(エルサレム) ガザ地区のハマス当局及びヨルダン川西岸地区のファタハ当局は、最近、互いの反対勢力を相次いで違法に拘束していると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。ガザでは、ハマス系当局が拘束者の一部に虐待を加えた他、ファタハと手を結んでいるとして約100の諸団体を閉鎖した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、本日発表した113ページの報告書「内部抗争: ガザ地区及びヨルダン川西岸地区におけるパレスチナ系住民の人権侵害(“Internal Fight: Palestinian Abuses in Gaza and the West Bank,”)」(https://www.hrw.org/reports/2008/iopt0708/)において、ハマスによる2007年6月のガザ地区制圧以降、ガザ地区ではハマスによるファタハへの深刻な人権侵害、ヨルダン川西岸地区ではファタハによるハマスへの深刻な人権侵害が起きていることを記録している。ここ1年の間、両派はそれぞれ、政治的動機に基づく一連の拘束及び被拘禁者に対する拷問・虐待を繰り返してきた。そして、今、パレスチナ内部抗争はさらに激しさを増している。

「ハマスとファタハの政治抗争の結果、深刻な人権侵害の犠牲者が日々増え続けている。」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東・北アフリカ局局長代理ジョー・ストークは述べた。ストークは先日、ガザ及びヨルダン川西岸のパレスチナ当局の高官に、同報告書を交付したばかりである。「ハマス・ファタハ両派の治安組織が、相手の活動家や諸団体を標的にしている。お互いが人権侵害行為を犯しあっているため、パレスチナの全階層の人びとが苦しみ、法の支配も弱体化した。」と述べている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ハマス及びファタハ両当局に対し、ここ1年の間に恣意的に拘束した者達全てを釈放すること及び拘禁状況を監視するためのアクセスの自由を直ちに許可することを求めた。拷問を指示又は実行した治安組織及び武装組織のメンバーは、法により処罰されなくてはならない。

また、同報告書は、ハマス・ファタハ両派に対して財政支援や政治的なサポート表明している国家に対し、両派の治安組織に対する支援は、これらの組織が重大な人権侵害を止めさせるための具体的かつ明確な対策をとることを条件とするよう求めている。

一番最近の大量拘束は、24時間以内に3件もの爆破事件がガザ地区で起きた後に行われた。3件のうち最後の爆破事件は、2008年7月25日にガザ市内海岸のカフェで起きたが、これにより4歳の少女とハマス武装勢力アル・カッサム旅団のメンバー5名が死亡した。ハマス指導部は、何らの証拠も示さないままに、ファタハの犯行であると即座に断定。しかし、ファタハは関与を否定した。

爆破事件の直後、ハマス警察、ハマス治安部隊及びアル・カッサム旅団は、ファタハのメンバー及び支持者を多数拘束した。サイード・シアム内相(ハマス)は7月28日、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、同人の指揮下にある部隊が約200名を拘束したと述べた。シアム内相及び現地の複数の人権活動家によると、拘束された人びとの多くは間もなく釈放されたとの事である。

ハマス当局は同時にガザ北部のファタハ事務所を閉鎖した。また現地の複数の人権団体によると、100を越える市民団体、慈善団体やスポーツクラブが閉鎖され、コンピューターや設備機器、時にはオフィス家具やエアコンまでが押収されたとのことである。

シアム内相及びハマスに大きな影響力を持つ指導者マフムード・ザハル前外相は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、拘束や閉鎖のほとんどは、警察によって行われたと述べた。しかし、現地の目撃者らや複数の人権団体は、こうした行動の先頭に立っていたのはアル・カッサム旅団だったことが多かったと述べている。パレスチナ法上、アル・カッサム旅団に法執行権限は全くない。

マフムード・ザハル氏はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、たとえファタハのメンバーであっても「事件に関与していないと取調官を納得させることができた」者は釈放されるとも述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、アル・カッサム旅団に拘束された後暴行を加えられ、後に釈放されたという2件の事件を調査した。うちひとりである35歳の男性は、片足4ヵ所を骨折し、もう片方の足に銃創を負い、さらに腕を骨折していた。ヒューマン・ライツ・ウォッチが7月28日に同人のもとを訪れた際、この男性は意識不明で、治療目的でイスラエルに搬送するためイスラエル政府からの許可を待っているところだった。

ヨルダン川西岸のファタハ系治安部隊は、明らかな報復行動の一貫として、100人近くをハマスの関係者だとして (うち約半数はナブルスで)拘束した。拘束された者には学者や地方政府役人も含まれるとの報告がある(但し、うち何人かは釈放されている)。ヨルダン川西岸の複数の人権活動家によると、ナブルス在住のあるハマス関係者が、逮捕の際に激しく殴られ入院を余儀なくされた。ヨルダン川西岸のファタハ系当局は、ここ1年間、ハマスに関与しているとの容疑で多数の団体を閉鎖している。

「ガザで行われた爆破攻撃は犯罪行為であり、現地の治安部隊は犯罪責任者を訴追する責任がある」と、ストークは述べた。「しかし、ハマス指導者のうち少なくとも一部が、この爆破事件をファタハの排除及び統制強化の名目に利用していることは明らかだ。また、ファタハによる西岸地区での拘束も明らかに報復目的であり、同じく違法だということは疑いない。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ハマスが市民団体や慈善団体を襲ったことについても深い懸念を示した。シアム内相及びマフムード・ザハル氏は、当局が押収したあるコンピューターから爆発物の製造方法を発見したため、これら団体のメンバーが西岸地区のファタハ治安維持当局と連絡を取っていたことを示す証拠を捜していると述べている。

確かに、閉鎖された諸団体のほとんどは、何らかの形でファタハに関係していたと考えられるものの、決して全ての団体がこれに当てはまるわけではない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。その内の一つが、ジヤード・アブ・アムル氏が代表を務めるPalestinian Council for External Relations。ジヤード・アブ・アムル氏はパレスチナ立法評議会のメンバーで、ハマスが過半数を獲得した2006年1月の選挙の際、ハマスは、この無所属候補者を支援した。アブ・アムル氏は自身の団体を「ハマスを含む全ての党派が集まる場であり、ガザの中でも世界と繋がっているごく少数の団体の一つ」と表現していた。彼は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、「午前1時頃、覆面武装した男達がやって来て、エアコン、書類、本、そして10年間に集めたかけがえのない記録など、全てを押収していった。一つ残らず。」と語った。

ヨルダン川西岸では、ファタハ系治安部隊が、この12ヵ月で数百人のハマスのメンバーや支持者を令状無しに拘束してきた、とヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書は述べている。逮捕を執行した部隊は、概して覆面し、身分を明らかにせず、逮捕の理由も説明しなかった。パレスチナ法では、拘束された者に弁護士を付し、24時間以内に検察官に引き渡すことが義務付けられているが、当局は多くの場合、この義務を怠っている。また当局が、裁判所が出した釈放命令を無視しているケースもある。

また同報告書は、ファタハ系の西岸地区治安部隊が、拘束した者を取調べる際に頻繁に拷問を行い、そのうち少なくとも一人が死亡したことを明らかにしている。拷問方法には、擬似的処刑体験をさせたり、殴る、蹴る、棒やプラスチック・パイプ、ゴムホースで殴るなど様々である。最も一般的な拷問方法は、拘束した者に長時間、無理な姿勢を強いることである。アラビア語でシャバーと呼ばれるこの方法は、激しい痛みを伴い、時には体内を損傷するものの、外傷は残らない。

一方、ガザのハマス系部隊も、多くは同様の虐待を行った。現地の治安部隊は、政敵と疑うや恣意的に拘束そして拷問し、表現の自由や集会の自由を弾圧し、パレスチナ法や国際法で保障されている適正手続を侵害してきた。

ガザでの被拘禁者に対する虐待は、概して、ヨルダン川西岸で行われた虐待よりも期間は短かったが激しいものだった。つまり、恣意的な拘禁には激しい暴行がつきものだった。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、被拘禁者が、至近距離から足に複数の銃弾を受けていたケースを2件記録している。拷問が原因で被拘禁者が死亡したと考えられるケースは、少なくとも3件あった。

ガザ及びヨルダン川西岸の当局は、両者とも、重大な虐待行為に関与した治安部隊のメンバーの責任をほとんど追及していない。ファタハ系西岸地区当局は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、虐待行為に関与した部隊員は懲戒・懲罰したと述べたが、具体的事例や数の提示はしなかった。ハマス系ガザ当局は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、「人権侵害行為を行った700名以上の警官を懲戒・懲罰した」と述べたが、詳細についてはほとんど示さなかった。

ヨルダン川西岸でヒューマン・ライツ・ウォッチ及び複数のパレスチナ人権保護団体が記録したケースのほとんどで、パレスチナの政治諸党派及び民兵組織を監視する総合情報機関(General Intelligence Service、GIS)または予防保安機関(Preventive Security)の関与が認められた。ヨルダン川西岸における予防保安機関(Preventive Security)の責任者、ジヤード・ハブ・アル・リー氏は、アブド・アル・ラザク・アル・ヤーヤ内相の監督下にあり、内相を通してサラーム・ファイヤード首相の監督下にあるという組織体制になっている。GISの責任者はタウフィク・ティラウィ氏。同氏はマフムード・アッバース大統領の直接の監督下にある。大統領はパレスチナ基本法第39条により、パレスチナ全軍の最高司令官とされている。

ガザで報告された虐待のほとんどに、ハマスが統括する警察または国内治安部隊が関与していた。これは、政治及び治安に関係する犯罪を取り扱う当局機関である。本報告書が対象とする殆どの期間中、イスマイル・ハニヤ首相(ハマス)は内相を兼任していた。しかし、ガザで治安関係を中心的に担当していたのはサイード・シアム氏だったとみられる。2008年4月下旬、シアム氏は正式に内相となった。シアム氏は2006年3月から07年3月までもこの職位にあった。

本報告書は、ファタハとハマスの資金提供者や支持者についても取り上げている。2007年6月以来、この地域に関わってきた諸外国政府――特に米国及びEU諸国――は、ガザにおけるハマスの孤立化・弱体化を図り、一方でヨルダン川西岸のファタハの勢力拡大を支援して来た。この報告書は、ハマスではなくファタハを支持するという政治判断について検討するものではない。しかし、80億米ドルもの援助をファタハにつぎ込みながら(ファタハの治安部隊の訓練や支援としての数百万ドルを含む)、ファタハ系治安部隊が行った組織的虐待に対して、何ら適切な注意を払うこともなく、虐待に関与した者たちを公に批判することもしない諸外国政府の対応を、この報告書は批判している。

EUは、パレスチナ当局に対する最大の資金提供者で、ファタハ系治安部組織の中では最も虐待行為の少ないパレスチナ文民警察を支援している。米国は、ヨルダン川西岸におけるファタハ系パレスチナ治安部隊強化を先導しており、国家治安維持部隊及びアッバース大統領に忠誠を誓う大統領警護隊の訓練と支援に6千万ドル近くの資金供与を約束している。最大の問題である予防保安組織(Preventive Security)及びGISの資金源は不明である。

「拷問や深刻な虐待行為の停止を、ファタハ系治安部隊に対し西側諸国が提供する膨大な援助への必要不可欠な条件とすべきだ」とストークは述べた。「パレスチナ法や国際人権法を軽視する部隊や司令官には、資金も訓練も供与してはならない。」

ハマス当局への援助の金額及び資金源についてはほとんど知られていない。米国、イスラエル及びファタハ当局によれば、ハマスはイラン及びシリアから援助を受けているという。

「人権侵害に加担しないためにも、ガザ地区のハマスを支援する諸政府は、ハマス系治安部隊に対する改革を援助の条件とするべきだ。」とストークは述べた。「ハマスを政治的に支援する諸政府も、ハマス勢力の人権蹂躙について率直に意見を述べ、かつ、虐待を止めるよう圧力をかけるべきである。」

パレスチナ当局は、2000年後半の第二次インティファーダ勃発後、パレスチナの治安維持施設、刑務所、その他刑事司法機関をイスラエルが破壊してしまったことを、パレスチナの治安維持及び刑事司法制度が貧弱であることの理由として挙げてきた。イスラエルがヨルダン川西岸 のパレスチナ治安部隊の行動を制限し続けている状況も、この状況を助長しているとヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

パレスチナの治安制度が貧弱な理由には、業務が重複する複数の組織が整理されていないことや、独立した監督機関や証人保護制度が無いことなどもあげられる。捜査経験など無いに等しく、鑑識設備も無い状況で、治安部隊は自白重視の捜査方法に依存し、それが更に、取調べの際の人権侵害を助長している。

「確かに深刻な問題はある。しかし、そのどれもガザ及びヨルダン川西岸における治安部隊の虐待行為を正当化するものではない。ハマスとファタハの指導者達は、この広範囲に及ぶ深刻な人権侵害を止めるよう命令すべきだ。そうすれば、こうした人権侵害を止めることができるはずだ。」と、ストークは述べた。