ブラジル・アマゾンの中心地ベレン市で11月21日まで、COP30(国連気候変動枠組条約第30回締約国会議)が行われました。このCOP30の開催に合わせて設立された国際熱帯林保護基金(TFFF)は、熱帯雨林を保護する国々に資金を提供し、世界で最も生物多様性に富む生態系を守る先住民族や地域コミュニティに直接資金を配分するものです。
日本政府は、TFFFへの支持を宣言した53カ国の一つに名を連ねました。しかし、日本は世界5大経済国の一つであるにもかかわらず、「資金を拠出する予定はない」としています。日本政府は気候変動対策に取り組むことを約束するさまざまな国際条約に署名していますが、森林破壊に対処することなくして、効果的な気候変動対策などありえません。
森林破壊は、森林が伐採された土地でしばしば行われる営利目的の農業と相まって、気候変動を引き起こす二番目に大きな人為的要因です。森林破壊はさらに、森林から食料、薬、文化的アイデンティティを得ている何百万人もの人びとの生計を支える生態系を壊滅的な状態に追い込みます。
日本政府は、世界的な森林破壊の対策を強化するため、TFFFのような取り組みを支援すべきです。また、日本政府は開発援助を通して、森林居住民の土地の権利の拡大、農業の近代化、食料・木材生産と森林破壊の切り離しに関する政策を財政的に支援するべきです。
こうした財政的な支援だけでなく、日本が活用できる最も強力な手段は、国内市場そのものです。適切な規制を行うことで、日本はその購買力を活用し、森林破壊のない貿易を支援することができます。日本の木材製品消費自体が環境破壊を助長してしまっていることに照らすと、このような規制は重要です。
日本の発電所では石炭に代わって木質ペレットの燃焼が増加しており、東南アジアに残された最後の熱帯雨林がこれらのペレット製造のために伐採されています。この切り替えは、木質ペレットが「グリーンな」代替燃料であるという誤った前提に基づいています。実際には、石炭も木質バイオマスも、持続可能なエネルギーの未来にそぐわないものです。
環境監視団体らが発表した報告書によると、日本は2021年から2023年にかけて、インドネシアの木質ペレット輸出量の38%を輸入しました。インドネシアの複数の島々で、先住民族の居住地域内にある生命維持に不可欠な熱帯雨林を含む、生物多様性と炭素貯蔵量に富む独特の熱帯雨林がこれらのペレット製造のために伐採されています。
マレーシアでも同様の事態が進んでいます。 私は、マレーシア7大木材企業の一つである木材コングロマリット「シン・ヤン・グループ」(Shin Yang Group)傘下のマレーシア企業 Zedtee社 が、サラワク州の先住民族の同意を得ずに先住民族の居住地で伐採を行った実態を調査しました。先住民族コミュニティが抗議すると、同社は土地を奪うために住民を追い出そうとしました。
サラワク州政府は、企業の法的責任を追及するどころか、先住民族の村を破壊し、抗議する人びとを逮捕すると脅迫しました。このコミュニティは今、一晩のうちに強制立ち退きをさせられ、住むところを失うのではないかという恐怖に苛まれています。
シン・ヤン・グループは、自社の木材製品(木質ペレットを含む)の市場として日本を紹介しています。フランス、オランダ、日本、韓国は、サラワク州産木質ペレットの主要輸入国です。ヒューマン・ライツ・ウォッチの問い合わせに対して、シン・ヤン・グループは回答せず、Zedtee社は不正行為を否定しました。
日本は国内市場を活用し、国内で販売される商品が森林破壊や人権侵害行為に関与しないことを義務付ける法律を制定すべきです。これにより、アジア地域において持続可能な製品のための大きな市場が創出されると同時に、域内の森林に対する日本のエコロジカル・人権フットプリント(環境と人権に対する影響)にも対策が講じられます。
日本は2016年に「クリーンウッド法」(合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律)と呼ばれる重要な法律を制定し、輸入木材製品が合法的な産地由来であることを義務付けています。しかし、違反に対する罰則が非常に軽く、主要な企業であればオペレーションコストとして容易に吸収できてしまいます。 罰金の上限はたった100万円です。
クリーンウッド法を真の抑止力とするためには、次の2点を大幅に改正すべきです。
まず、欧州連合(EU)の森林破壊フリー製品規則(EUDR=欧州森林破壊防止規則)に準拠し、木材製品の輸入が森林破壊や人権侵害行為を伴わないことを義務付けるよう法改正を行うべきです。EUの新たな市場要件は、貿易相手国に、森林と森林居住民をいっそう保護するような重要かつ前向きな改革をすでに促しています。日本が同様の基準を導入すれば、このインパクトをさらに高められるでしょう。
次に、クリーンウッド法の執行メカニズムを見直し、真に抑止力のある罰則を導入すべきです。企業の年間収益の一定割合で罰金を算定することも一つの方法です。 繰り返し違反した企業には、政府調達契約への応募を一時的に禁止することも検討すべきです。
以上の2つのアプローチ、すなわち森林と森林保護者を対象とした気候変動対策資金の創出と、企業を対象とした規制は、まさに「飴と鞭」といえます。 一方がなければ、もう一方も機能しないのです。
日本経済は世界の森林、特に東南アジアの森林に大きなエコロジカル・人権フットプリントを持っています。 日本は今こそこの責任に真剣に向き合うべきです。