ビルマ(ミャンマー)の反政府デモを取材中に、日本人カメラマンの長井健司さんが射殺された事件は、日本に住んで20年になるヤンゴン出身のマイケルさん(38)に、複雑な思いを抱かせている。

「長井さん殺害の光景を見て、日本で民主化運動への支援の輪が広がっている。ただ、今回の事件の前から、はるかに多くの人々が弾圧され、虐殺されてきたことも考えてほしい」

ビルマの軍事政権は長年、民主化デモを武力で押さえ込んできた。88年のヤンゴンでのデモでは市民や僧侶、医療関係者まで標的になり、同年9月には3千人が殺害された。ビルマ全土では、約1万人が犠牲になったとされる。

「日本政府は今度こそ、民衆の側に立ってくれるかもしれない」。マイケルさんの期待は膨らむ。

軍事政権は軍政を敷いた62年当初から、日本の援助に大きく依存していた。90年代半ば、日本の援助額は経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会メンバー国全体の9割以上を占め、対ビルマ貿易も伸びた。その後、援助や投資は減少傾向にあるとはいえ、日本が主要な援助国であることに変わりはない。

今回、世界の眼前で丸腰の人々が撃たれ、殴られ、殺された。何百人もの僧侶が連れ去られ、活動家が逮捕されたが、この弾圧に対する日本政府の対応は残念だった。軍事政権の武力行使が明白になってから発表した談話はたった3行。「冷静な対応」を求める当たり障りないものだった。

一方、東南アジア諸国連合(ASEAN)は「嫌悪感」を表明し、米国は新たな制裁を発表。欧州連合も、国連安保理に「緊急の議論と制裁を含む更なる措置の検討」を求めた。

いつもなら、日本はこうした民主主義国と足並みをそろえるが、今回はあいまいな批判に終止する中国やロシアと対応が似ていた。

長井さんの殺害後でさえ、政府の姿勢は明確さを欠いた。福田首相は「いきなり制裁するのではなく、各国と相談しながらやっていく」とするにとどめた。

政府は3日、ようやく援助の削減を発表したが、遅すぎた感が否めない。

軍政は、経済をどん底に陥れ、表現の自由を抹殺し、拷問を常用し、非ビルマ民族に無数の戦争犯罪を繰り返し、反政府勢力との対話にも応じない。日本政府が、日本人の死という事態に至る前に、手を打てなかったのが残念だ。

これは、力強さに欠けた今の日本外交の典型とも言える。多額の援助で相手国との友好関係を築いてきた日本だが、もっと気前よく無条件にお金をばらまく中国に勝てなくなっている。

今こそ、軍政の幹部を標的に制裁を科し、経済的・政治的圧力をかける諸外国と協調すべきだ。長井さんや僧侶たちの殺害といった人権侵害への国際的組織による調査を求めるべきだ。

新たなビルマ政策を打ち出し、倫理面でのリーダーシップをとる新たな日本外交の端緒になるよう願う。さもなくば、真の友人とすべき人たち、例えば、マイケルさんのような人たちの信頼も失うだろう。

アジア・アドボカシー・ディレクター ソフィー・リチャードソン