっかり踏まえて作成されたのです。

日本からはこの指針の策定に、外務省と防衛省が関与。この指針策定過程の中で、アジア地域で最も深い関与をした国のひとつといえるでしょう。日本はこのリーダーシップを継続し、再来週のジュネーブでの会合の場で、2015年にノルウェーで開催予定の国際会議でこの指針を正式に支持する準備のあることを発表するよう期待します。そしてそれまでの期間に、自衛隊の規律、方針、訓練にこの指針の内容を反映させるため、必要かつ適切なメカニズムを準備すべきです。

マララさんが軍隊のせいで変わり果てた父の学校に表した怒り。子どもたちも、こんな状況は何か間違っていると感じているとわかります。日本政府には、この指針を自ら実践するだけでなく、日本以外の他国にも指針を広める旗振り役を期待します。日本政府には、世界各地の子どもの教育への権利をもっとしっかり保障する手助けをしてほしいのです。紛争下の子どもたちにも、教育への安全なアクセスを確保することは、子どもの安全や発達に欠かすことができないものです。同時に、紛争後にその国の平和を再建するために必要なスキルを確保するためにも、とても重要といえるでしょう。