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カンボジア:改正国籍法が成立 国籍剥奪が可能に

反逆罪を起訴する法律、反政府派の圧殺が目的か

カンボジア・プノンペンの国民議会、2019年5月7日。 © Daniel Kalker/picture-alliance/dpa/AP Images

(バンコク)―カンボジアの国民議会は2025年8月25日、改正国籍法を可決・成立した。これによりカンボジア政府は、与党カンボジア人民党が支配する司法の場で、反逆罪や「外国勢力との共謀」で有罪とされた者の国籍を剥奪できるようになったと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した。改正国籍法は国民、帰化による国籍取得者、二重国籍者から国籍という最も基本的な保護を奪うものだ。

「カンボジア政府は、カンボジア人かどうかを決定する広範な権限を裁判所に与えることで、反政府派を沈黙させる危険な道具を作った」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理ブライオニー・ラウは述べた。「改正国籍法は国籍を持つという基本的な権利を損なうものであり、活動家、ジャーナリスト、野党政治家、一般市民に、無国籍者になる恐れをもたらすものだ」。

前首相で現上院議長のフン・セン氏は、法務大臣に対して「外国と共謀してカンボジアの利益を損なう」カンボジア人の国籍剥奪を検討するよう指示したと、6月27日に明らかにした。そして「もし外国と共謀してカンボジアの利益を破壊する計画を持っている者がいるなら、恐怖を抱くべきだ。そのようなことを企んでいるのであれば、カンボジア国民であるべきではない」と述べた

憲法評議会は7月2日、憲法第33条の改正を承認し、国籍剥奪を禁じた条項を削除した。7月11日、国民議会は憲法第33条の改正全会一致で成立し、「クメール(=カンボジア)国籍の取得および喪失、ならびにクメール国籍の剥奪は法により決定されるものとする」とした。上院は7月15日にこの改正案を承認し、国王は7月下旬に改正を施行した。

憲法改正に続き、国籍法改正案が8月25日に国民議会で審議され、出席した120人の議員全員の賛成により可決・成立した。

8月24日、カンボジアのNGO(非政府組織)50団体の連合体が共同声明を発表し、改正国籍法が、曖昧な表現が用いられていることで「国民をエスニシティ、政治的見解、発言、活動に基づいて標的にする」ために使われかねないと警告した。また、政府が「誰がカンボジア人であるかを恣意的に決定する権限を持つべきではない」とも述べた。

サー・ケン内務大臣は反対派の懸念を取り除こうとし、この法律は「裏切り者にのみ適用される」と述べた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、カンボジア当局が「反逆」や「外国勢力との共謀」といった政治的動機に基づく容疑を用いて、政府を批判する人びとや野党指導者に嫌がらせや訴追を行ってきたことを長年にわたり記録している。

国家には国籍を決定する広範な裁量があるとはいえ、今回の改正国籍法は国籍の権利に関して国際人権法が定める制限に違反していると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。世界人権宣言第15条は、「すべて人は、国籍をもつ権利を有する」、「何人も、ほしいままにその国籍を奪われ[る](……)ことはない」と定める

この原則は、市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)第12条第4項、子どもの権利に関する条約第7条および第8条にも組み込まれている。カンボジアはこの2つの条約を批准している。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、国籍の権利と恣意的な剥奪の禁止は「国際法の基本原則」であり、すべての国家に拘束力があることを強調している。

この法律には無国籍状態を生じさせるリスクがある。UNHCRは、無国籍者がしばしば基本的な権利やサービス、例えば医療、教育、移動の自由を否定されることを指摘している。無国籍者は仕事を得ること、学校に通うこと、結婚すること、移住すること、または自国に戻ることができない可能性がある。カンボジアの市民社会団体は、「もし私たちがカンボジア国籍を剥奪されれば、私たちが母国で持っているすべての権利の基盤を失うことになる……。私たちは自国で無国籍者、無権利者、そして囚人になるリスクを負う」と警告した

「カンボジア政府は、国籍の喪失の脅威を政治的武器として使うことで、カンボジアが負う国際人権法に対する責任を無視している」と、前出のラウ局長代理は述べた。「関係国政府はカンボジア政府に公の場で強く働きかけて、現政権に反対する人びとに対する最新の攻撃を止めさせるべきだ」。

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