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カンボジアの人々が待ちわびた旧ポル・ポト政権幹部の起訴の準備が進んでいる。1975年から政権崩壊までの4年間で「大虐殺」によって約200万人が犠牲になったとされる事件を、カンボジア人と外国人の裁判官が共同で裁くカンボジアの特別法廷だ。

すでに検証作業も行われている。ツールスレン政治犯収容所では1万4千人以上が拷問・処刑されたが、この悪名高い収容所を生き延びた3人が元所長カン・ケク・イウ(通称ドゥック)と対面した。

しかし、今後、大虐殺を解明し、裁判を成功させるには多くの壁を乗り越える必要がある。

残念ながら、カンボジアの司法は独立性の欠如と腐敗で悪名高く、裁判所は一般市民に正義をもたらす場ではない。

カンボジアでは被告に弁護人がつくことも少ない。裁判官が被告人側の証拠採用をわざと拒み、裁判前に用意した判決を宣告するのが常識だ。政治的重大事件では、裁判官は政府の「指導」を受ける。

特別法廷は、こうした通常裁判とは異なり、国際基準を守ることになっている。

しかし、裁判官19人の顔ぶれは、政府の介入を恐れた国連の当初の反対にもかかわらず、過半数はカンボジア人となった。カンボジア側と国連側に分かれている法廷事務局では、カンボジア側で職員給料の一部が政府側に流れるといった不公正さも指摘されている。

公正な裁判を進めるためにはどうすべきか。まず、捜査、訴追の対象を限定しないことだ。これまでドゥックを含め5人が拘束されているが、1月末に日本などの支援国に示された予算計画は、あと3人しか拘束、訴追できない前提となっている。

だが、当然予想された一握りの人物の裁判だけで、人びとは特別法廷を信頼するだろうか。大勢の人びとを苦しめた旧ポト派の重要人物や軍幹部などは今も自由の身でいる。

また、公正な裁判には証人や被害者の保護プログラムの速やかな実施も欠かせない。これなしには訴追自体さえ困難だ。

支援国は、国際捜査官らが十分な捜査で追加訴追でき、かつ被害者が裁判に参加できるよう特別法廷を支援すべきだ。

日本など各国政府は約170億円相当の追加拠出を求められている。拠出にあたっては、条件として特別法廷の運営の透明性や不正防止など、抜本的改革を呼びかけるべきだ。

日本は既に多額を拠出し、上級審判事を出している。改革をリードする格好の立場にある。特別法廷は、主要支援国のこうした要求と努力があって初めてカンボジア市民が待ちこがれた真の正義をもたらす場になる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ 上級調査員(カンボジア) サラ・コルム

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