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オランダ・ハーグの国際刑事裁判所、2024年4月30日。 © 2024 Peter Dejong/AP Photo

外務大臣 岩屋毅 殿

私たち日本の下記諸団体は、日本政府に対し、重大な国際犯罪に対する正義実現のための最後の砦である国際刑事裁判所(ICC)の国際的な使命を損なう動きからICCを守るよう要請すべく、この書簡を差し上げております。ICCに対する強力かつ確固たる支持国たる日本は、今回のような重大な局面において、ICCの側にたってこれを支持すべきです。

ドナルド・トランプ米大統領は2025年2月6日、ICC職員やその活動を支援する人々の資産凍結と入国禁止を認めるという過酷な大統領令を発令し、現時点では、ICC検察官に制裁を科しています。

この大統領令の目的は、戦争犯罪や人道に対する罪の容疑で米国・イスラエル政府の高官らがICCで裁かれることからかばうため、と明らかにされております。ICC裁判部は2024年11月、ガザでの戦争犯罪及び人道に対する罪の疑いで、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアヴ・ガラント元国防相に逮捕状を発行しました。また、ハマスの軍事組織であるカッサム旅団の総司令官、ムハンマド・ディヤーブ・イブラーヒーム・アル=マスリー(通称ムハンマド・デイフ)の逮捕状も発行しました。2025年2月、ICC裁判部は、検察局がデイフ氏の死亡を立証するのに十分で信頼できる情報を提出したため、同氏に対する手続きを打ち切っています

逮捕状に対するICC加盟国の反応は一様ではありません。遺憾なことに、ハンガリーは先日、ネタニヤフ首相を逮捕し引き渡す義務を遵守しませんでした。他の加盟国の政府関係者も、義務を守らないと明言したり(リンク12345)、裁判所の逮捕状を執行することを約束していません。加盟国は、二重基準を回避し、被害者や被害地域のために裁判所の正当性を維持するため、あらゆる状況において、協力や逮捕状の執行を含め、一貫してICCのマンデートを支持することが極めて重要です。

米国による制裁は、制裁対象者に留まらない深刻な影響を生じさせるとともに、ICCが世界中でそのマンデートを果たすために必要なサービスを利用できなくなる事態を生じさせかねません。本大統領令は、きわめて重要な捜査にたずさわるICC職員とスタッフを威迫するだけでなく、被害者を支援する市民社会組織なども含むICCとの幅広い協力関係に対する萎縮効果を及ぼすよう設計されているとみられます。

本大統領令は、ICC自体、市民社会組織、ICC締約国の一部(リンク1234)、国連幹部人権専門家など多くの関係者から強い非難を受けました。

日本もメンバーであるICC締約国会議事務局(the Bureau of the ICC Assembly of States Parties)は、米議会下院でICCに制裁を科す法案が可決されたことを受けて2025年1月、ICCの独立性、高潔性(インテグリティ)、公平性を損なう試みを遺憾とする声明を発表しましたが、私たちは同事務局の行動を支持します。

一方、私たちは、日本がICC締約国のうち79ヵ国が署名した2月7日付の声明に加わらなかったことを遺憾に思います。この声明はICCへの「揺るぎない支持」を再確認し、制裁措置が裁判所のマンデートを損なう可能性を強調するとともに、裁判所がその重要な業務を引き続き遂行できるよう確保することへのコミットメントを示しております。

この声明の署名国一覧に日本が含まれていないことは目を引きます。特に、日本は、ICC締約国のうち地域を超えた94ヵ国がICC関係者を威迫する動きが強まりつつある状況を踏まえて発表した2024年7月の同趣旨の声明に賛同していたにもかかわらず、です。

今回の対応はまた、ICCへの強い支持を明確にしてきた日本のこれまでの声明との対比でも際立っています。日本は他の締約国とともに、2023年にロシア連邦がICC検察官及び現在ICC所長で日本人の赤根智子裁判官を含む現役および元ICC裁判官6人に逮捕状発行したことを強く非難しました。ロシア政府がこれらの逮捕状を発行したのは、ウクライナに関する進行中の捜査の一環として、ICCがロシアのウラジーミル・プーチン大統領に逮捕状を発行したことへの報復でした。

ICCとその職員らが標的となっている理由は、日本およびその他のICC全締約国から託されたマンデートを遂行しているからです。アジア太平洋地域に関する最近の動きには、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ前大統領の逮捕と移送がありますが、これは人道に対する罪の殺人容疑で発行されたICCの逮捕状に基づくものでした。この動きは、最も重大な犯罪に対するアカウンタビリティ(責任追及)確保のためのICCのグローバル性を再確認させるとともにその重要性を示すものです。ICC各締約国には、自らが創設した極めて重要な最後の砦(court of last resort)たるICCを守る責任があります。

以上のために、私たちは日本政府に対して次のことを求めます。

  • ICCが担う重要なグローバルなマンデートに対する支持を表明し、逮捕状の執行を含むICCへの協力義務を遵守するとのコミットメントを示すこと。
  • 米国による制裁措置を含めICCの重要なマンデートを損なうあらゆる試みを公に非難するとともに、米国に対し本大統領令の撤回を求めること。
  • 制裁を含むあらゆる強制的措置の影響から、ICC本体、ICC職員、ICCへの協力者を守るための具体的な措置を講じること。

世界中の重大犯罪の被害者のための法の正義が守られるかどうかは、存続の危機に直面するICCを支持・支援するというICC締約国の決意にかかっています。私たちは、日本(そしてすべての他のICC締約国)が、本局面に敢然と立ち向かうことを期待しております。

敬具

取りまとめ団体(2団体)

ヒューマン・ライツ・ウォッチ

ヒューマンライツ・ナウ

署名団体一覧(50音順 25団体)

アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)

一般社団法人かたわら

一般社団法人ピースセルプロジェクト

イラク戦争の検証を求めるネットワーク

大阪YWCA

株式会社オルター・トレード・ジャパン

京都YWCA

公益社団法人自由人権協会

公益社団法人 日本キリスト教海外医療協力会

国際人道プラットフォーム

特定非営利活動法人 アフリカ日本協議会

特定非営利活動法人 地雷廃絶日本キャンペーン

特定非営利活動法人ANT-Hiroshima

特定非営利活動法人APLA

特定非営利活動法人Piece of Syria

日本平和委員会

入管問題調査会

パレスチナと仙台を結ぶ会

ひろがれ!ピース・ミュージアムいたばし

ヒューマン・ライツ・ウォッチ

ヒューマンライツ・ナウ

武器取引反対ネットワーク(NAJAT)

BDS Tokyo

他 2団体署名

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