(ニューヨーク)-国際刑事裁判所(ICC)検察官のスーダン大統領に対する逮捕状請求は、ダルフールで行われている恐るべき犯罪に対する不処罰の終焉に向けた重要なステップであると、本日、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。2008年7月14日、ルイス・モレノ・オカンポ(Luis Moreno Ocampo)ICC検察官は、ICC第一予審裁判部に対し、人道に対する罪及びジェノサイド(集団殺害)罪の容疑で、オマル・ハサン・アフマド・アル・バシール大統領(Omar Hassan Ahmed al-Bashir)に対する逮捕状の発付を請求した。
「ダルフールにおける恐るべき犯罪についてのバシール大統領訴追への動きは、国家元首であっても法の下にあると示している。」とヒューマン・ライツ・ウォッチのインターナショナル・ジャスティス・プログラムのディレクター、リチャード・ディッカーは述べた。「容疑者がいかなる地位にある者かにかかわらず、証拠だけに基づいて判断を行うのが検察官の役割なのだ。」
ICCの予審裁判部は、逮捕状請求を認めるかどうか決定するため、検察官が提出した情報を詳細に検討する。予審裁判部が、バシール大統領がICC上の犯罪を行ったことを「信ずるに足る合理的な理由」があり、かつ、逮捕の必要性があると認める場合、逮捕状を発付することとなる。
2003年以降、スーダン政府軍及びスーダン政府が後ろ盾となっている民兵組織「ジャンジャウィード」は、ダルフールにおいて、対反政府勢力作戦の一貫として、極めて大規模に人道に対する罪と戦争犯罪を行ってきた。スーダン政府軍及びジャンジャウィードは、地上と空から一般住民を直接攻撃し、略式処刑、レイプ、拷問、財産の略奪を広範囲にわたり実行した。
2005年12月の報告書『蔓延する不処罰:ダルフールでの国際犯罪に対する政府の責任 (Entrenching Impunity: Government Responsibility for International Crimes in Darfur)』で、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、人道に対する罪及び戦争犯罪の容疑でバシール大統領を含むスーダン政府高官に対する捜査を求めた。こうした重大な犯罪について、これまでにスーダン政府高官は誰一人として、スーダンにおける裁判で処罰された者はいない。スーダン政府は、ダルフールの一般市民への意図的な攻撃を終わらせる意思をなんら示していない。それどころか、今日まで継続して攻撃を続けている。
「バシール大統領への逮捕状請求は、今日スーダンで続く不処罰の蔓延に終止符を打つための一歩と評価できる。」とディッカーは述べた。「だからといって、一般市民の保護及びダルフールで行われた人権侵害に対し法の正義を実現するというスーダン政府の責任が軽減されるなどということはあり得ない。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、スーダン政府に対し、安全保障理事会決議1769に定められたダルフール国連アフリカ連合合同ミッション(UNAMID)の配備を受諾したことに従うよう求めた。スーダン政府は、国際人道法上、ダルフールで援助を必要としている人びと、特に国内避難民及び難民に対する人道支援への完全、安全かつ妨害のないアクセスを確保する義務も負っている。
2005年3月31日、国連安全保障理事会は、ICCの検察官に対し、ダルフールの状況を付託した。2007年4月、ICCは、西ダルフールでの犯罪において主たる役割を果たした容疑で、アフマド・ハルーン人道問題国務大臣及びジャンジャウィード指導者アリ・クシャイブに対し、初の逮捕状を発付した。スーダン政府は、この2人の容疑者の引渡しを拒否してきている。2008年6月16日、国連安全保障理事会は、満場一致でスーダンにICCに対する完全な協力を要求した。
安全保障理事会への2008年6月のブリーフィングで、モレノ・オカンポICC検察官は、「軍隊、諜報部、外交機構、国家報道機構及び司法制度を含む国家機構全体を動員した犯罪の計画」の証拠を収集したと述べた。
ダルフールに関する国連国際調査委員会(UN International Commission of Inquiry on Darfur)の国連事務総長に対する2005年1月の報告書に基づき、安全保障理事会のICCへの付託が行われた。同報告書は、スーダン政府及び同政府が同盟するジャンジャウィード民兵が、国際犯罪に該当する国際人権法及び国際人道法の重大な違反行為を行っていることを明らかにし、ICCへの付託を強く勧告した。同委員会は、政府高官や軍司令官らを含む更なる調査を必要とする容疑者51人の非公開リストを作成。同リストはICC検察官に対して開示するべきとの勧告とともに国連事務総長に交付された。
「スーダン政府高官がダルフールにおける凄惨行為へ関与しているとされること自体は、ニュースでも何でもない。しかし、国家元首に対する刑事訴追の動きが始まったことは注目に値する。」とディッカーは述べた。