Skip to main content

世界最悪の紛争の一つと言われるスリランカ内戦は政府軍が分離独立派武装組織、「タミルの虎」を追い詰め最終盤を迎えている。しかし、「タミルの虎」は自爆や暗殺という手法で応戦し始めている。スリランカ政府がタミル系住民の苦しみの原因を本当に解決する意思があるなら、まず、人権を保護し、すべての人権侵害者の責任追及からはじめなくてはならない。さもなくば、スリランカ政府は、いつまでも見えない敵と戦い続けるはめになろう。

<編集部注:チャル・ホグ氏は、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(本部・ニューヨーク)の南アジア調査員です>

 世界最悪の紛争の一つ、スリランカ内戦は、民間人の血にまみれた最終盤を迎えている。スリランカ軍は、分離独立派武装組織タミル・イーラム・解放のトラ(「タミルの虎」・LTTE)を、本拠地から駆逐してムラティブ県北東部の100平方kmに満たないエリアにまで追い込んだ。

 最新のヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書は、スリランカ政府軍と「タミルの虎」との戦闘が激化した2009年1月以来、およそ2000名の民間人が殺害され、5000名以上が負傷したと見られることを明らかにした。

 残虐行為は、政府と「タミルの虎」の両方によって行われている。「タミルの虎」は、民間人が戦闘地域から逃れることを認めず、政府軍の支配地域に向かって避難しようする人々を、繰り返し発砲したと報告されている。「タミルの虎」の支配下に残された子どもを含む数千名の民間人は、強制的に徴用され、戦場での極めて危険な強制労働に従事させられている。「タミルの虎」は、2008年9月以来、従軍経験のない人々までも、前線での戦闘や兵站活動に強制的にどんどん駆り出すようになり、多くの犠牲者が出ている。

 ワンニのある住民はこう話す:「 以前は一家に一人の徴兵だったのに、今では18歳以上は全て(「タミルの虎」に)入隊しなければならない。男性・若者は、みな、戦わせられる。もしそれができなかった場合は、戦闘の最前線で、「タミルの虎」の強制労働にかり出される。」

 スリランカ政府高官らは、戦闘地域に閉じ込められたタミル人住民たちを、「タミルの虎」側の人物と推定し、戦闘員として扱う、と示唆。「タミルの虎」による攻撃に対し、事実上の仕返しをしている格好だ。スリランカ政府軍は、避難民であふれる地帯を、繰り返し、無差別に砲撃してきた。政府が「安全地帯」と宣言した病院や運動場などの場所にも、砲撃が繰り返された。

 しかも、人びとにとって不可欠な医療施設は、攻撃の前からすでに過密状態な上に、必要な医療職員・機材・サービス供給も決定的に不足している。人々が逃げ込む政府の「福祉センター」も、実際は驚くほど粗末な設備で、移動の自由もない。つまり、軍の収容所にすぎないのだ。治安対策のためには、政府は、新しく避難してきた人々の身元調査をするべきであるにも拘わらずそうした必要な調査を行わず、「タミルの虎」のシンパと疑いをかけた人びとを秘密裏に恣意的に拘束している。それだけではない。強制的に失踪させている可能性すらある。

 スリランカ政府は、コロンボで、「タミルの虎」の敗北を祝う式典を始めた。しかし、残念ながら、「タミルの虎」が戦場で敗北しても、自爆テロや政治家暗殺は終わらないだろう。自爆テロや政治家の暗殺は、「タミルの虎」の代名詞ともいえる手法で、国際テロリズムに対抗する国際社会に対し、この小さな島国に目を向けさせた。

 「タミルの虎」は、戦場では敗北しているものの、既に、自爆や暗殺という一番得意な手法で、応戦し始めている。2月9日、避難民と共に移動していたある女性が、スリランカ北部ヴィシュワマドゥ(Vishwamadu)の入り口で兵士による検査が始まる直前に自爆。4歳の少女を含む10名の民間人と19名の兵士が殺害された。

 独立したメディアは、既に2年ほど前から戦闘地域から締め出されているうえに、ほとんどの人道援助機関も2008年9月に活動を禁止されており、真実を語れる人は残っていない。そうした中で、なんとか得られた情報からは、両陣営とも、非難されてしかるべき非人道的な被害を引き起こしていることがわかる。

 一方、中立的な監視者や自由なメディアが存在しない中で、スリランカ政府は、この戦争を一方的な勝利として描いている。しかし、スリランカ政府も、残念なことに、政府に批判的な意見を持つものを容赦なく弾圧し、狂信的に忠誠心を無理強いする「タミルの虎」と同様の手法を採用している。

 自由メディア運動(スリランカの現地メディア・グループ)によると、2005年以来、スリランカでは12名のジャーナリストが殺害され(しかも、多くは、政府による厳重警備地域や政府軍の検問所付近で殺害された)、少なくとも6名が、同国の厳格な非常事態令のもと、刑務所での過酷な生活を強いられている。

 タミル系の著名なジャーナリスト、J.S.ティッサイナヤガム(J.S.Tissainayagam)氏は、2008年3月、非常事態令のもと、「民族的不調和」を引き起こしたという容疑で逮捕された。証拠として、彼が月刊ノース・イースタン誌に寄稿した2つの記事が挙げられた。この記事で、彼は、「タミルの虎」に対する2006年の東部解放作戦における政府軍のやり方を批判。すべての民主主義社会では、J.S.ティッサイナヤガム氏の行動は、言論と自由と表現の自由という彼の権利を行使しただけのことと見なされるだろう。しかし、スリランカでは、彼は、テロリストとみなされているのである。

 国際社会は、これまで、両陣営に対し、民間人の殺害を止めるよう圧力をかけることを怠ってきた。インド、日本、米国といった関係国は、今こそ、マヒンダ・ラージャパクサ大統領政権と「タミルの虎」に対し、この紛争の被害者たちが正義と尊厳を回復できるよう求めるべきである。手始めに、両陣営は、民間人が避難するための人道回廊を設定するなど、戦時国際法(戦争法規)を順守するべきである。

 スリランカ政府が、タミル系住民がこれまで長年にわたり味わってきた苦しみの原因を、本当に解決する意思があるなら、まず、人権を保護し、すべての人権侵害者の責任追及からはじめなくてはならない。さもなくば、戦場での勝利も空虚なものにすぎず、国内の少数派たるタミル系住民は虐げられままで、海外に離散したタミルの人々の苦しみも癒えることがないだろう。

 すべてのスリランカ国民の人権を保護し、すべての人々の政治的要望を満たすような解決が必ずや必要となる。さもなくば、スリランカ政府は、いつまでも、「見えない敵」と戦い続けるはめになろう。長く続いた内戦の結果、スリランカの経済発展は遅れ、貧困は悪化した。スリランカ政府には、「タミルの虎」を紛争へ煽り立ててきた主要な問題を解決するため、困難な決断を大胆に下すときがきている。「タミルの虎」との戦争という選択肢を政府が取った時と同じくらいの大胆さが必要だ。この決断がスリランカ政府に出来るかどうか・・・それは、今後のスリランカ政府にかかっている。

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。