Internally displaced people (IDPs) register at Jalala Camp, run by the provincial government of the North West Frontier Province and located on the main Grand Trunk Road between Swat and Mardan. May 11, 2009.

© 2009 Human Rights Watch

(ニューヨーク)-パキスタン軍とタリバーン民兵は、不安定な情勢下にあるパキスタンのスワト・バレー及び隣接する北西辺境州周辺地域での戦闘において、民間人に犠牲者が出ないよう最大限の予防措置を取らなければならない、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

2009年5月7日に、パキスタン軍が、スワト・バレー及び部族地域(PATA)のマラカンド(Malakand)地方にあるその他のエリアから、タリバーンを駆逐するため大規模な軍事行動を開始して以来、数十万人もの民間人が故郷を逃れ避難してきた。

「タリバーンによる斬首や人間の盾の使用は、パキスタン軍に対する空手形ではない。」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは述べた。「民間人の被害を最小限に抑えて初めて、スワト・バレーでの戦いに勝利し、平和を勝ち取ることが可能となる。」

スワト・バレーからマルダン(Mardan)の町に逃げ込んできた人々は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、タリバーンはスワト・バレーの一部に地雷を敷設し、ミンゴラ(Mingora)の町やその周辺地域から人々が逃げるのを阻止しており、軍事攻撃を抑制するために人々を事実上人間の盾として使っている、と語った。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、戦闘から避難せざるを得なくなった人々から、とりわけミンゴラにおいて、タリバーンが、地域の自警行為を続け、殺人や斬首などの激しい攻撃を続けている、という報告も得ている。

国内避難民たちは、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、5月10日、タリバーンが、ミンゴラのニシャト・チョウク(Nishat Chowk)にある中央モスクのイスラム教指導者マウラナ・ザヒド・カーン(Maulana Zahid Khan)を射殺したと述べた。タリバーンの武器貯蔵と地雷敷設に対し、彼が異論を唱えたからだそうである。ザヒド・カーンは町の広場に引きずり出され、他の地元住民に付き添われながら、地元のタリバーン指揮官に対し、タリバーンの行為はイスラム教の教えから程遠いと述べた際に処刑された。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、パキスタン軍の空爆により民間人が殺害され、建物等が破壊されているという報告も受けた。しかし、当地はジャーナリストや人権監視員の立ち入りが禁止され、閉鎖された軍事ゾーンであるため、現在のところ、この情報を独自に確認することは出来ない。地元のジャーナリストは現地を離れており、パキスタン軍は記者や外国人特派員が立ち入る事を許可していない。現地は無期限外出禁止令が出されていたが、民間人の避難を可能にするため、一時的に禁止が解かれただけだ。電気と、パキスタンの他地域への電話は、4月28日以来切断されたままである。スワト・バレーから逃れた人々は、同地での食料不足も訴えていた。

タリバーンとパキスタン軍が、スワト・バレーと連邦直轄部族地域(FATA)での過去の戦闘において、民間人の安全にほとんど配慮を示してこなかった事実を念頭に、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、民間人死傷者がでる危険性について、特別の懸念を示した。

「米国はパキスタンに対し、タリバーン問題を軍事的に解決するよう強く促した」とアダムズは述べた。「しかし、戦時国際法(戦争法)を順守し、民間人を保護しなくてはならないというメッセージも米国は送るべきである。」

4月13日、アシフ・アリ・ザルダリ大統領は、スワト・バレーでイスラム法を強制的に適用する指令で、事実上タリバーンなどの勢力にスワト・バレー及び部族地域(PATA)の周辺の支配権を与える内容も含む指令に署名した。しかし、5月7日、全国放送のテレビ演説で、ユサフ・ラザ・ギラニ首相は、タリバーンとの和平協定の終結を宣言、複数回にわたるタリバーンの協定違反に言及し、「彼らを抹殺する」と明言した。

2007年以来、スワト及び周辺エリアで、タリバーンは、官庁の当局者や政敵を斬首などの即決処刑に処し、そのほか、公開ムチ打ち刑、住民への大規模な脅迫を行い、その強権支配をしいて来た。さらに、女子校の閉鎖、女性の男性親族の付き添いなしでの外出の禁止、小児マヒ予防接種プログラムの中止、NGOの追放を行った。また音楽及び映画を禁止するとともに、それらを取扱う店を破壊し、すべての男性に対してヒゲを伸ばすことを義務付けた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、パキスタン政府に、人権侵害を行った者を逮捕し、法的責任を問うよう求めてきた。

「タリバーンは、スワト・バレー住民に対し、許し難い残虐行為を犯し続けており、その責任を問う必要がある。」とアダムズは述べた。「このような蛮行を止め、スワト及び周辺地域に法の支配を再確立することが必要不可欠である。」

パキスタン軍は過去に、連邦直轄部族地域での作戦行動で、大量逮捕、作戦実行上の過度な武力行使、民間人に対する集団罰などの手段を使ってきた、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。現在展開中の作戦において、こうした手段が取られたとの報告は確認されていないが、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、パキスタン軍に、そのような残虐行為を繰り返さないよう保証することを強く求めた。

「パキスタンは、悪い戦いの後に偽りの平和を作る、とのサイクルを終結させなければならない」とアダムズは語った。「アフガニスタンでの教訓として、タリバーンの復活を防ぐ唯一の方策は、民間人への対応が人道的かつ人権を尊重したものであり、被害が悪化ではなく最小化されており、国内避難民に対し緊急かつ持続的支援が与えられているのを確実にすることである。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、関係諸国及び国際機関に、戦闘により引き起こされた人道危機に対処するため、緊急かつ十分な財政及び運搬上の支援を提供するよう呼びかけた。直近の戦闘開始前でさえ、北西辺境州ではおよそ50万の人々が避難を余儀なくされていた。この避難民の数は数日中に2倍に達すると予想されている。

「パキスタンは、1947年のインド分割以来、南アジア史上最大級の国内避難民の発生に直面している。」とアダムズは述べた。「汚職を最小化しつつ、この危機に対し、緊急にかつしっかりと処理しなければ、当該地域での人道的危機並びに政治的危機は悪化するばかりである。」