カンボジアのフン・セン首相が6月に来日した。安倍首相は、さらなる経済援助を約束し、「民主主義と法による支配に向け、カンボジアは近年着実に進展しつつある」と述べた。

 だが、カンボジアがこうした分野で進展していないことは、国連の人権報告書ではっきりと指摘されている。過去10年、フン・セン首相はクーデターに関与しただけでなく、政府に批判的な人たちを拘束し、メディアに圧力をかけ、平和的なデモを弾圧するなど人権侵害を行ってきた。

 一方、この10年間、各国政府はカンボジアに対し、60億ドル(約7200億円)以上の援助をしてきた。援助額はカンボジア国家予算のほぼ半分にあたり、日本が第1位の援助国だ。だが、汚職や悪い統治(バッド・ガバナンス)が原因で効果がほとんど上がっていないのが現状だ。

 日本政府は、カンボジアの状況がいかに悲惨かを知っているはずだ。日本は70年代に200万人を虐殺したとも言われるポル・ポト派を裁く特別法廷の設置に対し、日本は国際社会の拠出額の半額を負担する。だが、フン・セン首相は、審理開始を遅らせ、すでに予算の半分が浪費されたが、容疑者の起訴すらされていない。

 NGOのグローバル・ウィットネス(本部・ロンドン)が6月、カンボジア国軍、警察などが森林の違法伐採に関与し、その収益がフン・セン首相の警備隊に流れているとする報告書を出した。政権は報告書の発禁・回収を命令した。

 カンボジア政府は、何度となく人権状況の改善や、よい統治の実現を約束してきた。しかし、約束はずっと守られてこなかった。

 6月半ば、プノンペンで、カンボジア支援国による年次会合が開かれ、18の政府と五つの国際機関がカンボジアに対し、1年間で計約7億ドル(約840億円)の追加援助をすると約束した。今回初めて中国もこの会合に参加。日本は第1位の援助国で、1億1200万ドル(約134億円)の拠出を約束した。

 安倍政権は、外交の柱として人権や民主主義に重点を置くと明言している。しかし、6月のフン・セン首相の訪日と援助の約束がその実践だというならば、日本外交は何も変わっていないと言わざるを得ない。

 アジアの民主主義国のリーダーである日本は被援助国に対し、人権状況の改善や法の支配の実現を要求すべきだ。カンボジアにも今度こそ約束を守るよう本気で求めるべきだ。そして、ビルマ(ミャンマー)やスリランカなど人権侵害が報告される国々に対しても積極的に声をあげるべきだ。

 特にこうしたアジアの国々に対し、中国が人権状況にかかわらず多額の援助をするようになったいまだからこそ、その必要性はますます高まっている。日本は人権と民主主義の価値観に基づくことではじめて、中国とは違う外交政策を示すことができるのだ。

ブラッド・アダムズ ◇ カンボジアの国連事務所で勤務後、02年から国際人権監視団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」(本部・ニューヨーク)アジア局長。60年生まれ。米国人。