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アフガン選挙 人権面の懸念

女性の投票率の低迷、暴力行為、新しい官製の民兵編成の危険

(ニューヨーク)2009年8月20日に迫ったアフガニスタンの大統領選挙。しかし、人権侵害を引き起こす問題点が山積したままだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日このように述べた。2001年のタリバン政権崩壊以来、今回で2回目の大統領選挙となる。

「この状況下では、選挙の実施はそれ自体が一定の成果ともいえる。しかし、アフガンの人びとが本当に選挙権を行使できるのか、まだ予断を許さない。」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長のブラッド・アダムズは述べた。「特に懸念されるのは、暴力行為や、投票所の警備に民兵を使う計画、国営メディアによる候補者報道の偏り、女性を取り巻く状況などだ。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチが今回の選挙について特に懸念する点は以下のとおり;

1.    女性の参加に対する懸念

女性が立候補することや投票をすることにはまだ大きな障害がある。要因としては、文化の問題や、タリバンなどの武装勢力による女性襲撃の危険性があげられる。政府、独立選挙管理委員会、国際軍隊、国連、国際援助団体も、問題解決のための措置をほとんど取っていない。その結果、投票所にくる女性たちのセキュリティー検査をする女性係員の採用が間に合わないなど、大きな問題が残ったままだ。女性候補者の安全を守るための有効的な対策もとられていない。内務省が護衛を約束したものの、多くの地域では実際には実施されていない状況だ。

「アフガン政府やこれを支援する国際組織は、女性の有権者の期待を大きく裏切っている。」とアダムズは述べた。「選挙一週間前にやっと女性係員を採用しているという現状は、誠に遺憾である。」


2.蔓延する選挙関連の暴力への懸念

タリバンなどの反政府武装勢力が、選挙前の襲撃事件の大半に関与。4月25日から8月1日の間、少なくとも13件の政治関連の殺人事件、10件の拉致事件(選挙委員会委員、候補者、選挙スタッフの拉致)が発生。殺人の脅迫のために立候補を辞退した地方議員も数名おり、反政府勢力が投票に行かないよう人々を脅迫するケースもある。


全体の治安状況として、2004-2005年の従前の選挙の時より相当悪化している。あるアフガン男性はヒューマン・ライツ・ウォッチに以下のように述べている。「ザブール州ではターバンなしでは外にも出られない、選挙をとりまく治安状況は最悪だ。」

多くのアフガニスタン人は、こうした事態でも、希望を失っていない。一人の若い女性選挙監視員は「これは権利を勝ち取るための道程です、恐れていません。」とヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。

3.各地での民兵組織の懸念

アフガニスタンの治安が悪いからといって、非正規の民兵を組織すべきではない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。政府は、1万人あまりの「地域防衛部隊」を集め、治安が悪く警察が不足している地域や投票所の開設が危ぶまれている地域に展開する計画を立てている。アフガン選挙委員会の見解は、正式な政府軍か警察以外は投票所での治安確保任務につくべきでない、というものであるが、この見解が実行される保証はない。

「非正規民兵たちが、特定の候補者に肩入れするのを防ぐ必要がある。民兵を導入すべきでない。」とアダムズは述べた。「民兵の存在は、不正や脅迫行為に結びつく。それは、選挙の際の治安の悪化に繋がる。」

4.選挙委員会の独立に対する懸念

ハミド・カルザイ大統領の強い要望の下、選挙委員会の委員長は、議会の関与なく大統領が任命することとなった。結果、選挙委員会の独立性に疑義が生じている。大統領が選んだアジズラ・ラディン氏は、選挙不正審査委員会に圧力をかけて特定の候補者の除外しようとしたほか、野党候補の一部に対する明らかな偏見を隠そうともせず、公衆の面前で能力や精神状態を批判している。選挙管理委員会の一部のスタッフの中立性や行動に対し、候補者や選挙監視スタッフからも疑問の声があがっている。

5.政府関係者による職権濫用の懸念

政府関係者による職権濫用ははなはだしい。カルザイ大統領陣営側を利するような税金の不正使用や、政府関係者の介入の禁止を定める大統領令への抵触事例などが後を絶たない。その結果、候補者間の平等が確保できず、公正な選挙と評価できるか懸念が生じている。

6.メディアへの平等なアクセスに対する懸念

政府報道委員会は、大統領選挙報道が公平性を欠くと批判的見解を明らかにした一方、地方議会選挙ではおおむね平等な報道がされていると評価。国営放送局RTAは、現職議員に有利な報道をしていると厳しく批判されている。報道委員会によると、カルザイ大統領の報道がRTA放送の67%を占め、2番目のアブドラ・アブドラ博士も8%を占めるに過ぎなかった。地方のアフガニスタン人ジャーナリストたちは、地方の候補者の支持者たちに圧力をかけられているとメディア監視機関に申し立てた。

7.大規模な不正行為・選挙権の剥奪の危険性

今回の選挙での不正行為の可能性については、これまでにも、アフガニスタンの自由で公正な選挙基金(Free and Fair Election Foundation of Afghanistan、FEFA)、国連・アフガニスタン独立人権委員会(UN/Afghan Independent Human Rights Commission)、国際危機グループ(International Crisis Group)、アフガン分析ネットワーク(Afghan Analysts Network)などが、詳細な報告と分析を行なってきた。有権者登録に関する問題、多重投票、不正な代理投票、票の水増し、選挙結果の不正な集計など、選挙委員スタッフの不適切な行為により、選挙の正当性が損なわれる可能性がある。特に独立した監視官が不在の地域では、危険性が高まる。

中央政府の基盤が弱く、国土の大半で反政府武装勢力が活発に活動するアフガニスタンで選挙を実施するのが容易ではないことをヒューマン・ライツ・ウォッチも認識している。アフガン選挙委員会やFEFA、国連アフガニスタン支援ミッション、そして各国軍など、国内組織、国際組織を問わず、自由で公平な選挙への期待値を下げるような発言を繰り返してきた。

「公正な選挙に対する期待を下げる発言が、深刻な不正や、選挙権の剥奪、権力の濫用や暴力などの問題を許容する方向への道を開くようではならない」とアダムズは述べた。

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