米国のドナルド・トランプ大統領と中国の習近平国家主席が、10月30日に韓国・慶州で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて会談する。メディアの見出しは貿易と関税に集中するだろう。が、大国同士のボクシングマッチへの脚光や、米中競争が世界経済に及ぼす影響への懸念から少し離れたところにある影に潜むものの方がはるかに不穏だ。
この会談は、権威主義の激化、民主主義の後退の加速、そして国際秩序の全体的な悪化が進む中で行われるが、そもそもの原因は、主にトランプ大統領と習主席が国際人権制度を攻撃していることにある。
国際規範への攻撃は中国と米国のいずれにおいても、自国内での人権侵害と関係がある。
中国では習主席が、2012年末の政権発足後、普遍的価値や人権を含む7つの政治的「危機」を明白に強調した。以降、弾圧が中国全土で激化し、国境周辺から国外にまで波及。中央政府はウイグル系住民たちを人道に対する犯罪の対象にし、香港の自由を奪い、海外の離散民コミュニティへの嫌がらせと監視を拡大した。
米国では、トランプ大統領が就任からわずか9カ月で、最初の任期中に開始した民主主義的規範への攻撃を急進化させた。政権は今や、米国民主主義統治の根幹を脅かし、憲法上の牽制と均衡の制度を無視し、自らに批判的とみなされる機関を威嚇している。ワシントンD.C.をはじめとする各地に州兵を派遣し、不当な移民の捜査や適正手続きなき強制送還を大幅に拡大した。
国際舞台でも両首脳は、人びとが持つ固有の尊厳や法の支配への敵意を隠さず、国連の中核をなす人権基盤とその多国間機関を公然と揺るがす動きをしてきた。重大な国際犯罪の最後の手段となる国際刑事裁判所も、両国それぞれの方法で弱体化させようとしている。
米国は国連への任意拠出金を削減し、APECに参加する各国政府が数十年にわたって援助してきた多くの国連機関から離脱。これらには、世界保健機関や国連人権理事会、そして伝染病や残虐犯罪、気候変動等、世界的な取り組みを推進する多国間機関がある。
中国は長年、国連において多国間主義の擁護者を自称してきたものの、自国の人権状況に対する国連での批判を攻撃的に封じ込めてきた。国連人権機関への資金拠出停止を繰り返し試み、市民社会、人権活動家、平和的な抗議活動に関する国連決議を阻止あるいは骨抜きにし、「ウィンウィン協力」といった一見無害に見える概念を提唱して説明責任の概念を希薄なものにしようとしている。
こうした国連システムに対する行動は、ロシアによる同様に破壊的な行動と並んで、国際人権システムや多国間アクションを解体するものであり、地政学的な強さが優位となるような世界的な無秩序状態に固める目的があるようにみえる。
国際システム、人権法、民主主義の原則に対してこれほどまでに敵対的な態度を示す指導者ふたりが主導するサミットにおいて、人権を尊重する民主主義国家はどのような姿勢をとるべきか。
答えは勇気と信念、だ。
APEC首脳会議に出席する民主主義の指導者たちは、人権と民主主義の原則は国際法に定められた普遍的な基準であることを強く再確認すべきだ。国連システムと国際法の支配を臆することなく擁護しなければならない。中国と米国による多国間機関への攻撃に公然と反対を表明し、国連資金拠出への復帰および維持を両国に強く求めるべきだ。
民主主義国家の政府は、アジア地域の人権活動家や市民社会への被害を軽減するため、「アジア民主主義防衛基金」の設立を公約すべきだ。この基金は、弾圧の激化と米国の対外援助削減によって、ますます危険にさらされている人権活動家や独立系ジャーナリストにとって重要な命綱となるだろう。
民主主義国家の指導者たちは、アジアおよび世界各地の民主主義諸国に安全な避難場所を設置する行動計画を策定すべきだ。そうすることで、現在亡命中の活動家やジャーナリストの多くが、引き続き効果的に活動を続けられるようになる。行動計画には、カナダで設置されたような、人権活動家のための特別な再定住ルートを含めるべきだ。これにより、国境を越えた弾圧などから活動家を保護することができる。
米国と中国政府による国際秩序への攻撃は、世界で多くの政府が何十年もの間、深く関心を寄せ、援助してきた国際機関やその取り組みを損なっている。APECに出席する民主主義国家の政府は立ち上がり、国際システムとその重要な仕組みおよび機関を守る必要がある。
もう一方の選択肢、つまり縛りのない権威主義と世界的な無法状態の受け入れは、何人にも持続不可能で、かつ安全でないことは、20 世紀の歴史家なら誰もが知っている。